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 印刷 2022年04月28日デイリー版1面

対談 商社船舶部の未来】(下)伊藤忠商事プラント・船舶・航空機部門長代行 藤本博和氏×三菱商事船舶部長 岡隆文氏、「新燃料」「DX」協業の懸け橋に

藤本氏(左)と岡氏
藤本氏(左)と岡氏
伊藤忠と商船三井、星港センブコープが共同設計したアンモニア燃料供給船(イメージ図)
伊藤忠と商船三井、星港センブコープが共同設計したアンモニア燃料供給船(イメージ図)

■内航の課題解決

 司会 三菱商事船舶部は海事産業における新規ビジネス創造に取り組んでいる。

 岡「先進船舶開発チームが内航の自律運航支援システム開発、電気推進(EV)船の普及を推進する合弁会社『e5ラボ』、次世代の物流拠点構築を進める合弁会社『はこぶね』といったプロジェクトを進め、新たな価値創造に挑んでいる」

 藤本「新規ビジネスの開拓は重要だが、どう利益を上げるかが悩ましい」

 岡「事業成長の構想は描いているが、最初からもうけようと思いすぎると、うまくいかない。従来事業のように3カ年で高い利益目標を達成するといったタイムラインでは難しい。まずは長期的な視点で商品やサービスの普及を目指し、そこから事業展開を考えるアプローチでもいいと捉えている」

 藤本「個人的には船舶の無人運航はかなりハードルが高いと見ている」

 岡「まずは省人化だろう。当社が出資する技術系スタートアップ企業グローク(本社・フィンランド)の画像認識技術の商用化を進めており、そうした船のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、e5ラボが進める船の電動化とも相性が良い。さらにe5ラボ傘下のマリンドウズ社が開発を進めている労務管理をはじめとしたさまざまなアプリをプラットフォームに乗せていくイメージで取り組んでいる」

 「内航業界は船員の老齢化の課題が大きく、何とかしないと、日本の内航物流を維持できないという危機感がある。安全運航の向上や船員の労働負荷軽減が求められており、われわれ商社がソリューションを提供できる余地がある」

 「内航船7000隻強のうち何割かが、10年後、20年後に電動化するとすれば、そのうちの一定割合を担いたい。そのために先駆けて技術やサービス開発に取り組んでいる」

■アンモニア船開発

 司会 伊藤忠商事はアンモニア燃料船の実用化に力を注いでいる。

 藤本「当社はパートナー企業と共にアンモニア燃料船の開発と同時にバンカリング(燃料供給)拠点の整備、荷主との用船交渉を進めており、2026年に第1船の大型バルカー竣工を目指している。アンモニア燃料船は従来船よりも船価が高くなるため、長期用船契約への投入を前提とする。保有船隊のポートフォリオの安定収益源に位置付ける」

 「海運のGHG(温室効果ガス)削減を巡っては将来、炭素税が大きな課題になると見ている。消費する重油燃料の量に応じて費用負担を求める構想が具体化しつつある。事業規模が大きく、船舶を保有する海運会社にとっては巨額の負担になる可能性があるが、業界全体でCO2(二酸化炭素)を排出しないゼロエミッション船の開発を後押しすることにはなるだろう」

■船主の地位守る

 司会 荷主が海上輸送に対する脱炭素や安全・管理の要求レベルを引き上げている。

 岡「荷主によるオペレーターの選別化、ひいてはオペによる船主の選別化の傾向が強まっていく。そうした高い要求のハードルをどう乗り越えるか、船主にとっての課題も出てくるはずだ」

 「例えば船の運航や管理手法の高度化、人材をどう集めるか、脱炭素やDXといった数多くの課題に対応するため、一定規模のコンソーシアムを組んで協業し、人材の融通も含めてお互いの強みを生かし合うことも有効だと思う」

 藤本「われわれが心配しているのは、新燃料船が普及していった時、乗組員の訓練をどうするのか。例えばアンモニア燃料船の船舶管理は、誰も経験したことがない」

 岡「現在はオペレーターが自ら新燃料船の船舶管理をしようとしている。当社も含めて新燃料に対応できないままでは、船主としての地位も低下し、時代に取り残されてしまいかねない。保有の機能しか残らず、BBC(裸貸船)の受け皿というだけの存在になる恐れもある」

 「日本船主の皆さんには一社一社、強みや特色があり、個性豊かな経営者がいて、それぞれ歴史と知見を培っている。それを合わせれば、すごい力になる。ネットワーキングや旗振り役として商社が役に立てるのなら、ぜひ貢献したい」

■輸送者が強くなる

 岡「一方、荷主による選別化は逆方向の作用も生むのではないか。強いオペレーター(運航船社)、強い船主が残った結果、弱い荷主との力関係が逆転する可能性がある。最近のコンテナ船のスペース逼迫(ひっぱく)のように、荷主が運ぶ機能をしっかり確保していないと、輸送がボトルネックになり得る」

 「われわれ総合商社のほとんどの事業部門は、基本的に荷主の立場だ。当社も新しくアンモニアや水素、CO2(二酸化炭素)のバリューチェーンを社内横断でつくろうとしているが、この1年の社内の議論では『どう運ぶか』がかなりクローズアップされている」

 藤本「非常に大事な視点であり、弱い荷主よりも、運ぶ側の立場が強くなるというのは、本当にその通りだ。特に脱炭素の流れの中で、CO2排出ゼロの輸送手段を持っている企業は強い」

 岡「われわれ船舶部が機能を果たせるチャンスでもある。輸送ニーズに対して、いろいろと工夫を凝らして、ノウハウを発揮し、運ぶ機能を提供する。仮に船舶部自体が輸送しなくても、トレーディング機能を生かしてさまざまなパートナーを呼び込むこともできる」

 「これが船舶事業の存在意義ではないかとひしひしと感じ、それを今、社内でも訴えている。もしかしたら、伊藤忠商事のアンモニア燃料船を活用させてもらう機会があるかもしれない」

■商社連携の可能性

 藤本「ゼロエミッション燃料の供給インフラも、海運側で整備すれば、より強い存在になれる。そのために当社はアンモニア燃料船の開発に取り組み、燃料の生産から輸送、貯蔵、バンカリング(船舶への供給)、船の保有、長期貸船に至るまでバリューチェーン全体を構築しようとしている。ただ、当社だけが一生懸命やっても時代は変わらない。他の商社も一緒に取り組んでほしい」

 岡「長年にわたり商社各社の船舶部は互いに切磋琢磨(せっさたくま)してきたが、今はそれだけという時代ではなくなってきている。脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)は、できるだけ仲間を集めて大きくアレンジをしないと実現できない」

 「そこに商社の出番があり、各社の船舶部が培ってきたネットワークの力を生かすことができる。それぞれのネットワークが閉じたままだと、小さいプラットフォームしかできない。やはり業界横断的に取り組んでいくべきだと思う」

 藤本「今は100年に1度の燃料転換の時だ。アンモニア燃料船開発でもさまざまな企業に声を掛けている。まだ他の商社には呼び掛けていないが、三菱商事をはじめ資源に強い商社の力も借りて、スピードを上げて前へ進んでいきたいと考えている」

 岡「当社も、発電用などの燃料アンモニア製造・輸送・利用のバリューチェーンをつくろうとしており、そうやってアンモニアの十分な物量ができてくれば、舶用の供給網も出来上がってくるだろう。伊藤忠商事とアプローチは異なるが、海運業界に貢献できるよう情報交換や協力を図りたい」

(敬称略)