ドローンの利活用の現状-想定される海事業界への影響の考察-
 印刷 2022年05月26日デイリー版2面

検証 知床観光船沈没】(4)戸田総合法律事務所弁護士・海事補佐人 山本剛也氏・青木理生氏に聞く。海事弁護士から見た事故の背景と論点。社長個人に賠償責任も

■事業者に求められる対応とは

 ――今回のような観光船が大規模な人命を奪う可能性がある点について、今後、事業者はどのような対応が必要と思われるか。

 「事業者としては、一義的には実効性のある安全管理規程を作って、それを順守する。教育をしっかりする必要がある。やはり人が動かしているものであり、『人』が重要になってくるのは言うまでもない。内航船や漁船の乗り手も少ない中で、観光船の乗り手を見つけるのは難しいのも事実だ」

 「小型船舶操縦士免許の取得は比較的容易といわれており、アマ・プロさまざまな者がおり、その中で全面的に信頼して任せられるような人材を見つけるのは難しい面もあろう。従って、事業者自体が安全第一を旨とするような乗組員の教育、安全性を重視する会社でなければならない。人の教育はコストもかかるが、人が動かしているもので売り上げを立てている以上、そうした安全教育を重視していくことが必要だろう」

 ――「KAZU I」(カズワン)の船長が保持していた小型船舶操縦士免許とはどのようなものなのか。

 「総トン数20トン未満の小型旅客船の船長になるには、1級か2級の小型船舶操縦士試験の合格に加え、海難発生時における措置や救命設備などに関する安全講習を受けて『特定操縦免許』を取得する必要がある。しかし、これは20トン以上の内航貨物船や外航貨物船の船長になるために必要な『海技士』の免許とは質的にも制度上も大きく異なる」

 「海技士の免許は航海・機関・通信など細かく分類され、かつ、航海・機関については1級から6級まであり、乗船履歴が2年以上など相当な期間が求められる。かつ、筆記試験、身体検査や口述試験などの試験に合格し、さらに海技免状講習も受ける必要がある。しっかりした教育機関に入らなければ取得できない」

 「一方で、小型船舶操縦士免許では筆記試験がメインであり、民間の教習所に5日ほど通えば1級でも取得可能なほどだ。海技士の免許とは取得するプロセスも難易度も全く異なる」

 「最大の問題は、20トン未満の観光船は沿岸近くや平水(へいすい)区域という陸岸のそばを通りながら島を遊覧する航行模様がメインということで、技術的な意味でそれほど高度なものが求められていないようにも思えるが、一方で今回のカズワンのように最大66人もの人命を預かるという点でアンバランスにも思える実態がある」

■「大福丸」事故のケース

 ――今回のように船長をはじめ乗客乗員の全員が死亡または行方不明という事故の場合、事故の原因究明はどう進めればいいのか。

 「記憶に新しいところでは、韓国の『セウォル号』沈没事故(2014年4月)、イタリアの『コスタ・コンコルディア』の座礁事故(12年1月)などの事故がある。しかし、これらは生存者も多数存在し、船体自体も残っており、大型船なのでAIS(船舶自動識別装置)や航海を記録するVDR(航海情報記録装置)レコーダーといったものもあり、責任所在を明確化しやすい面もあった」

 「一方、今回のような小型船で生存者も不明という事故では、漁船の事案だが、16年12月に島根県沖で沈没した底引き網漁船『大福丸』(76トン)の事故がある。最終的に5人がお亡くなりになったことが確認され、4人が行方不明となり、乗員全員の生存確認ができなかったという悲痛なケースだ」

 「船も沈没してしまい、船内でどのようなやりとりがなされたのか、沈没前の船体がどのような状態だったかということが全く分からない。その事故で当職らはご家族側に立ち、船主に対し責任追及し民事裁判になった」

 「事故当時、船内で何が起きていたのか分からないことや、事故前に社長とどのようなやりとりがなされたのか分からないことなどが、社長に対する責任追及のハードルとなった。この点、今回のカズワンの沈没事故と共通している面もあるように思う。当時、大福丸に何が起こったのか、救助に行った仲間の船舶から撮影された写真や元乗組員や造船所など関係者の証言などを集めていった」

 「今回のカズワンでも事故当時の写真や映像などがなく、沈没直前と思われる電話での発言は参考になるが声だけの記録というのは、本当に何が起こっていたのかを探る証拠としては十分ではない」

 「大福丸についても、引き揚げ作業を行ったが、海底で変形した形跡などがあり、結局、決定的な事故原因というものを特定するのは困難だった。そこで、過去の修繕履歴、造船所の人の話、元乗組員の話など間接証拠を積み上げていった。最終的に会社に対する民事責任が認められた」

 「特筆すべきは法人としての会社だけでなく、社長と法人が一体化しているような事業形態であったことなどの特別な背景も踏まえ、社長個人にも賠償責任が判決で認められた点だ。会社が元取締役に退職金名目で会社財産を移し賠償金の原資を流出させた点についても問題視して取り戻しも認められた。会社に資力がないが、社長個人などに資力があるような事案もある。そうした事案の場合、社長個人に対して責任が認められることの意義は大きい」

■安全性の担保をどう取るべきか

 ――今回のケースでも悪天候予報の中で出航するなど安全性とコマーシャル的要請とのバランスの判断の誤りが一部指摘されている。どうすれば、こうした誤った判断を防ぐことができるか。

 「貨物船の場合、荷主から早く貨物を運送するよう船側にプレッシャーがかかるケースがある。船長の全くの人為的ミスというケースを除けば、こうした、コマーシャル的要請でのプレッシャーは、むしろ貨物船のようなBtoB(企業間取引)の事業の方が強いかもしれない。観光船や旅客船の場合、大口の顧客というものでなく、あくまで一般観光客、お客さまを相手にしている商売だ」

 「少なくとも安全性とコマーシャル的要請とのバランスという観点で言えば、事業者の判断で出航を取りやめることもできる。外部からのプレッシャーというより、むしろ自分たちの利益とのバランスが前面に出てくると思われる。その意味で、事業者の安全性よりも利益を上げることを優先するという姿勢が、誤った判断につながる可能性が相対的に高くなってしまう面がある」

 「観光船という人命を預かっている仕事とコマーシャル的要請の概念について、しっかりと区別をつけ、事業者自身が、乗客の安全と自己の利益が相対する局面があり得、ややもすれば自己の利益を優先してしまいがちであることを自戒しつつ、安全を最優先に船舶を運航するのが重要と思われる」

=おわり

 (このインタビュー連載は山本裕史が担当しました)