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 印刷 2022年05月09日デイリー版2面

国内船主の今】(312)アテネで探る次世代船、中小船主の苦悩 連携強化に光明

 「6月上旬のポシドニアには欧州だけでなく、アジアや米国など世界中の海運、造船、シップファイナンスのキーマンらが集結する」

 ギリシャの首都アテネで4年ぶりに開催される国際海事展「ポシドニア」。コロナ禍でストップしていたフェース・ツー・フェースの商談再開を象徴する祝祭的イベントとして、海事関係者が熱い視線を注いでいる。

 参加を予定する日本の船舶ファイナンス関係者は、冒頭の言葉につなげて、個人的な今回のテーマをこう語る。

 「海外船主の環境対応船への投資戦略、特に日本造船所に発注する考えがあるのかを確かめたい」

■水面下で仮発注も

 EEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3船、LNG(液化天然ガス)燃料船、アンモニアレディー船―。脱炭素に向かうトランジション船(移行期の船)として、いま発注可能なエコシップには幾つか選択肢があり、日韓中の造船所が受注にしのぎを削っている。

 さらに次世代のゼロエミッション船を巡っては、世界の海運・造船・エネルギー・商社各社がアンモニア派や水素派、メタノール派などに分かれ、それぞれコンソーシアムを形成して実用化にまい進している。

 海事産業は世界に有力プレーヤーが多く、次世代船の行方は混沌(こんとん)とし、予断を許さない。米ボーイングと欧州エアバスの2社にメーカーがほぼ限定され、投融資戦略を定めやすい航空産業とは対照的だ。

 「海運には百花斉放の難しさがある。だからこそ、ポシドニアのような世界の有力プレーヤーが集まる場で、あらゆる考え方や可能性に触れることが重要だ。日本にいるとどうしても限定された情報しか入ってこない」

 冒頭の船舶ファイナンス関係者はこう語り、過渡期の今こそ国際感覚を研ぎ澄ますべきだと訴える。

 「ポシドニアでは皆が360度方向にレーダーを働かせて、世界の最新情報を仕入れようとするだろう。おそらく水面下で次世代船の仮発注を含めたプレ商談がスタートするのではないか」

■海外と勢いの差

 大型連休前の昼下がり、東京都心の喫茶店。アイスコーヒーを注文した商社関係者は、足元の海外と日本の船主の心理状態の違いについて触れた。

 「ドライ、コンテナ船市況が好調な中、北欧船主やアジア船主は『今年と来年、もうけるぞ』と気勢を上げ、過去10年の損失を取り返そうとしている。一方、日本船主にはそうした勢いは感じない」

 日本船主の経営環境の地合いは決して悪くない。主力とする中小型バルカーの用船市況は底堅く、急速な円安により円ベースの収入は増大している。

 ただ、課題が多いのも事実だ。海外用船者のパーチェスオプション(購入選択権)行使で保有船隊が縮小しつつある半面、船価高騰で新造発注が難しく、償却資産が確保できない。

 オペレーター(運航船社)から要求される船舶管理のレベルも引き上がっており、環境規制強化に対応するための技術力や情報も不足している。

 「特に中小規模の船主は焦りを感じているようだ。次の経営の方向性を見いだせず、取り残されてしまうのではないかと苦悩している船主は多い」(商社関係者)

 日本船主の課題について3月下旬、愛媛県今治市で取材した海運市場関係者はこう指摘した。

 「日本の船主はコマーシャル面の力が不足している。船を自ら動かし、貨物を獲得するチャータリングの経験がほとんどなく、外部に委ねてきたことで、打開策が見いだしにくい。この点で海外のプレーヤーから甘く見られてしまう」

 中小船主だけでなく、大手船主も克服すべきハードルに直面している。

 今治船主大手の瑞穂産業(本社・今治市)の越智功和社長は今春、日本海事新聞のインタビューに応え、経営課題に「LNG燃料を取り扱うことができるエンジニア(機関士)の早期育成」を挙げた。

 瑞穂産業は英船主ゾディアックやシンガポール船主イースタン・パシフィック・シッピング(EPS)との長期用船契約を前提に複数のLNG燃料船を発注しているが、いずれも船員配乗などの船舶管理サービスを付けないBBC(裸貸船)ベースだ。

 越智社長は「今後もずっとBBCで良いという考えはなく、長期的な希望として自分たちのクルーでLNG燃料船を運航管理できるようにしたい」と発言。

 その上で、「邦船大手やEPS、ゾディアックはフィリピンやインドに自前の船員教育機関と訓練施設を有している。当社が企業体力を付け、その段階にたどり着くまでには、まだまだ時間がかかる」と進化への思いを語る。

 こうした国内船主が抱えるさまざまな課題に対し、三菱商事の岡隆文船舶部長は一つの解として“船主間の連携強化”を提示する。

 「例えば船の運航や管理手法の高度化、人材確保、脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった数多くの課題に対応するため、一定規模のコンソーシアムを組んで協業し、人材の融通も含めてお互いの強みを生かし合うことも有効だと思う。ネットワーキングや旗振り役として商社が役に立てるのなら、ぜひ貢献したい」(岡氏)

 冒頭の船舶ファイナンス関係者は「協業が進むとすれば、中小船主が中心となるだろう」と予想し、こう続ける。

 「大手船主は独立独歩の精神が旺盛で、なかなかまとまりにくい。一方、中小船主の多くは指南役を求めている。商社の力も借りて、オープンな姿勢で共に進化を目指していけば、中小船主が環境対応やDXで先行するシナリオもあり得る」

 (国内船主取材班)

 =毎週月曜掲載