印刷 2021年09月17日デイリー版4面

記者の視点/鈴木隆史】航行安全品質強化、ノンテクニカルスキルの向上を

 川崎汽船が3日にオンラインで開催した第15回船主安全対策連絡会を取材する機会を得た。同社と親交のある船主、船舶管理会社計42社の関係者が参加し、航行安全や環境規制への対応などに関する情報を共有・交換した。

 同会合では、気候変動目標に関する世界の動きや、ポートステートコントロール(PSC、寄港国検査)での指摘事項、SOX(硫黄酸化物)スクラバー(排ガス浄化装置)搭載船の不具合情報など、さまざまなテーマのプレゼンテーションが同社関係者より行われた。いずれも円滑航行に関わる恒常的な課題であり、プレゼン後、船主関係者らからの質疑応答も活発だった。

 その中で記者が最も関心を持ったのは同社の航行安全に関する取り組み「“K”AREプログラム」についてのものだ。

 同プログラムは、コミュニケーションやチームワークなど、人との関係性を重視した社会的・対人スキルである「ノンテクニカルスキル」を浸透させ、ヒューマンエラーに起因する事故の減少、大事故の撲滅を図るというもの。教育アプリも活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みでもある。

 航海計器や機関システムなどのハードは日々進化を遂げている。航行安全で守るべきルールもIMO(国際海事機関)での審議を通じ、時代に沿ったものへブラッシュアップされ続けている。

 それでもなお、深刻な海難事故は後を絶たない。そうした事故の8割は誤認識、誤判断といったヒューマンエラーに起因するといわれる。人間の能力には限界があり、ヒューマンエラーを完全になくすことは難しい。そうした中、川崎汽船は同プログラムを通じ、グループ社員のノンテクニカルスキルを向上させ、ヒューマンエラーの最小化を志向。安全レベルの向上に日々注力している。

 プレゼンを聴講し、ノンテクニカルスキルの重要性は船舶の航行安全に限ったものではなく、全ての仕事に当てはまると思った。もちろん、われわれ記者の仕事も例外ではない。商品である記事はノンテクニカルスキルそのものの結晶だ。取材先や仲間とのコミュニケーションの巧拙が、記事の良しあし、品質に直結する。周囲からの助言・アドバイスによって、記事の方向性やトーンは大きく変わる。そして、誤字脱字や事実誤認による誤報といった記事のミスはまさにヒューマンエラーだ。人間が行っている以上、ゼロにすることは難しいが、円滑なコミュニケーションやチームワークによって、ミスを軽減できることは確かだ。現に周囲への声掛けによって、ミスに気が付き、事前に防ぐことができたという経験は何度もある。

 ただ、リモートワークをしていると、そうしたコミュニケーションはなかなか難しい。作業を円滑に進めるアプリも活用しているが、当然ながら対面に勝るものはないと感じる。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、今後も取材や会議などもろもろの業務はオンラインがメインとなるだろう。こうした環境だからこそ、一つ一つのコミュニケーションを丁寧に行い、各自がノンテクニカルスキルを向上させる必要がある。航行安全を支えるパートナーである船主、船舶管理会社とのコミュニケーションを深める同会合に参加し、改めてそう感じた。