印刷 2022年03月08日デイリー版4面

記者の視点/幡野武彦】米大統領の海運叩き、船社批判は安定化への道筋か

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、欧米諸国を中心とした制裁強化でさまざまな分野への影響が懸念されている。

 米バイデン大統領は現地時間1日夜、上下両院合同会議で施政方針を示す一般教書演説を行った。冒頭ではかなりの時間を割いてウクライナ問題に言及し、強くロシアを批判。議場には駐米ウクライナ大使も招待され、同国への連帯を示した。

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 ウクライナ問題を除けば、内政ではインフレへの対応や企業課税の強化、最低賃金の引き上げなど民主党の政策なども強調する内容となっていた。

 米国では世論調査などを見ても、「インフレ」が新型コロナウイルスなどを抑えて圧倒的な関心事項となっている。米国にとって、いかに物価上昇を抑えるかが大きな課題と言えるだろう。

 「私は資本主義者だが、競争のない資本主義は資本主義ではない。企業の競争がなくなれば、価格は上昇して中小企業などはつぶれてしまう」と強調。大企業による寡占化批判を強めていたのは、党内左派への配慮を示した部分とも見える。

 ただ、少し驚いたのは寡占化の典型として、共和党の強い州の食肉加工施設とならび、海運会社を例に挙げたことだった。

 「米国内外に物資を運ぶ海運会社の状況を見てほしい。コロナ禍の間、外資系海運会社が1000%もの値上げを行い、記録的な利益を上げている」と強く非難。その上で、「米国の企業と消費者に過大な請求をしている企業の取り締まりを発表する」とバイデン大統領が述べると、議場では大きな拍手が沸き起こった。

 これが、いまの内向きな米国の雰囲気を象徴しているのかどうかは分からない。ただ、一般教書演説で海運会社を名指しで批判したことについて、世界海運協議会(WSC)は2日、「コンテナ船業界は十分に競争している環境にある。そして、過去に例のない輸送需要に対応している業界に対し、(一般教書演説で)根拠のない批判が行われたのは非常に残念」との声明を発表した。

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 一般教書演説で言及した「海運会社」は「コンテナ船社」を指しており、グローバル規模でサービスを提供するこれらの企業にもはや米国資本の会社がいないのは周知の通りである。

 過去の歴史を振り返れば、激しい競争を繰り広げた結果としてコンテナ船社の再編などが進み、ようやくいまの安定した秩序を何とか形成したといえる。他の産業に比べて収益性が低いという理由で米系が早くに海運業から手を引いたことを考えれば、外資系だらけの海運業界に文句をつけられても困るというのが心情ではないか。

 とはいえ、コロナ禍の混乱で市況が高騰し、空前の収益を上げているコンテナ船社への根強い批判があるのは事実である。その批判の裏には、業界再編が進んで、プレーヤーが減ったことがやり玉に挙がっている。

 2010年代半ばの再編を経て、コンテナ船社は主要7社に集約されたが、「いずれもう一段の再編も」という声が根強かった。しかし、寡占化批判が高まれば、これ以上の主要プレーヤー同士の合併はもはや認められない可能性が高い。

 運賃高騰につながるとして再編への風当たりが強まれば、いまの主要7船社体制が続くことになるだろう。そうなれば今後も業界秩序は安定化していく可能性は高い。強い批判がいまの秩序をより強固にするのであれば、これ以上の皮肉はないだろう。