【国内船主の今】(307)いざポシドニアへ。商社リーダーに今治経験者続々
「今年のポシドニアは大きな節目になる。欧州とのフェース・ツー・フェースのマーケットが再び動き出す」
3月中旬、総合商社の本社にあるカフェテリアの一角。船舶部の営業担当者は湧き上がる高揚感をかみしめるように、そう語った。
6月6―10日にギリシャ・アテネ市で開催される国際海事展「ポシドニア」。日本の海事関係者は、その開幕を今か今かと待ち望んでいる。
コロナ禍が深刻化した2020年春以降、日本から欧州への渡航が厳しく制限され、日本の船主や造船所、商社関係者はほぼ2年間にわたり欧州の船主やオペレーター(運航船社)との直接対面がかなわなかった。
コロナ下のニューノーマル(新しい常態)ではオンラインのミーティングツールが定着した。しかし、モニター越しの関係構築にはどうしても限界があり、直接会って話し合うコミュニケーションには替えが利かない価値がある。
「ウクライナ危機が心配だが、ポシドニアが無事開催されれば、2年ぶりに欧州の海事関係者と会うことができる。会期中のパーティーやオフィス訪問で欧州の友人らと旧交を温め、新しい出会いの機会も得ることができる」(商社関係者)
■金融商品ではない
「欧州に出張し、チャータラー(用船者)と面と向かって言葉を交わすことは、日本船主のBBC(裸貸船)リスク管理でも重要な意味を持つ」
別の商社船舶部のベテラン営業担当者は、海外出張解禁の意義をそう強調する。
コロナ下の2年間も、日本船主は欧州の船主・オペレーターとのセール&BBCバック(売船後の再裸貸船)案件を積極的に積み重ねた。
この中には、日本船主が直接会ったことのない用船者との取引も含まれている。
「どんな雰囲気のオフィスで、どんな経営者やスタッフが働いているのか。一度も訪問せずに契約を交わすと、船を預けている相手の存在が肌感覚でつかめない。それは欧州側も同じだ。芯のあるパートナーシップが築けているとは言い難い」(商社関係者)
憂慮すべきなのは、日本船主との関係が希薄な欧州の用船者が、BBCを単なる"金融商品"と捉えてしまうことだ。
日本船主は長年にわたり船を家業とし、資産として船を大切に考えている。BBC契約のこちら側にいるのは、ファイナンスの受け皿企業ではなく、血の通った伝統ある船主であることを用船者に知らしめる必要があり、それが長期的なビジネス関係の幹の部分に効いてくる。
「船員配乗やメンテナンスをチャータラーに任せるBBCのリスクを甘く見てはいけない。船のクオリティー維持という観点だけでなく、裸用船者のデフォルト(債務不履行)が発生したとき、船主が自らの船を取り戻すための苦労は並大抵ではない」
商社関係者はそう語った上で、「50歳以上の商社船舶部の営業マンの多くは、不況時に海外オペと日本船主の間で走り回った苦い経験を持つ。オンラインだけの関係でBBC契約に調印する怖さは、皆どこかで感じているはずだ」と警鐘を鳴らす。
■欧州との懸け橋に
「伊藤忠商事、丸紅、双日、住商マリン―。昨春から今年にかけて、今治での駐在経験者が商社船舶部の部長や船舶子会社トップに相次いで就任している。大きな時代の流れを感じる」
瀬戸内の地銀関係者は感慨深げに、そうつぶやく。
00年以前の商社船舶部の花形部署は、海外向けの輸出船事業だった。しかし00年代前半以降、日本船主と欧州オペレーターの長期用船ビジネスが隆盛を極めたことで、日本最大の船どころである今治市(愛媛県)が商社船舶部の営業の最前線となった。
現在の船舶部のリーダークラスは、30歳前後の若手時代に今治船主の事務所に足しげく通い、人脈づくりに汗を流した世代だ。
「彼らの多くはロンドン駐在も経験している。欧州の海事関係者とのネットワークも生かし、欧州と瀬戸内を強く結び付ける懸け橋として活躍が期待できる。ちょうど欧州出張が再開されようとしている今、ここから新しい展開がスピードアップするのではないか」(船主関係者)
=国内船主取材班
(毎週月曜掲載)