ドローンの利活用の現状-想定される海事業界への影響の考察-
 印刷 2022年06月24日デイリー版5面

船舶ファイナンスの実務と法務】(26)FPG執行役員補佐・大橋篤彦、TMI総合法律事務所パートナー弁護士・長田旬平。新時代の船舶ファイナンス

FPG執行役員補佐 大橋 篤彦氏
FPG執行役員補佐 大橋 篤彦氏
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 長田 旬平氏
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 長田 旬平氏

■実務と法務は車の両輪

 「海運ほど面白いものはない」

 これは、海運や船舶ファイナンスに従事する人々が異口同音に感じている思いだろう。もちろん楽しいことばかりではなく、苦労することも多々あるが、一度海運に手を染めるとなかなか抜けられない、抜けることを自ら選択しなくなるというのも事実ではないだろうか。

 この連載では、こうした海運の面白さをもっと多くの人々に知ってもらいたい、海運を学ぼうとしている初心者や中級者の方に幅広く、かつ正確な知識を持ってもらいたいとの思いから、その面白さを理解するために必要となる実務と法務に関する基礎知識をできるだけ分かりやすく解説してきた。

 ここまで前半部分で船舶ファイナンスの実務、後半部分で法務について述べてきたが、いずれも船舶ファイナンスを手掛ける上では中核となる知識である。どちらが欠けても船舶ファイナンスは成り立たない、いわば車の両輪ともいえるものである。

■実務における新しい動き

 船舶ファイナンスの実務については、年々さまざまな種類の案件が出てきており、それに合うスキームが考案されるなど、どんどん進化している。

 1990年代までは商社ファイナンスが中心だった船舶ファイナンスが、2000年代に入り銀行ファイナンスがこれにとって代わった。超円高時代を乗り切った後は、地方銀行が中心的役割を担う一方、メガバンクはマーケット変動の激しい船舶ファイナンスに消極的になるところもあれば、JOLCO(日本型購入選択権付きオペレーティング・リース)や、メガコンテナ船やLNG(液化天然ガス)船などの大型船・高額船案件に注力しているところもあり、金融機関の持つ目線が少しずつ変化しつつある。

 さらに、国内企業の資金需要低迷を受けて、融資先を失った地方金融機関が新たに船舶ファイナンスに進出する動きも見られる。

 船舶ファイナンス自体も、これまでの単純な金融機関による担保付きローンに加え、先に述べたJOLCO、投資ファンドによる出資、船舶融資型クラウドファンディングなど新しい手法が次々に生み出され、プレーヤーもさまざまな顔ぶれが新たに出てきている。

 さらに、これまで船舶の売買や用船仲介しかしてこなかったシップブローカーが、よりファイナンス的な要素の多い裸用船案件の増加に伴い、IRR(内部収益率)やキャッシュフロー分析といった金融知識なしには案件を決めることができなくなりつつある。つまり、シップブローカー業と金融業の融合が進んできているのである。

 また、船舶ファイナンスのアレンジ業務、工務関連サービスや船舶保有目的会社(SPC)設立アドバイスまでサービスの幅を広げ始めていることも大きな変化の一つだろう。いわば、ワンストップ・サービスの提供である。

 船舶自体も20年代に入ってくると「環境」が大きなテーマになり、LNGやアンモニア、さらに水素燃料なども話題になりつつある。この動きは日進月歩の感があり、急速に発展している。温室効果ガス(GHG)対策として、08年を基準に30年までに平均燃費を40%改善させること、50年にはGHG総排出量を50%削減することなど、従来型の船舶では対応できなくなることが想定されており、新たな技術開発が急務となっている。

 環境規制の影響を受けて海運業界がこれからどう変わるのか、数十年後にはどんな世界が待ち受けているのか。誰も正確なことが言えない中で、船舶ファイナンスを手掛ける金融機関にとっても悩ましい選択を迫られる場面も多くなっているが、少なくも地球環境に配慮しなければならないというベクトルは、業界全体の共通認識として世の中全体の流れと同じ方向を向いていることは確かである。

 こうしたさまざまな新しい動きの中で船舶ファイナンスを手掛けるには、やはり基本を押さえることが重要となる。現在のような大きな変化の中であるからこそ、まずは基本に立ち返り、目の前にある案件を正確な知識を駆使して分析すれば、リスクの所在もおのずと見えてくるし、そのリスクの意味することについて正確に理解することができるだろう。

