印刷 2021年09月21日デイリー版1面

NEC、AI間交渉、物流に活用、船社選定での導入も視野

 NECはAI(人工知能)同士が条件交渉を行うAI間交渉を、製造・物流分野に活用する取り組みを進めている。これまでに商社などと、国際輸送のスペース予約などで実証実験を実施。荷主・業者ともに物流業務の効率化で一定の成果を収めたという。長期的には荷主の船社選定への導入も視野に入れている。さらにAI間交渉の普及に向けたエコシステム形成へ、製造・物流関連の事業者とのコンソーシアムを先ごろ立ち上げ、企業間連携を深めている。(3面に関連記事)

 デジタル化の進展により、企業活動に伴うさまざまなデータが可視化されるようになってきた。企業はこれらのデータを需要など将来予測や意思決定などに活用しようとしており、そのための技術開発も進んでいる。NECでは次の段階として、企業間の交渉や連携にもAIが活用され、付加価値を生む状況を見据える。

 カスタマーサービスなどをAIが対応するチャットボットなど、企業実務へのAI導入は既に始まっているが、現時点ではヒト対AIという段階が多い。

 NECデータサイエンス研究所の中台慎二主任研究員は「組織は個別の効用関数(情報やサービスの効用を数値に置き換えた関数)を持つが、AI間交渉であれば、それぞれの組織の効用関数最大化を短時間で導くことができる。物流分野では受取時間や納入時刻、バース予約など、細かな調整業務を必要とする業務が多々ある。これらをAI間交渉によって支援し、効率化を実現したい」と語る。

 NECは物流分野でのAI交渉として 1.製造・物流にまたがるバリューチェーンの最適化 2.ドローン(小型無人機)・AGV(自動搬送機)の経路交渉―の2分野での活用を検討している。

 同社はOKI、東京農工大、豊田通商と共同で、政府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の枠組みで2018年から今春まで、製造・物流現場でのAI間交渉による業務効率化などで研究を進めてきた。

 実証実験の一つとして、協力フォワーダーと連携し、航空フォワーディング業務のAI化に取り組んだ。

 荷主が希望の条件を入力すると、AIがブッキングの可否などを回答。例えば「スペース不足で積めない」という回答に対して、荷主が希望運賃単価を引き上げるなど代替条件を再入力すると、AIが他の荷主と交渉。後の便でも良いという荷主がいれば、スペースの入れ替えなどを行う。

 同実験ではフォワーダー側だけがAI対応だったが、荷主側もAI化することで、関係者が直接調整業務を行うことなく、AI同士が交渉するため、業務負担は軽減される。また、需要予測なども行い、航空便ごとに最適な収益が取れる貨物でスペースを埋めるように調整することで、収益最大化も実現できる。

 NECはさらに、大手商社と共に船社選定でのAI間交渉活用を検討している。

 通常、大手荷主が行う船社選定は、年に1回、3カ月以上かけて選定作業を行う。しかし、昨今は海運市場の変動も激しく「3カ月の間に、条件提示をした時点での想定と全く異なる状況になっていることもある」(NEC)。

 AI間交渉により低コストで効率的に船社選定ができれば、選定の頻度も増やすことができ、その時々に応じた最適な船社選定が可能になる。現時点では具体的なスケジュールは未定だが、両社で検証を進める方針だ。

 AI間交渉の普及にはエコシステム形成を重視する。

 19年には豊田通商、OKI、産業技術総合研究所などと共同で、国際業界団体IICに対して、産業用インターネットでの新技術などの有用性を検証するテストベッド(検証環境)として、AI間自動交渉プラットフォームを提案し、承認されている。

 ほかにもトラックバースの予約などに関するマッチングプラットフォームなども実際に提供している。これらの経験を生かし、AI間交渉の普及に向けて9月に製造・物流事業者とコンソーシアムを設立した。

■AGVでも経路調整

 物流条件の交渉に対して、実際のフィジカルな空間での調整として、ドローンなどの移動体の経路調整にも取り組む。

 ドローンの運航では、各国の公的な管制機関が集中管理する形式が検討されていたが、米国では徐々に複数のUAS(無人機)サービス・サプライヤー(USS)と呼ばれる組織が分散管理する形式に移行しつつある。このため、衝突回避などへ交渉・調整がこれまで以上に重要になってきている。

 NECは先ごろ、福島県でドローン運行管理システムの相互接続試験を実施。1時間に37機・146フライトを実施し、無事に試験を成功させた。

 さらにこれらのノウハウを生かし、複数の事業者を想定した、倉庫内でのAGVの経路調整に関する実証実験も実施した。長期的には港湾荷役機器などにも応用できると見ている。