ドローンの利活用の現状-想定される海事業界への影響の考察-
 印刷 2022年05月20日デイリー版2面

検証 知床観光船沈没】(2)戸田総合法律事務所弁護士・海事補佐人 山本剛也氏・青木理生氏に聞く。海事弁護士から見た事故の背景と論点。原因究明、船体引き揚げへ

 ――18日時点で乗客24人、船長・甲板員の合計26人のうち14人が死亡、12人が行方不明という状況となっている。今後、考えられる事故の処理、事件性などの流れはどのようなものなのか。

 「刑事、民事、行政の3つの観点から同時並行的に事件調査、捜査、監査、責任追及が進む。刑事責任については、海上保安部が業務上過失致死の疑いで捜査しているようだ。『KAZU I(カズワン)』船長は行方不明のまま捜査対象になる。併せて、カズワン所有者の知床遊覧船(北海道斜里町)の社長についても捜査が進んでいくだろう」

 「行政上の責任としては船長が行方不明の状態だが、本来、海難審判により海技免状の停止や取り消し処分が審理される。海難審判手続きがあれば、そこで会社自体が指定海難関係人として海難審判の対象になり得る。しかし、これは海技免状を保有する船長がメインの手続きであり、その方が行方不明の状態で指定海難関係人だけで海難審判が実施されるのかは流動的だ」

■保険制度について

 ――責任保険について、知床遊覧船の社長は4月27日の記者会見で「今回は乗っていた1人につき1億円、26人乗りなので最大26億円」と説明している。カズワンのような観光船の場合、保険制度はどのようなものに一般的に加入しているのか。

 「海上運送法19条の2で保険契約の締結命令という条文がある。『国土交通大臣は、旅客の利益を保護するため必要があると認める時は、一般旅客定期航路事業者(注=不定期航路事業者にも準用規定あり)に対し、当該一般旅客定期航路事業者が旅客の運送に関し支払うことのある損害賠償のため保険契約を締結することを命ずることができる』となっている。命令できるとだけあって、必ず締結しなさい、とは書いていない。つまり、法律上は、必ず保険の付保が直接強制されるという規定の仕方ではない」

 「一方、実際の運用では、例えば当事務所が調べた範囲では関東運輸局では、事業の届け出案内の中に、どのような船を使うのか、明細書、その船舶の検査証書や検査手帳、航路図などの必要書類と一緒に、賠償責任保険証券の提出を求めている。そして、その内容は旅客1人につき保険金額が3000万円以上とある。法律上の規定で、3000万円以上という規定は見つからなかったが、通達で3000万円以上の付保という行政指導をしているようだ」

 「ところで、国際的にはアテネ条約というものがある。外航旅客船の事故に関する運送人の責任などを規律した条約だ。運送人の責任限度額が船客1人につき40万SDR(Special Drawing Rights=特別引き出し権、約6800万円)とされ、1人につき25万SDR(約4250万円)までカバーする責任保険の付保の強制、被害者が保険者に対して直接請求できる旨が規定されている。自動車でいう自賠責保険のイメージだが、限度額が低い」

 「英国、フランス、オランダ、ギリシャ、ノルウェー、パナマなどがアテネ条約に加盟している。こうした国では旅客船について責任保険を付保することが強制されている。日本では船客の損害について船主責任制限の制度を適用しないとしており、アテネ条約の責任制限の制度と相いれないから加盟していないし、今後も加盟する可能性は低いと思う。一方、このため、行政上の運用の中で、しかるべき保険に入らないと行政が届け出を受理しないという立て付けになっている」

■船骸撤去費用の行方

 ――沈没事故で必ず出てくるのが引き揚げの話になる。今回、船体の引き揚げの費用などについて、どのような考え方ができるのか。

 「貨物船などの場合、引き揚げ費用は船主責任保険(P&I保険)の話になるというのが多い。およそ船舶と呼ばれるものはすべからく沈没や座礁などの危険があり、場所や状況次第では船骸撤去を要する。旅客船であっても、この点は貨物船と変わりはない。船骸撤去の保険に関し、2020年10月1日から、船舶油濁等損害賠償保障法で関連規定が盛り込まれるに至った」

 「同法で、外航船・内航船ともに国際総トン数に応じ、これに対応するP&I保険の加入などが義務付けられている。具体的には、国際総トン数300トン以上の外航船・内航船などが船骸撤去に対応する保険の付保を義務付けられている。このように、船舶のサイズに応じて保険の手配が強制されている。枠組みについて、一般的な貨物船と旅客船とで区別はされていない。しかし、カズワンは20トン未満と小型なので、船骸撤去のための保険の手配は強制されていない」

 ――では今回、相当な費用がかかる特殊作業船を使って船体を引き揚げようとしている目的はどこにあるのか。

 「これだけの被害規模から見て、海上保安庁、国交省が事故原因の究明に向け引き揚げの必要性を強く感じているのだと考えられる。通常、水深30―40メートルを超えてくると沈没船を引き揚げるのは物理的に困難を極める。今回、水深120―130メートルともされるところから引き揚げるのは、事件性を判断する上で当該船舶が非常に重要な証拠物件と判断しているのではないか。国費を投じてでも確保したいと考えた可能性はある」

(随時掲載)