印刷 2021年09月06日デイリー版4面

記者の視点/浅野一歩】未来に残す海事産業、デジタルが大きなキーワードに

 長年にわたって舶用クランクシャフトの製造やプロペラ軸の加工などで使用されてきた大型旋盤を広島県の呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)で保存することを目指す「クラウドファンディング(CF)」の寄付金額が先日、2億円を突破した。旧呉海軍工廠(こうしょう)で戦艦「大和」の主砲を削り出したという由来があるとはいえ、舶用製造機械が異例ともいえる注目を集めており、今月末の締め切りまでどれだけ集まるか驚きと共に見守っている。

 この2億円という数字から何が連想できるだろうか。

 2022年度予算の概算要求で、国土交通省海事局は「デジタル改革によるDX(デジタルトランスフォーメーション)造船所の実現」に向けた費用として2億円を計上した。これまでばらばらに行われていた船型開発・設計、建造から運航・メンテナンスに関する各種システムを連携させ、船舶のライフサイクル全体の効率化を実現するという。

 防衛省も防衛産業のDX推進に向けて、革新的技術とその適用にかかる調査研究費として2億円を求めた。ここでいう「防衛産業」に艦艇を建造する造船所や装備品を製造する舶用企業が含まれている可能性は大いにあり、DXは日本の海事産業、とりわけ造船・舶用における大きなキーワードとなっていることは間違いない。

 しかし、世界的なテクノロジー進化の動きに追い付けるかは未知数だ。売り切り型の事業モデルからの脱却を目指しているとしているが、経済性と環境の両面で高いレベルが要求されている昨今、欧州の舶用メーカーやエンジニアリング会社のようにシステムインテグレーターとして先行している所と張り合うには、相当の覚悟が必要だろう。

 一方で、日本でも先進的な船舶の実現に向けたベンチャーやスタートアップによる動きが活発化している。

 商船三井や旭タンカーなどが出資し、電気推進船(EV船)の普及促進などを目指す「e5ラボ」は、世界初のゼロエミッション電気推進タンカーの開発や、電気推進システムを搭載するカムサマックス型バルカー(8万6000重量トン型)のコンセプトモデル作成といった取り組みを続けている。

 衣料品通販ZOZOのCOO(最高執行責任者)を務めた伊藤正裕氏が新会社「パワーエックス」を立ち上げ、世界初の電気運搬船「Power ARK 100」の計画を発表するという全くの異業種からの参入も起こっている。

 いずれも大型蓄電池のようなハード面から、運航システムなどのソフト面、さらに国内造船所のアップグレードといったさまざまな課題があるが、それを吹き飛ばす勢いで関心が高まっている。

 約80年前に輸入された大型旋盤は人々に愛され、保存が決まった。私たちが80年後に海事産業を残せるか、今が正念場だ。