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 印刷 2022年04月11日デイリー版2面

国内船主の今】(309)忍び寄る「悪い円安」。悩む日本造船首脳、ハムレットの心境

 「国内船主にも『悪い円安』が忍び寄ってきている」

 桜が舞い散る5日午後。海運ブローカーが東京・大手町のカフェテラスで眉をひそめて切り出した。

■身動き取れず

 外国為替市場で円安が急速に進んでおり、7日午後時点の対ドル円相場は1ドル=123円台後半と、6年ぶりの円安水準で推移している。

 先月28日には一時、1ドル=125円台まで下落。米国が景気後退局面に入れば、円安と株安が連動する「悪い円安」に陥りかねない―。こうした警戒感が広がった。

 一方、円安は外航主体の国内船主にとっては原則、経営の追い風になる。

 外航船主の用船料収入はほぼ全額がドル建ての半面、地方銀行からの船舶融資は円ファイナンスが中心。円安が進めば円ベースの返済負担が軽くなり、収益にプラスに作用するからだ。

 では、船主にとっての「悪い円安」とは何を指すのか。

 在京ブローカーが端的に答える。

 「円安の悪影響が特に大きいのは、BBC(裸用船)契約で船舶を保有している船主のうち、ドル建てで資金を借り入れた上、その金利を変動型にしているオーナーだ」

 どういうことか。

 自社で船舶管理を行うTC(定期用船)契約の場合、船主は仕入れ値である船価に船舶管理費を上乗せした金額を、売り値の用船料として設定する。

 つまり、船価と用船料の間に若干のバッファー(緩衝)を持てるため、収入がドル建てで借り入れは円建てという為替リスクを一定程度、許容する余地がある。

 一方、BBC契約の収支は一般的に「TCに比べてかつかつ」(四国船主)で、用船料と船価の間にバッファーがほぼない。船主は船舶管理を手掛けず保有にとどまるため、用船料が仕入れ値の船価に近づきやすいからだ。

 商社関係者が引き継ぐ。

 「BBCは総じて収支が厳しく、その性質上、国内船主は為替リスクをヘッジするため、ドル建てで資金を借り入れた上で、その金利を固定型にしているケースが多い。円安の加速で特に苦しくなっているのは、この金利を変動型にしていた船主だ」(船舶部)

 一部の国内船主は為替リスクヘッジの観点から、米国が2020年春以降のコロナ禍でゼロ金利政策を取って以降、ドル建て融資の割合を引き上げてきた。

 しかし、米国がここに来てゼロ金利政策を解除し、3年ぶりの利上げを決定。金利変動型のドル建て融資を多く抱える船主は、じりじりと続くドル金利の上昇を受け、収支が厳しくなっているのだ。

 商社関係者が続ける。

 「ドル金利が上昇した場合も、現状のドル建て融資から、低金利持続が見込まれる円建て融資に変更する手が平時ならある。しかし、問題は足元の急激な円安により、ドル建てから円建て融資へ変更しようとすると、円ベースの借入金が大きく膨らんでしまうことだ。このため、通貨変更も難しく、事実上打つ手がない」(同)

 本来、船主経営の追い風になる円安。しかし、ドル建て融資を多く抱える船主はその急速な進展に身動きが取れず、「指をくわえて待つしかない」(四国船主)状況に追い込まれている。

■複雑な胸中

 「行くべきか、行かざるべきか―。国内造船所の首脳は今、シェークスピアの名作『ハムレット』の主人公のような心境ではないか」

 7日午前、瀬戸内地方の船主が電話口で冗談めかした。

 6月6―10日にギリシャ・アテネ市で開催される国際海事展「ポシドニア」。コロナ禍が深刻化した20年春以降、対面がかなわなかった欧州の船主やオペレーター(運航船社)との久しぶりの商談の機会となる同展示会を、日本の海事関係者は一様に待ちわびていた。

 しかしここに来て、造船所関係者の胸中が複雑になりつつある、というのだ。

 日本造船主要各社は2月、船価の高止まりが続くとみた複数の海外オペが新造用船に動いたことを受け、ハンディバルカーを昨年末比で1割程度高い船価で受注。今後、ポシドニアで海外船主と直接対話し、本番となる新造商談"秋の陣"に弾みをつける算段だった。

 ところがロシアのウクライナ侵攻を境に、状況は一変した。

 国内造船所はウクライナ危機に伴う世界的な資源高により、厚板や資機材全般への価格上昇圧力が急激に強まったことを受け、建造コストの上振れを想定。足元では受注営業に急ブレーキをかけ、2月との比較でもう一段高い船価を船主に提示し始めている。

 瀬戸内船主が真剣な口調に変わる。

 「日本造船各社の首脳は、ポシドニアに自ら参加するのが通例。海外船主と約2年ぶりに面と向かって言葉を交わしたいのはやまやまだろう。しかし当然ながら、会えば船価を提示しなければならない。価格の引き上げを図っている今、対面を控えて複雑な心境に違いない」

 新造整備を検討していた船主の一部はロシアによる侵攻を機に、市況の先行きに不透明感が出たとして様子見姿勢に転じた。ウクライナ情勢の緊迫化は、薄日が差し始めていた新造船市場にも影を落としている。

 (国内船主取材班)

 =毎週月曜掲載