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 印刷 2022年02月03日デイリー版1面

変革期の舶用メーカー】(3)中国塗料社長・伊達健士氏、低燃費と環境性能を両立

中国塗料社長 伊達 健士氏
中国塗料社長 伊達 健士氏

 ――会社の概要を聞きたい。

 「1917年に広島県で創業して以来、船舶用を中心とした塗料製品を開発し、生産販売している。近年の連結での売り上げ規模は800億円超だ。このうち8割超を船舶用が占める。このほか工業用、コンテナ用の塗料を手掛けている。生産拠点は、建造・修繕ヤードが多い日本、韓国、中国を含む10カ国に展開している。さらに就航船向けに船上メンテナンス用塗料を供給するため、世界の主要港付近にグループとして35カ国105カ所のサプライ拠点を設けている」

 「具体的には、国内に九州工場(佐賀県吉野ケ里町)、滋賀工場(滋賀県野洲市)の2カ所をマザー工場として抱える。国内ではこのほか、子会社の神戸ペイント(兵庫県稲美町)で小バッチ製品の生産を行っているほか、子会社の大竹明新化学(広島県大竹市)は塗料用樹脂などの原材料を供給している」

 ――海外拠点はどうなっているか。

 「海外では生産工場を11カ所持つ。中国には3工場あり、そのうち2工場はコンテナ用塗料や工業用塗料も生産している。就航船に必要な塗料を届けるために、船社の主要寄港地をカバーするシンガポール、マレーシア、オランダ、米国にも各1工場を構えている」

 「これ以外では、船舶用と工業用の塗料を生産するインドネシア工場、工業用塗料が主力のタイ工場がある。2021年にミャンマー工場を立ち上げたが、同年のクーデターなどが影響し本格生産していない。ミャンマーでは、インフラ整備のプロジェクトが相次いでいるほか、漁船向け需要を見込んでいる」

 ――海外拠点に関する特長は何か。

 「生産拠点に加え、就航船向けのメンテナンス用塗料供給やトラブル発生時に対応できるよう、当社グループとして世界ネットワークを展開している。顧客のニーズに合わせて海外でも供給網が充実していることが当社の強みの一つとなっている。生産拠点に関しては、既存設備のリニューアルは検討しているが、今のところ増やす考えはない。生産拠点がない地域では、他社との提携で対応したい」

■VOC抑制も対応

 ――現在注力している取り組みは何か。

 「船底防汚塗料は、船舶の燃費低減に貢献し、船から排出されるCO2(二酸化炭素)を削減することで環境負荷低減を実現するアイテムとしても注目される。近年、地球温暖化により海水温度が上昇し、船底に海洋生物が付着しやすい環境になっており、より高性能な船底防汚塗料が求められている。EEXI(就航船のエネルギー効率指標)やCII(燃費実績の格付け制度)などの規制が23年から開始されるのを受け、顧客からのこの要望はさらに強くなる」

 「当社は、この課題に対応するため、より高性能な製品の開発に力を入れている。低燃費防汚塗料『SEAFLO NEO CF PREMIUM』は、防汚成分として一般的な亜酸化銅を使用せず、『Selektope』という新規の防汚剤を用いた。ごく少量の使用でも圧倒的にフジツボの付着を防ぐことができる。さらに、塗膜表面の平滑性によって、運航時の燃料消費も抑える効果がある」

 ――新規防汚剤は他の製品にも適用しているのか。

 「当社では、この『Selektope』を配合した防汚塗料を外航船、内航船、漁船、プレジャーボートなどあらゆる分野で提供している。このシリーズ製品の商船への塗装実績は合計約900隻に達しており、既に5年間就航後の優秀な防汚成績やCO2削減効果も確認している」

 「塗料から出る環境負荷成分として、VOC(揮発性有機化合物)がある。当社ではVOCに相当する溶剤分が少ない低VOC塗料や溶剤を使用しない無溶剤塗料・水系塗料の開発、さらに塗料の使用量を低減することで全体のVOC排出を抑える製品開発も進める」