 そして、そのリスクを法的な側面からコントロールしていくこともできるだろう。単に場当たり的に、その場しのぎで対応しても、結局リスクが排除できないことになってしまうことも多いが、基本を理解することでこうした問題点も解決できるようになるだろう。

 船舶ファイナンスにおけるリスクには、本連載第1回で述べたようにさまざまなものがある。最近の事例を見ると、モーリシャス沖の油濁事故、スエズ運河での座礁事故、国内では北海道・知床半島沖での旅客船の遭難など海難事故リスクが記憶に新しいし、マーケットの低迷による用船者破綻リスクが金融機関にとって大きな問題となったこともある。

 直近では、ウクライナ問題も発生しており、商船がミサイルで攻撃されることも実際に起こっている。こうした事態に対応するための知識も必要となってきている。

 また、1ドル=136円を付けるような円安が進んでいる中では、円高のリスクをいくら叫んでも、1ドルが100円を切るようなことは当面はないと考える人が大半だろう。しかし、1ドル=75円32銭という超円高は、わずか10年ほど前の11年10月31日に現実に起こったのである。

 一つ一つの具体的な事象は予測不可能なものであったかもしれないが、海難や戦争というリスクは、抽象的には古くから船主業の典型的なリスクとされているファクターであり、いくらでも予測することが可能だった事柄である。

 にもかかわらず、これらのいわば危機に備えた金融機関の管理能力や、実際これらの事態が発生した場合の対応能力は、案件組成時には意外と見落としがちである。多くの金融機関は、不動産における担保融資に積極的だが、これは不動産の処分などについて各金融機関が十分な知識と経験を有していることから、不測の事態が生じてもそれに対応できるノウハウを蓄積しているという背景が大きい。

 一方で、船舶についてはいったんこれらの事故が生じると大きなニュースになることが多いが、そういった事態が不動産のように頻発しているとは言い難い。よって、危機管理の実務経験やノウハウが豊富な金融機関はほとんどないというのが現状と言える。

 しかし、多くの金融機関が船舶ファイナンスに新たに進出しているという事実。金融機関にとっては、この溝を少しでも埋めることがポイントと言えよう。

■法務における新しい動き

  1.環境面に関する新しい動き

 法務面に目を向けても、幾つか環境に関する新しい動きが見て取れる。

 いわゆるカーボンニュートラルを目指す社会の流れに合わせ、海運の世界でもGHG排出に係るさまざまな規制が導入されているが、中でも既存船の燃費性能規制としてEEXI規制が来年1月1日から適用されることは、22年5月27日付の弊職(長田)による本紙インタビューで述べたとおりである。

 EEXI規制は、老齢船やエンジン効率の悪い船舶を市場から淘汰(とうた)させる方向に作用させる制度であることから、そのような融資対象船についてはフリート整理(売船)やスクラップの動きがこれまで以上に進むことが予想されるため、金融機関としても融資残高維持の観点から大きなインパクトを受ける可能性をはらんでいる。半面、LNG焚(だ)き、デュアル・フューエル(2元燃料)、水素、アンモニアなどの代替燃料船の開発・普及が進むとともに、融資対象船舶の高額化にもつながるだろう。

 船舶ファイナンスで環境に関わるイシュー(論点)と言えば、これまでは、油濁を伴う海難事故が生じた場合の事後対応に関するコベナンツ(誓約事項)などが中心だったが、燃費性能に係る一連の規制は船主(借入人)に対してプロアクティブな(先見的な)対応を求める内容になっている点で、一歩踏み込んだものとなっている。

 また、金融機関にとっても直接関係のある話としては、本連載第19回でも少し触れたが、ポセイドン原則(Poseidon Principles)の採択と普及がある。ポセイドン原則とは、金融機関による船舶融資について、国際海運からのGHG排出削減に対する寄与度を定量的に評価するための仕組みとして、19年6月に欧米の金融機関を中心にして採択された国際的な基本原則(Principle)である。有志の金融機関が自主的に策定したものであって、国際条約などとは異なる。

 日本でも、20年に三井住友信託銀行が参画したのを皮切りに、他金融機関も追随して参画行が増え続けている。同原則では、国際海事機関(IMO)のGHG 排出削減目標「50年における国際海運からのGHG 総排出量の最低50%削減(08年比)」に基づき、船種とサイズ別に年間のCO2(二酸化炭素)排出効率値(単位輸送当たりのCO2排出量)の基準値が規定されている。

