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 印刷 2022年05月30日デイリー版1面

海運トップに聞く22年度の舵取り】(2)NSユナイテッド海運社長・谷水一雄氏、環境投資へ財務改善前倒す

NSユナイテッド海運社長 谷水 一雄氏
NSユナイテッド海運社長 谷水 一雄氏

 ――2022年3月期通期の連結業績で経常利益266億円、純利益235億円とNSユナイテッド海運として過去最高益を達成した。

 「長期契約による安定収益と、ドライバルク市況の上昇局面を捉えたフリー船隊の高収益の確保が重なり、好業績を収めることができた。為替も円安基調が進展し、業績を押し上げた。滞船や船員交代の停滞などの問題も引き続き起こっていたが、おおむね外部環境に恵まれた」

 「期中には主力のケープサイズバルカーで国内外の鉄鋼会社、資源会社との間で、5―6系列の長期契約を追加で獲得できた。20年度末までにリプレース(代替建造)を含む船隊整備も終了しており、荷主のニーズに合わせた船腹をこれらの契約に投入したい」

 ――フリー船が業績を押し上げたが、今後のエクスポージャー(市況変動にさらされる部分)戦略をどう考えるか。

 「長期契約による安定収益をベースに、耐えられるリスクの範囲の中で、フリー船を運航管理していくスタンスだ。当社の運航船隊はケープサイズ50隻弱をはじめ計120隻強(内航も合わせると約200隻)で当面この規模を維持する。だが、具体的にその中で『フリー船比率何割』と決めるのではなく、営業規模と船隊構成、つまりベースとなるがリスクにもなる固定船腹と柔軟な中短期用船のバランスを鋭意検討していく」

 「ドライバルクはボラティリティー(変動性)が大きい。荷主側もこれだけ変動が大きいとコストを安定化させたいはず。われわれも収入を安定化させたい。そのため、長期の輸送契約で安定収益を積み上げていくという基本は変わらない。長期契約で関係性が密になることは、今後の環境投資を進めていく上での土台にもなる。1回きりのスポットの関係ではそうはいかないだろう」

■想定以上の好業績

 ――22年3月期に獲得した利益の使途は。

 「中期経営計画の大きな時間軸は30年と長く置いているが、その第1期間として、20―23年までの期間を前半と後半に分け、前半は船隊整備で膨らんだ借入金の返済など、財務体質の改善を図る。後半はその改善した財務基盤を生かし、環境対応などの投資やその種蒔きを進めていくというのが青写真。前半は想定以上の好業績となり、より早く財務体力が付きつつある。ただ収入も増えているが船価も上がっており、環境関係も入れると次の投資は大きくなるので、今は財務体質の改善を前倒しして進める好機、だと思っている」

 「一方、環境投資に関しては、ゼロエミッション船他の開発の絵姿が描き切れていない。20年代後半に向けてリプレースを迎える大型船はこれからの課題。足元の船腹投資はバイオマス・非鉄や鋼材など輸送契約のある中小型船が中心」

 ――今期(23年3月期)の通期経常利益は前期比25%減の200億円と減益を予想している。

 「世界経済が、中国のロックダウン(都市封鎖)やウクライナ情勢など一定の下押し圧力はあるが、基本は急回復した昨年のコロナ禍からの回復基調にあることに変わりはない。同様に昨年は特殊要因もあり急騰したドライ市況もファンダメンタルズに基づきならされていく局面へ。ただファンダメンタルズはかつてと異なりより健全なバランスになっていく」

■DER0・8倍に改善

 ――財務指標での目標は。

 「負債の圧縮という観点ではネットDER(負債資本倍率)が目安になる。中期経営計画では1倍以下を目標としているが、前期を経て0・8倍弱に改善した。ただ他社に比べて、まだまだ胸を張れるレベルではない」

 ――ウクライナ危機による船員配乗への影響は。

 「当社が配乗する船員はフィリピン人とベトナム人のみなので特段影響はない。ただ、自社船でも一部外部に船舶管理を委託している船があり、その委託先の管理会社側で例えば、ロシア人やウクライナ人の代替として他国の船員を起用するなどの判断はあるかもしれない」

 ――ドライ貨物の荷動きをどう見通すか。

 「鉄鉱石については、ロシアの軍事侵攻を背景にウクライナからの輸出が停滞しているが、その分はブラジル、豪州、カナダが徐々にキャッチアップしていくだろう。問題は石炭だ。世界の石炭の供給力はかなり細っており、ロシア産が途絶えた場合の代替が、スムーズにはいかない可能性がある」

 「他方で、今後の経済安全保障、カントリーリスクなどを考慮すると、安心安全なのは英連邦諸国。日本の石炭の主要な調達先は豪州やカナダに限られてくるのではないか。幸い、資源大手、特に欧州にも2元上場する企業は欧州の投資家目線もあり環境問題への対応に積極的。鉱山から顧客につながるサプライチェーンではCIF(運賃、保険料込み)契約も多く船腹の環境対応に関心が高い」

 「低・脱炭素の機運も高まる中で、豪州との南北航路、カナダとの東西航路を日本の海運業界が、荷主と一体となってグリーンコリドー(緑の回廊)にしていく必要があると感じている」

■船員を再教育

 ――リキッド部門については。

 「当社のLPG(液化石油ガス)船は3隻で、うち2隻は長期貸船しており、安定収益を確保している。マーケット投入船は日々損益が変動しているが、リキッド部門は前期の業績はプラス(黒字)だった。今後はアンモニア輸送やCO2(二酸化炭素)輸送を念頭にリキッド部門を強化する方針で、その準備としてドライバルクの船員をリキッド対応させるためのリスキリング(再教育)を進めているところだ」

(随時掲載)

 たにみず・かずお 81(昭和56)年早大政経卒、住友金属工業(現日本製鉄)入社。05年原料部長、12年新日本製鉄(現日本製鉄)と経営統合し参与・原料第一部長、14年執行役員・原料第二部長、16年常務執行役員、18年6月から現職。京都府出身、63歳。