Rightship webiner
 印刷 2022年06月29日デイリー版1面

インタビュー 自動車船事業】川崎汽船常務執行役員、五十嵐武宣氏。環境対応で質的転換を推進

川崎汽船常務執行役員 五十嵐 武宣氏
川崎汽船常務執行役員 五十嵐 武宣氏

 前期の過去最高益で、課題だった財務体質の改善を果たした川崎汽船。今後の事業展開では自営事業の強化が大きな課題となる。その自営事業では特に自動車船事業への期待が高い。川崎汽船で自動車船事業を担当する五十嵐武宣常務執行役員に聞いた。(聞き手 幡野武彦、山田智史)

 ――中期経営計画では、成長をけん引する事業の一つに自動車船を挙げている。計画に沿った基本方針を教えてほしい。

 「世界の自動車産業は現在、コロナ禍による半導体不足などで苦闘しながら、環境対応を含めて質的に大きく変化しつつある。自動車船もそれに合わせ、環境をキーワードに事業の質的転換を進めていく必要がある。顧客需要に密着した環境対応ニーズに応えていくことで、市場成長を上回る高成長は可能だ」

 「当社は長年培ってきた自動車メーカーとの強固な関係があり、新しいニーズを把握しつつ、お客さまに密着して一緒に行動していくことで成長を実現していきたい」

 「環境対応を含む事業の質的転換とお客さまとの共同歩調、この二つによってさまざまな課題を乗り越えながら高成長を実現していきたいと考えている」

■用船払底継続も

 ――足元の自動車船の需給環境は。

 「半導体不足などによる自動車メーカーの減産やウクライナ危機などもあり、完成車の世界販売台数や海上輸送量はコロナ禍前の水準には届いていない。ところが足元の需給環境は非常にタイトな状況だ。これは、コロナ禍での老齢船退役に加え、海上輸送量の回復スピードが想定以上に早く進んでいるからだ。ただし、海上輸送需要自体がコロナ禍前の水準に戻るのは、2023年後半とみている」

 「回復の原動力は中国の輸出需要が大きい。中国発が伸びたのはコロナ禍以降の21年から。21年の中国発完成車輸出量は20年の約3倍以上膨れ上がった。さらに航海距離の長い欧州向けが多く、需給を引き締めた」

 「需要回復が急ピッチに進む一方、供給面は新造船の竣工が多いのが24―25年とかなり先なのでズレが大きい。さらに来年からはEEXI(燃費性能規制)やCII(燃費実績格付け制度)がスタートする。こうした規制を考慮して安全運航の面から老齢船の前倒し退役が発生すれば、さらなる供給減もあり得る」

 「このほか、コンテナ船ほどではないものの、世界的な港湾混雑に伴う滞船も影響している。滞船によって船の回転率が低下し、輸送能力の減少につながっているからだ。これによる輸送能力の削減幅は1―2%というレベルでは済まないとみている」

 「こうした状況下、用船市場での自動車船は払底して余剰船は足元ではない状況だ。今の自動車船の需給状況は3―4年先まで続く可能性がある」

 ――中期経営計画では新興BEV(電気自動車)顧客との取引拡大も明記した。

 「中計では市場成長を上回る高成長をうたっており、新しい顧客層の取り込みは重要課題と言える。ただし、当社の事業は、基盤となる既存のお客さまとの契約・関係があってこそ。既存のお客さまへの輸送責任をまずはしっかり果たしていくことが最重要課題。そうした基盤に立脚した上で、BEVなど新しい顧客層の掘り起こしを進めていく」

 ――ハイ&ヘビー(背高・重量貨物)への対応は。

 「ハイ&ヘビーの取り扱いでは海外船社が先行するのは確かだが、それでも当社は邦船の中では最も強く取り組んでいると認識している」

 「こうした貨物の取り込みではハイ&ヘビーに対応できる本船能力が重要だ。新造船隊の整備ではこうした点も考慮に入れながら計画している」

 「このほか、エンド・ツー・エンドでの陸上完成車物流サービスの事業化もしっかり進めていく。これまでも規模はそれほど大きくないが、PDI(納車前点検・補修・部品補給)など陸側での付加価値サービスを豪州やベトナム、フィリピン、チリ、ブラジルなどの主として新興地域で展開してきた。今後はお客さまと連携しながらサービス品質を上げて、この分野での事業の拡充を図っていきたい」

■大型船中心に整備

 ――現在の自動車船隊の規模は。

 「22年6月上旬時点で87隻(近海船含む)。実はコロナ禍前よりキャパシティー自体は増えているが、それでも全ての需要を満たせていない。船隊整備ではLNG焚(だ)き自動車船8隻(自社発注6隻、船主起用2隻)を発注済みで、今後も計画的に整備を進めていく」

 「新造船が竣工する一方、老齢船の引退もあり、船隊規模が大きく変動することはない。当社にとっての適正な船隊規模(隻数)は80隻台後半がひとまず目安となる」

 「隻数は大きく変わらないが、輸送力は増加傾向にある。コロナ禍最初の20年に小型船をスクラップし、その代替として大型船を調達したので、全体の輸送力は増えている。当社としては大型船を中心に船隊整備をさらに進め、より効率の良い構成にしていく」

 ――財務体質の改善が進む中、今後は自社保有船を増やしていくのか。

 「船の保有形態についてはまだ決めていない。事業戦略的な側面に加え、会社全体の最適資本構成の課題もあり、これらを考慮しながら検討したい」

 「それから当社にとっては4月の横浜港大黒C4ターミナル開業は非常に意義深い。当社グループにとって国内初の完成車ターミナルであり、本船・貨物のオペレーションにとっても利点は大きい。環境に配慮した最新鋭のターミナルとし、IoT(モノのインターネット)を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現し、付加価値の高いターミナル運営を目指していきたい」

 いがらし・たけのり 91(平成3)年川崎汽船入社。07年自動車船営業グループ米州チーム長、12年Kライン(ヨーロッパ)ロンドン、16年経営企画グループ長。19年執行役員、21年4月から現職。群馬県出身、55歳。