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 印刷 2022年06月06日デイリー版6面

日本郵船・近海郵船など、まるで「天気図」 生物多様性を見える化。世界初、データベース公開

水中にある生物の排せつ物などに残された環境DNAを活用した魚類調査データベース「ANEMONE DB」の画面
水中にある生物の排せつ物などに残された環境DNAを活用した魚類調査データベース「ANEMONE DB」の画面

 日本郵船と近海郵船は2日、東北大学大学院生命科学研究科の近藤倫生教授、宮城県南三陸町、アースウォッチ・ジャパンと共に、環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータ「ANEMONE DB(アネモネデータベース)」をオープンデータとして運用開始すると発表した。環境DNA調査に関するビッグデータの構築、オープンデータとしての一般公開は世界初となる。

 環境DNAとは、生物が水中に放出した細胞や粘液、フンなどを採取し、生物由来のDNAを分析することで、どんな生き物が生息しているかを調査する手法。バケツ一杯の水から調査が可能で、生態系への負荷も少ない。

 ANEMONE DBは、この生物調査法で得たビッグデータのデータベース。生物の種類や分布が「生き物の天気図」のように見える化されており、専用ページ(https://db.anemone.bio/)からIDを取得すれば誰でもデータの閲覧ができる。

 南三陸町では、漁場保全のため、環境DNAを活用している。

 郵船と近海郵船は、近藤教授が主催する環境DNAを利用した生物多様性観測ネットワーク「ANEMONE」に参画。同教授が、1日設立した「ANEMONEコンソーシアム」にも発起メンバーとして参画している。

 郵船は2021年に、東北大学、北海道大学と共に世界初となる外洋の環境DNA観測トライアルを実施。158魚種の環境DNA検出に成功した。2日に開いた記者会見で同社の高橋正裕執行役員は「船舶が研究の役に立てるのであれば、積極的に要望に応えていきたい」と話した。

 同社グループの近海郵船は今夏、環境DNAのサンプリング範囲拡大とデータ拡充に向け、月に1回海水サンプリングを行う予定。海水採取には、常陸那珂(茨城県)―苫小牧(北海道)間を航行する定期船「ましう」を活用する。

 近藤教授は、生態系や生物多様性に関する課題は日々重要性を増していると述べ、生物多様性を回復させるネイチャーポジティブに向け、「産官学民それぞれが協力しながら再生していく姿を日本発で生み出すことができたら、この取り組みは成功だ」と語った。