 「最新製品として、造船所での鋼板の一次防錆用塗料(ショッププライマー)『CMPセラゼウス』を発売した。独自の薄膜化技術で、従来製品よりも塗付量を約30%低減でき、シンナーの使用量も抑えられるため、トータルコストの削減が可能となる」

 ――製品への新規防汚剤の適用以外の取り組みは。

 「船底防汚塗料に関して、防汚剤を含まない、またはごく少量配合で効果を発揮する製品としてシリコーンタイプの防汚塗料『CMPバイオクリン』シリーズを提供している。通常の加水分解型防汚塗料は、海水との化学反応で防汚塗膜が溶け出すことにより防汚効果を発揮するが、シリコーンタイプの塗料は、シリコーンの撥水性、平滑性、弾性特性で海洋生物の付着を防ぐため、環境負荷が低い」

■製品開発AI活用

 ――デジタル化の進展に伴う新たなサービスはあるか。

 「デジタライゼーションに関する取り組みとして、独自の船舶運航モニタリング・解析プログラム『CMP―MAP』サービスを展開している。船舶が世界のどの海域で、何ノットで航行しているか、また波高や風速などのデータを収集し、燃料消費量などから船体性能を検証する。これにより防汚塗料が船舶のパフォーマンスにどのように貢献しているか船主やオペレーター(運航船社)に確認いただける」

 「製品開発の分野では、これまで技術者の経験や知識に頼る面が大きかった。今後はAI(人工知能)、AIの中核をなす機械学習を含む情報処理技術をフルに活用するMI(マテリアルズ・インフォマティクス)を使うことで、開発スピードを上げることも検討している」

■今造との提携効果

 ――今治造船グループと資本業務提携しているが、具体的な成果は出ているか。

 「ショッププライマーの『CMPセラゼウス』は、今治造船グループの造船所での試験的な利用、フィードバックなどを踏まえ完成した。提携による成果の第1弾となる。従来型のショッププライマー『セラボンド2000』は、15マイクロメートルの厚さで塗装していたが、『CMPセラゼウス』の場合、8マイクロメートルの厚さで同等以上の防錆(ぼうせい)性能を発揮する。これにより塗料の使用量自体が減り、ひいてはVOC(揮発性有機化合物)排出量が約30%低減できる」

 「昨年7月から発売している防汚塗料『SEAFLO NEO M1 PLUS』は提携の成果の第2弾になる。新造船の建造では、進水から引き渡しまで数カ月かかるが、海水温度の上昇で、この間に船底にフジツボが付着するなど、これまでの塗料では対応できない事象が増えてきた。このような課題に『SEAFLO NEO M1 PLUS』は対応する」

 「さらに、日本の造船所では、下塗り塗装(プライマー塗装)の際、船の外板、バラストタンク、デッキ、居住区などに塗料コスト削減の観点で最大3種類の塗料を使っている。この種類を減らすための取り組みも進めている。当社では、1種類で全て塗装できるユニバーサルプライマーを提案している。種類を減らすことで初期塗料コストはアップするものの、現場での製品管理がしやすくなり、作業効率向上によるトータルコスト削減に寄与できると考えている。今治造船グループの協力で今春に試験塗装などを行う予定で、製品化されれば日本の全ての造船所で作業効率向上に貢献できると考える」

 ――日本の海事業界の現状をどう捉えているか。

 「特に造船業は海外との価格競争や鋼材などの資機材価格の高騰で大変苦しい状況にあることは周知の事実だ。一方で、世界の価値基準は、これまでの低価格から、環境対応力や持続可能性にシフトしている。これは高い技術力を持つ日本企業には追い風になる」

 「われわれ舶用メーカーは、造船所や船主が抱える課題を解決できる製品を提案することで、日本の造船所が建造する船の価値を押し上げる使命を負っている。業界一丸となり切磋琢磨(せっさたくま)し合ってより良い製品・サービスを開発し続けることが、日本の海事業界の発展につながると信じている」

(随時掲載)

 だて・けんし 95(平成7)年関西学院大経卒、中国塗料入社。18年4月営業本部長、同7月執行役員営業本部長、20年7月上席執行役員営業本部長を経て、21年6月に営業本部長兼務で代表取締役社長に就任。51歳。