印刷 2021年12月08日デイリー版1面

MariTech 海事未来図】川崎汽船、機関プラント運転支援システム、運航者視点で研究開発。AI活用、船員の負担軽減へ

機関プラント運転支援システム(イメージ図)
機関プラント運転支援システム(イメージ図)

 川崎汽船が将来の自動運航船の実現に向けた基礎技術の研究開発に注力している。同社は先月、川崎重工業との間でAI(人工知能)を備えた機関プラント運転支援システムの共同開発契約の締結を発表した。同システムは主機、発電機などの機関プラント全体を管理するもので、本船に搭載されたAIが運航データをリアルタイムに学習・診断。クラウド上のAIにもビッグデータとして蓄積・共有し、機関トラブルの防止、船員の負担軽減、燃料消費の改善、GHG(温室効果ガス)削減などに寄与する。同社は機関プラントを構成する複数の機器のインターフェースを統一し、"運航者の視点"から汎用(はんよう)性に優れた使い勝手の良いものとなるよう、開発を進める意向だ。

 「重大な海難事故の防止を図るとともに、船上で過酷な労働とプレッシャーにさらされている船員の負荷を少しでも軽減できるようにしたい」

 川崎汽船の山崎伸也先進技術グループ先進技術開発チーム長はAI活用の機関プラント運転支援システム共同開発の狙い・目的について、こう語る。

 近年、環境規制や資源メジャーなどからの船質改善要求への対応で船員の船内業務が増加。航行安全を確実なものとするために、船員の負荷軽減が求められている。

 今回、研究開発を進めることを決定した同システムには、AIを用いた機関プラント運転データの解析結果をベースに故障予知・診断、状態監視保全(CBM)、最適運転支援などの機能を備えさせる予定。

 船員だけでなく、陸上管理者にも故障予知・診断結果などの有用な情報を提供し、重大な機関トラブルを未然に防止する。さらに効率的な整備計画をサポートするほか、燃料消費の改善やGHG削減にもつなげる。

 システムの要となるAIについては、同分野のスタートアップ企業プリファード・ネットワークス(東京都千代田区)と連携・協力する。同社は深層学習などのAI技術に強みがあり、ロボットや産業機器の最適制御でメーカーなどと実績を重ねている。

 亀山真吾先進技術グループ長は「彼らのAI、機械学習、深層学習に関する優れた知見、最先端のノウハウを生かし完成させたい」と語る。

■全運航船への搭載視野

 AIは船内だけでなくクラウド上にも設ける。運航船に搭載された統合船舶運航・性能管理システム「K―IMS」からの運航・機関データ▽経験に基づく運用・整備ノウハウ▽川崎重工の船舶建造・推進プラント製造に関する技術力―を読み込み、学習・進化していく。「運転データのみならず日々の故障や整備記録などの変化の情報もAIの学習材料になる」(亀山氏)

 各船から集まったデータはクラウド上のAIに蓄積・共有され、ビッグデータとなっていく。

 この研究開発は約3年かかる予定。その後、川崎汽船は自社船を中心に「K―IMS」を搭載した約120隻に導入を進め、その後、用船への搭載も視野に入れている。また導入コストの適正化を経た上で、他社船でも使用可能な汎用性のあるシステム開発を目指す。

 まずは自社船を対象に、主流のディーゼル機関を使用している船舶から搭載を進める。次いで、一部のLNG(液化天然ガス)船などで採用されている蒸気タービンや電気推進を用いた船舶にも拡大していく計画だ。

 ただ、同システムで管理することになる機関プラントは、主機や発電機のほか、さまざまなメーカーの装置・機器で構成される。通常、メーカーごとにユーザーインターフェースは異なるが、川崎汽船は「運航者の視点で開発を進める」(亀山氏)考えで、ユーザーインターフェースの統一・一体化も志向している。

 並行して研究開発を進めるAIを使った統合操船者支援システムと合わせ、同社は自動運航船の実現に向けた歩みを進めていく。

 統合操船者支援システムでは、各種の先進技術が捉えた状況認識から操船に至るまでの5つのプロセスを踏まえて、デバイス上で操船情報を3D表示できるのが特長の一つ。「本船周辺を上空から俯瞰(ふかん)した絵として確認できる」(山崎氏)といい、視界不明瞭な悪天候や夜間時の航行安全をサポートするものとなる見込み。