印刷 2022年01月12日デイリー版1面

インタビュー 新たな物流団体へ衣替え】日本内航海運組合総連合会理事長・加藤由起夫氏。法令順守へ政策提言

日本内航海運組合総連合会理事長 加藤 由起夫氏
日本内航海運組合総連合会理事長 加藤 由起夫氏

 日本内航海運組合総連合会は4月、新たな物流団体へと衣替えする。長年事業の柱だった暫定措置事業が昨年8月に終了し、内航海運事業者が法令を順守するために必要な政策を提言する活動などが中心となる。これまで5年超にわたり事務局トップを務めてきた加藤由起夫理事長に、今後の内航総連の活動や業界が進むべき方向性を聞いた。

(聞き手 鈴木一克)

 ――昨年、暫定措置事業が終了し、半世紀以上にわたった船腹需給対策が幕を閉じた。

 「暫定措置事業は、1967年に開始した船舶調整事業解消後の経済的影響を考慮したソフトランディング策として98年に始まった。内航総連が船舶を解撤・売船する船主に交付金を支払い、船舶を建造する事業者は内航総連に建造納付金を支払う仕組みだった。開始直後は景気が厳しく内航マーケットが縮小したことで保有船を海外売船、解撤する流れが活発化し交付金支出が増加。交付金を賄うための建造納付金収入が不足し、事業債務が最大1000億円を超えて苦しい時期もあった。この借入金は内航業界の自助努力で完済できた。栗林宏吉会長が事業終了の際に『感慨深い』と発言していたが、長年、内航総連幹部として暫定措置事業の運営に携わってきたことによる本心だ。これまで事業に携わった国土交通省をはじめとする関係者に感謝し、各海運組合の努力に敬意を申し上げたい」

 「事業終了で建造納付金も不要になり、積み荷制限などもなくなった。代替建造促進や健全な競争による内航海運業の活性化が期待される。業界団体の立場から事業者が日々の運賃・用船料収入で企業経営が成り立つようにしたい」

■業界団体が重要に

 ――内航総連は4月から新たな組織体制となる。

 「今後は安定・安全運航を担う内航事業者が法令順守するための政策を策定し、それを発信する役目を担う。4月からは総務部、企画調査部、海務部、CSR推進部の4部体制に移行する」

 「企画調査部では荷主との連携や、科学的な政策展開を進めるために必要なデータベース構築に向けた整備・収集などを推進し、中長期的なビジョンも策定したい。CSR推進部では国が順次施行する改正船員法に盛り込まれた『労務管理責任者』講習を事業者に実施するなどコンプライアンス(法令順守)徹底に向けた取り組みを行う。現在の調査企画部から独立する海務部は、船員の働き方改革へのきめ細やかな対応や船員確保・育成対策を行う。さらにカーボンニュートラルなど船舶の環境対策にも取り組む。昨年7月に各部の設立準備室を立ち上げ、来年度からの新体制に備えている」

 「国はBtoB(企業間)である物流での商取引には干渉しないスタンス。そういった中で業界団体の役割は重要。中小零細事業者が多い内航業界で、それぞれが望む政策を個別にかなえるのは難しい。各事業者の声を集めて施策を立案し、国などに働き掛ける役割を担う」

 ――国は船員の働き方改革、荷主との取引環境改善などに向けた部分の海事産業強化法(船員法、船員職業安定法、内航海運業法の改正)を4月から順次施行する。

 「これらの法改正で働き方改革を進め、若い人たちに船員職業を選択してもらうため魅力ある職場に変化させなければならない。それに加え1人当たりの生産性を向上させ、企業、国を成長させることも重要だ。船員法などの改正とともに内航海運業法も改正され、荷主の法令順守義務や、法令を守らない荷主への勧告、社名を公表する制度を設ける。さらに運航船社(オペレーター)には労働時間に配慮した運航計画、契約内容の明文化などを求める。適切な法施行が行われることを期待するとともに、各社が必要なコストを賄える運賃・用船料を収受し、持続可能な事業環境にしてほしい」

■官民一体で対処を

 ――昨年、議論が行われたカーボンニュートラルへの対応も迫られる。

 「内航が今後も環境に優しい輸送モードであり続けたいが、中小零細企業が多く自社対応できるノウハウを持ち合わせていない。造船・舶用業界などと連携し、官民一体で対処する必要がある。内航業界として脱炭素化に対応した船、エンジンの開発時期に加え、具体的な代替燃料の確保、供給体制などを早期に把握したい。燃料の価格は陸送との競争もあるため、できるだけ低廉であることを望む」

 「内航がモーダルシフトの受け皿の役目も担っている点に配慮した対応も要望する。定期航路では船舶の大型化や航路の拡充が進む。輸送量が伸びれば内航船からのCO2(二酸化炭素)排出量は増えるが、運輸モード全体からすれば環境負荷を低減できる。その点はしっかり評価してほしい。また代替燃料を活用した船に対応した船員教育体制の準備も関係者に求めたい」

 ――内航は変革期を迎えるが、さらなる活性化に必要なことは。

 「国には内航がロジスティクスの担い手として適切な評価(運賃)が得られるような環境整備と、災害時に重要な役割を果たすことや離島への物資輸送など社会インフラ的な機能も担っている点をしっかり位置付けてほしい」

 「内航業界としては、『環境問題などの社会的ニーズに応えながら、安定的・安全に製品の品質を保持し輸送する』という物流の基本に立ちつつ、各社が環境対応、デジタル技術活用などの創意工夫をすることを望む。オペレーターにはRORO船などによる多頻度高速サービスの充実、他社との共同運航の推進、幹線支線に分けた輸送体系の見直しなどを進めることが求められる。オーナーにはオペレーターが求める次世代船の建造への対応や、良質な船員の確保・育成を進める必要もある。こういった取り組みを図る上で荷主、オペレーターが適切な対価を支払うことは欠かせないと思う」

 かとう・ゆきお 81(昭和56)年東大法卒、運輸省(現国土交通省)入省。海事局次長、大臣官房物流審議官、内閣官房総合海洋政策本部事務局長などを経て16年9月から現職。兵庫県出身、64歳。