印刷 2021年09月09日デイリー版4面

記者の視点/山田智史】海運会社の技術力、変化の時代開く原動力に

 「社内的に“技術力”への期待がこれまで以上に高まっている」

 海運大手の陸上職の技術者はこう語る。

 海運会社の技術者として真っ先に思い浮かぶのは、船員を中心とする海技者だと思う。航海士や機関士として船上で実務を重ね、それらの経験を生かして船舶管理や営業支援など陸上でも活躍している。安全運航や効率運航を実現する上で、海技者の重要性は今後も変わらない。

 海技者のほか、最近はデジタル技術で変革を目指すデジタルトランスフォーメーション(DX)の担い手となるIT技術者の重要性も増している。さらには、船舶工学や機械工学のバックグラウンドを持つ陸上職の技術者が活躍する場も広がっている。

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 陸上職の技術者は、新造船の仕様を検討し、図面を承認して、建造工程を管理することが基本になる。陸上技術者の活躍の場が広がっているのは、世界的に脱炭素化のうねりが強まっていることが主因だ。

 海事業界はアンモニアや水素といった船舶用ゼロエミッション燃料の研究開発に注力している。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、それら新燃料のサプライチェーン構築への貢献も求められる。

 再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、日本にも洋上風力発電の巨大な市場が誕生する見込みだ。それに伴い、これまでなじみがなかった各種作業船の導入も検討が進む。

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 取り巻く環境の急激な変化について、海運大手の陸上職の技術者は「100年に一度の大波」と語る。

 その大波に対応するため、エンジニアリング力の強化が課題の一つになっている。具体的には「新規事業の初期設計や事業の目利き、アイデアを実現する力をつける必要がある」(海運関係者)という。

 エンジニアリングの強化が海運会社の課題になることについては、国内で船舶修繕を手掛ける造船所が少なくなったとの事情もあるようだ。

 これまでは規模の小さい改造工事などは、修繕ヤードに柔軟に対応してもらえた。だが、「新造船の設計技師が豊富な半面、既存船の改造を機動的に手掛けてくれるところが少なくなった」(同)ことが背景にある。

 そこで海運大手は陸上技術者を拡充し、外部の設計会社との連携も強化しながら、エンジニアリング機能の一部の内製化を目指している。

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 海運大手は2000年代後半に、海洋資源開発の活発化を受けてFPSO(浮体式石油生産・貯蔵・積み出し設備)などの海洋事業へ参入。EPC(設計・調達・建設)にも積極的に関与して、海洋事業に関わる知見を蓄積し、事業の柱の一つに育てた。

 船舶用燃料の大転換、新燃料のサプライチェーン構築、洋上風力発電の巨大市場の誕生―。化石燃料への過度の依存からクリーンエネルギーへの転換であるエネルギートランスフォーメーション(EX)は、海運業界だけでなく社会全体の課題でもある。これら社会的な要請に応えるエンジニアリング力を身に付けることは、海運会社としての未来を切り開く原動力になる。EXを支える技術者に注目したい。