印刷 2021年08月23日デイリー版2面

国内船主の今】(278)試される情報発信力。ファンネルが象徴するもの

 11日午前7時35分、八戸港(青森県)防波堤外側。台風9号から変わった温帯低気圧により東北地方の海上が大しけとなる中、バース待ちをしていたチップ船「Crimson Polaris」が強風に流されて座礁した。

 「チップ船は貨物が軽いこともあり海上に出ている船体面積が大きく、自動車船と同様に風を受けやすい。荒天時は相当に神経を使う」

 海上経験の豊富な船主関係者はこう指摘する。

 同船はいったん自力で離礁したが、5番・6番貨物倉の間付近に亀裂が入り、沖合4キロメートルの錨地で船体が2つに分断、燃料油の一部が流出した。

 13日夕には船主の洞雲汽船(本社・愛媛県今治市)、船舶管理会社の美須賀海運(四国本社・愛媛県四国中央市)、定期用船者の日本郵船が共同オンライン会見を開催。

 冒頭、洞雲汽船の大河内亮介専務が「被害の拡大防止に向けて全身全霊取り組んでいる。八戸の住民、漁業関係者に多大な迷惑と心配を掛けていることをおわびする」と謝罪した。

■会見の前面に

 「人ごとではない。事故はきょう、あすにも起こるかもしれない。同じ船主として、事故処理やメディア対応、船舶管理会社との関係など、考えさせられることは多い」

 会見の翌週、ある瀬戸内船主の役員が一問一答の記事を読んだ感想を電話口でこう語った。

 その上で、「実はこの事故が起きる少し前、シンガポールのコンサルタント会社から『緊急時のメディア対応マニュアルを準備しておくべきだ』とアドバイスされた」と明かす。

 郵船、商船三井、川崎汽船をはじめとする邦船オペレーター(運航会社)各社は毎年、模擬記者会見を開催し、事故発生時のメディア対応を訓練している。一方、船主も事故対応訓練を定期的に実施しているものの、「模擬記者会見まで行っている地方船主はほとんどいない」(商社関係者)のが現状だ。

 しかし、定期用船契約では事故発生時、船主が責任当事者の役割を負う。仮にメディア対応に一日の長がある邦船オペに会見のセッティングをサポートしてもらったとしても、「船主が前面に立たなければならない立場にある」(船主の海務担当者)。

 昨夏以降、モーリシャス沖でのケープサイズ座礁(昨年7月)、スエズ運河での大型コンテナ船座礁(今年3月)、そして今回の八戸沖でのチップ船座礁と、社会的影響の大きい事故が相次ぎ、それぞれ日本船主が会見を開いた。

 中堅船主の関係者は「大手船主といえども、現時点ではメディア対応力に限界がある。外航船主業はグローバルビジネスだが、その点ではまだ地方企業の殻を脱却できていない」と課題を口にする。

 その上で、「しかし、海運業界でESG(環境・社会・企業統治)が合言葉となる中、われわれ船主にも透明性の高い情報発信が求められている」と述べる。

■信頼の証し

 「用船であっても、当社のファンネルマークを掲げた基幹船隊が社会的影響の大きい事故を起こした場合、契約上の責任とは別に、オペの役割が注目されても仕方がない」

 ある邦船オペの経営企画担当者は事故対応の在り方について、こう考えを述べる。

 世界の主要オペレーター各社は、自社保有船だけでなく、長期用船にも自社のファンネルマークを刻み、船体に大きく社名やブランドネームを掲げている。

 ファンネルマークは、長期用船パートナーの船主に対する信頼の証しであり、その船がオペレーターのスタンダードに基づく基幹船隊の一部であるという位置付けを示す。

 八戸沖の座礁事故で13日の会見に出席した郵船の鹿島伸浩常務執行役員ドライバルク輸送本部長は、用船の管理体制について言及。

 「船主との安全のコミュニケーション、船ごとのチェックリストの作成、定期的な安全講習会などを頻繁に実施している。そうした中での事故の発生で、(安全対策について)『まだ足りない』という意識を持った」と船主とのさらなる連携強化の必要性を口にした。

 定期用船契約上、船主が事故の責任当事者である一方、オペレーターには荷主の貨物を安全、確実に運ぶ責任があり、オペもまた安全運航の当事者と言える。

 船舶管理会社については、船主と結ぶ船舶管理契約上、原則的に船員の過失や故意による損害の責任は問われない。ただ、船舶管理会社が担う、船員の教育や船のメンテナンスが安全運航に果たす役割は大きい。

 「船主は自らの資産である船が目の前にない。だからこそ、さまざまな手段で安全と品質に目を配らなければならない。例えば、船舶管理を外部委託する際は、訪船や検船の機会を増やすなど、船舶管理会社と良い意味で緊張感のある関係を築くことが重要だ」(瀬戸内船主関係者)

 安全運航は船主、船舶管理会社、オペレーターの「三位一体」で成り立つ。そこには、契約上の責任関係だけでは割り切れない、それぞれが安全運航で果たすべき役割と信頼に基づく強固な連携が存在する。

 (国内船主取材班)

 =毎週月曜掲載