印刷 2022年01月13日デイリー版1面

2050ゼロエミへ変わるエンジンメーカー】(5)ダイハツディーゼル社長・堀田佳伸氏。燃料大変革、間口広げ対応

ダイハツディーゼル社長 堀田 佳伸氏
ダイハツディーゼル社長 堀田 佳伸氏

■生死を懸けた闘い

 ――足元の環境規制強化の動きをどう感じているか。

 「エンジンメーカーが世界の競合に打ち勝っていくには、環境負荷低減を実現する商品開発は必須で、かねて環境対応に注力してきた。しかし、国際海運の2050年のGHG(温室効果ガス)排出ネットゼロ(実質ゼロ)が求められるようになるなど、削減目標は目まぐるしいスピードで前倒しされている。舶用エンジン業界にとってまさにこれから、100年に一度の大変革が起こると思っている」

 「舶用の新燃料は足元ではLNG(液化天然ガス)などの採用が拡大しつつあり、ゼロエミッション燃料の候補としては、アンモニア、水素、合成メタンなどが有力視されている。だが、このうち何が将来の主流になるか、その確たる答えはまだ誰も持っていない」

 「こうした状況でも、舶用エンジンのゼロエミッション化が海運のGHGネットゼロ実現の鍵を握っている以上、メーカーとしてどの燃料にも対応できるよう間口を広げて準備を進める。選択肢が多岐にわたる中、新燃料の技術開発には一定の投資が必要であるため、大きな決断をする局面がいずれ来るだろう。今後10―20年は将来の事業継続に向け、エンジンメーカーにとって生死を懸けた闘いの時代になると考えている」

 「たくましい創造性と優れた技術を磨き上げ、社会を豊かにする価値を提供し、人々との共生を願い、限りなく前進する―。この当社の企業理念を全社員がしっかり理解し、まさにこれに基づいて行動する時だ」

 ――海運のGHGネットゼロにどう貢献するか。

 「国際海運の年間のCO2(二酸化炭素)排出量が10億トンに上る中、主機用・発電機用エンジンを手掛けるメーカーとして、業界のGHG排出削減に寄与する商品開発に全力を挙げる。一方、当社も生産活動などで年間1万2000トンのCO2を排出している。生産設備の更新や燃料の切り替え、再生エネルギーの利用拡大などを通じ、このCO2排出量を25年に13年比で35%削減する目標を掲げている」

■LNG焚きに注力

 ――当面注力する分野は。

 「新燃料対応の準備を進めつつ、近年はLNGを燃料とするデュアルフューエル(DF、2元燃料)機関の開発に注力してきた。この結果、昨秋までに4機種の開発を完了し、LNG燃料化が進展しているメガコンテナ船、自動車船向けを中心に既に合計で約100台を受注した」

 ――LNG燃料はゼロエミ燃料へのブリッジソリューション(移行期の対応策)と言われるが、いつごろまで主流になり得るか。

 「ゼロエミ燃料がどの程度のコスト競争力を持ってくるかによって変わってくるだろう。現在の新造船は総じて20年程度運航されるケースが多いため、50年のGHG排出ネットゼロの達成には、30年までにゼロエミ船を発注する必要がある。この点を踏まえると、少なくとも35年ごろまでは、LNG燃料焚(だ)きのDF機関が陳腐化することはないと考えている」

 「ゼロエミの新燃料でも、LNGの燃焼制御技術の延長上にある新燃料であれば、DF機関の派生技術で対応可能な要素もある。このため、現行のLNG燃料機関を改造することで、将来的に新燃料に対応できるようになる可能性がある。そうなればLNG焚き機関がもう少し長く主流であり続けるかもしれない。いずれにしても今のLNG燃料焚きDF機関の技術が、将来のゼロエミ対応機関のベースになるのは確実だ」

