ドローンの利活用の現状-想定される海事業界への影響の考察-
 印刷 2022年05月19日デイリー版1面

検証 知床観光船沈没】(1)戸田総合法律事務所弁護士・海事補佐人 山本剛也氏・青木理生氏に聞く。海事弁護士から見た事故の背景と論点。安全管理規程の順守が焦点

山本氏(左)と青木氏
山本氏(左)と青木氏

 北海道・知床半島沖で4月23日、観光船「KAZU I(カズワン)」(乗客乗員26人)が沈没した。18日時点で死者14人、行方不明者12人となっており、事故原因について特定できていない。日本海事新聞ではこれまで多くの外航貨物船の海難事故を取り扱ってきたが「観光船」の海難事故を記事化した例はほとんどない。しかし、同じ船舶である以上、そこには一般の海難事故に共通する点もある。今回の「観光船」の沈没事故が外航や内航の「一般商船」の事故に対し、どのような点で異なる点や共通点があるのか。海難事故を数多く手掛ける戸田総合法律事務所の山本剛也弁護士、青木理生弁護士に今回の沈没事故の背景について聞いた。(聞き手 山本裕史)

■刑事、民事、行政で

 ――今回、海難事故の対象船が「観光船」ということでいわゆる一般的な貨物船と異なる。外航貨物船などの事故に対し、「観光船」の事故の場合、海事弁護士の視点としてどのような点が論点となってくるのか。

 「海難事故といった場合、これが漁船、観光船、外航貨物船、内航貨物船と船種が違っても基本的に海難事故として扱う点では同じだ。刑事責任、民事責任、行政法上の責任の3つが問われる」

 「今回の特殊性としては、会社の規模感や事業の実態などからすると、社長に対する業務上過失致死傷という刑事責任の立件が問題になる可能性がある。会社の社長自身が刑事責任を問われるということは、一般的な貨物船の海難事故では通常ない」

 「民事責任としては、乗客が運送対象のため、乗客の被害に関する賠償責任が問題となる。『観光船』というとかなり特殊なイメージを持つが、法的なカテゴリーとしては『旅客船』と位置付けられる。旅客船にはフェリーなども含まれる。フェリーは目的地への移動が主目的であるのに対し、観光船は移動中の観光が主目的という違いがある」

 「旅客船の場合、運送人責任を追及する根拠の一つは商法590条だ。これにより、運送人の過失が推定されるという意味で『過失推定責任』と言われる」

 「特殊性の一つは、旅客船の運送人は、船員の操船ミスなど『航海過失』の場合も責任を免れないという点だ。外航貨物船の場合は国際海上物品運送法3条2項により『航海過失』の場合は免責され得る」

 「また、旅客の人身損害に関する運送人の賠償責任は免除・軽減できない。例えば、人身損害の場合の運送人責任を旅客1人につき2000万円に制限する旨の特約は無効となる。旅客の人身損害に関する債権は船主責任制限制度も適用されない。この点は後述する」

 「旅客船を運航させるためには、海上運送法上、運航管理、安全管理の体制が整備された事業会社ということが必要になる。海上運送法などの規定に反した場合、立ち入り検査の対象となり、事業停止や許可取り消しといった行政責任が問われる」

 「カズワンは昨年に2度、姉妹船も一昨年に1度、海難事故を起こしたと報じられており、そうした事業者の事業を停止しなくてよかったのかどうかという意味で、過去の行政当局の責任追及の在り方も問題提起されている」

 「また、行政責任としては、海技免状に対する海難審判手続きもあるが、本件では開かれるか不明だ」

■船主責任制限の適用なし

 「民事責任に関して貨物船と大きく異なる点は、旅客の損害に関し、船主責任制限制度が適用されないことだ。貨物船などの場合、油濁発生により損害額が数百億円に達することもある。海上運送の社会的インフラという重要な側面などを踏まえて、船会社の責任範囲の制限を認めるのが船主責任制限制度である。しかし、旅客船についてはこの制度の適用が限定される。貨物船の場合は、無限に船主責任を認めると海運業が成立しないという政策的な保護が背景にある。一方、旅客船の旅客の損害に関しては事業者の利益よりも旅客の人命を重視するバランスを政策的に取っているように思う」

 ――知床観光船沈没事故の一連の報道の中で、「安全管理規程」「運航管理者」といった法令用語が出てくる。これは今回の観光船の海難事故に対し、どのような意味を持つ規定なのか。

 「安全管理規程を定義する根拠法としては海上運送法10条の3がある。これには、一般旅客定期事業者は安全管理規程を定め国土交通大臣に届け出なければならない、とある。そして、安全管理規程には運航中止の基準や安全確保のための運航管理の責任者としての運航管理者の選任に関する規定を定めることが義務付けられている」

 「カズワンは定期航路ではなく、不定期航路に当たる事業に用いられていたので、海上運送法20条の2で10条の3を準用するという立て付けになる。つまり、10条の3で定められている旅客船の定期航路事業に関する安全管理規程について、20条の2によって今回のような不定期航路事業についても同じく適用するということである」

■福知山線事故が契機に

 「この安全管理規程は2006年10月に海上運送法に明記された。その理由として、前年の05年4月にJR西日本の福知山線脱線事故が発生し乗客と運転士合わせて107人が死亡、562人が負傷したことが背景にある。福知山線脱線事故は一義的にみれば速度超過という運転手の人為ミスなのかもしれないが、その背景において余裕のない過密スケジュールでダイヤを組んでいたり目標が守られない乗務員に対する懲罰的な教育がなされていたりといった問題なども指摘され、運転士だけ(ハンドルレバーや舵を握っていた人だけ)に問題を帰結させていいのかという問題意識が生まれた。つまり、問題は仕組み自体の問題ではないのかという視点から、安全管理規程について、広く海上交通も含め、定めようという流れができた」

 「では、事業者がこの『安全管理規程』を守っていなかったらどうなるのか。その内容次第では、国交相が事業停止、許可取り消しをするという話になってくる。また、『安全管理規程』違反は、刑事責任、民事責任の文脈でも重要になる。両責任とも、過失の有無が問題となるが、過失とは注意義務に反することを意味している」

 「では本件で何をもって違反してはならない注意義務かということを考える上で、会社や運航管理者でもある社長が海上運送法上の『安全管理規程』をちゃんと守っていたのか、という点がポイントになる。船舶の安全性、船の状態など船舶安全法や小型船舶安全規則で規定されていることなどがちゃんと守られていたのかということはもちろん、運航中止の基準を守っていたのか、基準となる航路を航行していたのかなど、『安全管理規程』に盛り込まれた事項の順守が問題となる」

 (全4回、次回からは2面に随時掲載します)

 やまもと・たけや 97(平成9)年東大法卒。企業法務専門の法律事務所を経て、04年戸田総合法律事務所入所、11年英サウサンプトン大海事法ショートコース修了。多数の海事関係事案を担当し、英国系海事法律事務所シンガポール支店などでの執務経験を持つ。73年生まれ。

 あおき・みちお 03(平成15)年一橋大社会卒、05年同大法卒、06―07年東大院法学政治学研究科、09年戸田総合法律事務所入所、15年英サウサンプトン大海事法ショートコース修了。海難事故訴訟、用船契約紛議仲裁、粗悪油問題など、多数の海事関係事案の担当実績を持つ。80年生まれ。