 参画した金融機関は、融資対象船舶のCO2排出量を毎年集計し、各船舶および船舶融資ポートフォリオがIMOによるCO2削減目標に適合しているかを評価して削減貢献度を算出・公表することが要求される。

 そして、金融機関がポセイドン原則上の算出・公表義務を順守するためには、個々の融資対象船舶について船主による情報提供が不可欠であるから、ポセイドン原則に署名した金融機関が船舶融資を行う場合には、借入人(船主)に対し、船舶燃料消費情報などに関する開示義務を定めるコベナンツ規定が置かれることになる。

 ポセイドン原則については、21年末に海上保険版も発足しており、50年までのGHG排出量削減目標に向け、加盟企業(保険会社・P&Iクラブ)による海上保険ポートフォリオの貢献度の評価・開示が行われる。

 これらの取り組みから、船舶を保有・運航する企業として、船舶のCO2排出量のデータを収集し公表することが、社会的責任を超えた法的責任(契約上の責任)として求められる時代が到来したということができる。

  2.基準金利の指標に関する新しい動き

 また、本連載第18回の時点ではいまだ流動的な状況だったが、米ドルLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の一部テナー(1週間物、2カ月物)について公表が停止された21年12月末以降、新たに締結される融資契約では、LIBORに代わる代替指標を用いた基準金利の計算方法が導入されつつある。

 具体的にどの代替指標を用いるか、具体的な契約文言をどのように規定するか、という点についてはいまだ流動的な部分は残されているものの、現時点では、ニューヨーク連邦準備銀行による米国政府証券営業日に公表されるリスクフリーレー

ト(RFR)であるSO

FR(Secured Overnight Financing Rate、担保付き翌日物調達金利)を用いたレートによる算出が定着しつつある。

 中でも、CME Group

Benchmark Administrationが公表する1カ月、3カ月、6カ月のターム物レート(前決め金利)というものが推奨され、実際の契約書でもこれを参照する形で基準金利を採用する条項を規定することが増えている。

 後決め金利の場合には“Lookback without observation shift”という方法(金利の参照期間と金利の計算期間の日数を一致させ、金利の参照期間を数営業日前にスライドする方法)が推奨され用いられることが多い。融資契約上の文言が完全に確立するまでにはもう少し時間がかかりそうだが、いずれにせよLIBORのレートを参照する形で新規案件を組成することはもはやできないため、実務が定着するのも時間の問題と思われる。

■新しい時代に向けて

 ここまで全26回にわたり船舶ファイナンスの実務と法務について解説してきたが、これらに加えて船舶ファイナンスを推進する上で重要なのは、船主がデフォルト(債務不履行)に陥ったらどうするか、用船料の支払いが途絶えたらどうするか、本船がアレスト(差し押さえ)されたらどうするか、本船が海難に遭ったらどうするか、全損となったらどうするか、といったいわば「危機管理」上の問題である。

 このような、実務上遭遇する可能性のある不測の事態やその解決策などについても、実務面と法務面から解説したかったところではあるが、紙面の都合上これは別の機会に改めて紹介することとしたい。

 最後に、これまで本連載でご協力いただいた方々に、この場を借りて改めて厚く御礼を申し上げたい。海運の面白さは、一言で言い表すならば「人間関係の面白さ」ともいえる。人と人とのコミュニケーションなしには海運業界は成り立たない。そこで生きる素晴らしい海運仲間と共に、今後も日本の海運業界発展のために少しでも力になれたらと願いながら筆を置くこととする。

 本稿における意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であって、筆者らの所属する組織のものではない。

(おわり)

 おおはし・あつひこ 90(平成2)年早大政経卒、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。96年から船舶ファイナンスに従事、98年専門チーム立ち上げ。12年から船舶ファイナンスアドバイザーとして中国銀行出向。17年から現職。国内外の船舶オペレーティング・リース案件・船主向け船舶セールス&リースバック案件アレンジ業務・銀行向け船舶ファイナンスアドバイスなどを得意とする。米国公認会計士。65年4月生まれ。

 おさだ・じゅんぺい 04(平成16)年中央大法卒、07年弁護士登録。11年早大大学院法学研究科修了、13年英サウサンプトン大ロースクール(海事法コース)卒、14年TMI総合法律事務所に海事専門チームを設立、16年同事務所パートナー就任。ALBシッピング・ローファーム・オブ・ザ・イヤーなど受賞多数。船舶ファイナンス、海事紛争(用船・造船・売買船、海上運送、保険、海難など)全般を専門とする。80年12月生まれ。