■生産能力3割増強

 ――LNG焚き機関の具体的なラインアップは。

 「ボア(シリンダー口径)20センチの『6DE20DF』(最大出力890kWm)、23センチの『6DE23DF』(同1200kWm)、28センチの『6DE28DF』(同1730kWm)、35センチの『6/8DE35DF』(最大出力3060kWm/4080kWm)の4機種だ」

 ――受注の中心は。

 「大型案件を獲得したメガコンテナ船向けの『DE35DF』と、邦船大手3社がロット発注を決めている自動車船向けの『DE28DF』の2機種が、これまでの受注の大部分を占めている。ケープサイズバルカー向けの『DE23DF』、ポストパナマックスバルカー向けの『DE20DF』もある」

 ――生産体制は。

 「当社は守山工場(滋賀県)と姫路工場(兵庫県)、それぞれの設備を生かした生産体制を構築している。具体的には大型の『DE35DF』を姫路工場、小型の『DE20DF』を守山工場で製造し、中型の『DE28DF』『DE23DF』は稼働状況に応じて両工場で柔軟に生産できる」

 ――LNG燃料船の今後の需要をどうみるか。

 「LNG燃料機関はメガコンテナ船や自動車船に加えてバルカーでも引き合いが増えており、さらなる需要拡大を見込んでいる。これに対応し、姫路工場で22年夏ごろまでに運転設備を増設し、同機関の生産能力を約3割増強する計画だ」

■燃費さらに向上へ

 ――設備の増強とは具体的には。

 「エンジンの運転試験台を付加設備も含めて増やすほか、試運転を行うガス供給設備を拡充する。この設備拡張は、姫路工場(兵庫県)が稼働した2018年時点で想定していたものだ。当時は新造船マーケットが低迷していたため見合わせていたが、LNG(液化天然ガス)燃料船の需要拡大を受けて増強を決めた」

 ――LNG燃料機関の今後の展開は。

 「LNG燃料化の進展が特に見込まれる船種に対応した4機種をまずはラインアップ化できたため、機種は充足した。液体燃料を含めて、エンジンの燃費性能の改良を進めることが必要であり、特にLNG燃料機関については、メタンスリップ(未燃焼のメタンの漏出)の低減が課題だ」

■水素燃焼技術蓄積

 ――舶用エンジンのゼロエミ化に向けた取り組みは。

 「次世代燃料に関しては、まずは水素でスタートダッシュを切っている。当社と三井E&Sマシナリーが共同提案した『外航船向け水素燃料推進プラントの技術開発』が昨年7月、国土交通省の海事産業集約連携促進技術開発支援事業に採択された。まずは国の支援を得ながら水素燃料の基礎技術を蓄積することで、水素専焼の内燃機関の技術確立を目指す」

 「アンモニア燃料機関については、多くの顧客からの開発要望を受けており、タイムリーに市場投入する必要があると思っている。アンモニアは毒性があり、取扱者の安全性を確保し、生産設備の整備を含めて検討を進め、方向性を打ち出したい」

■状態監視など強化

 ――エンジン製造以外に注力する分野は。

 「エンジンなどの機器を単に販売するだけでなく、機関の状態監視などデジタル技術を駆使したサービスを一体的に提供することに力を入れ、より安心・安全な運航を追求する顧客のニーズに応えていく」

 「既に主機・発電機の状態監視・自動診断サービス『ClassNK CMAXS』があり、バルカー8隻、LNG燃料船2隻向けに提供している」

 「LNG燃料対応のDF機関は従来のディーゼル機関に比べてシステムが複雑な分、タイムリーに多岐にわたる機関の状態を把握し、適切なオペレーションを行うことが求められる。船陸間通信で収集するデータをしっかり蓄積し、状態監視・異常診断の分野で新たなサービスの開発を進める」

=おわり

 (この連載は五味宜範、松下優介、浅野一歩が担当しました)

 ほった・よしのぶ 88(昭和63)年近畿大卒、ダイハツディーゼル入社。17年理事生産購買統括本部守山工場長、製造部長、同年取締役、18年取締役常務執行役員、19年代表取締役副社長社長補佐、20年6月から現職。55歳。