【MariTech 海事未来図】三井物産、AI最適運航支援。燃費予測精度98―99%
三井物産は、AI(人工知能)技術で船舶運航のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する。同社が出資する米国のベアリング社(本社・カリフォルニア州)が開発した深層学習(ディープラーニング)ベースの船舶性能モデルで燃料消費量の予測を行ったところ、船種を問わず98―99%の高い精度で予測できることが分かった。三井物産は同モデルを海運会社などに提供し、運航効率改善による採算性向上や環境負荷低減をサポートすることで、持続可能な海運業の実現に貢献する。
ベアリング社は、AIの世界的権威である香港出身のアンドリュー・ング氏が創設したAIファンド(本社・米カリフォルニア州)と三井物産が共同出資で設立した海事産業向けAIのスタートアップ企業になる。
AIファンドはAIの中でもディープラーニングに特化したファンドで、三井物産は2018年に出資参画し戦略的パートナーになった。海運業界のAI活用の可能性に着目し、事業会社としてベアリング社が19年に設立された。
深層学習ベースの船舶性能モデルの実証試験では、海運会社に提供してもらった実際の燃料消費量とその時の運航データを学習させた上で、限られた新しい運航データを入力し、燃料消費量や軸馬力、対地船速を予測した。その結果、予測精度が98―99%になることを検証した。
同モデルの実証試験は、自動車船や石油製品を運ぶプロダクトタンカー、ドライバルク船で実施。いずれの船種でも高い精度で予測できることを確認した。
本船のリアルタイムの運航データが入手できない場合、具体的には1日1回のヌーンリポート程度の少ないデータでも、90―95%程度の精度で予測できた。
その解析精度の高さが評価され、川崎汽船やデンマークのプロダクト船大手マースクタンカーズから分離・独立したデジタル企業ゼロノースが採用を決めた。
川崎汽船は約300隻の運航船に搭載している船舶統合システム「K―IMS」にベアリング社が開発した船舶性能モデルを採用。商船三井はベアリング社と共に、同モデルを活用した運航効率最適化に向けた研究開発を進めている。
ベアリング社はゼロノースのように、船舶の運航に関わるソリューションプロバイダーなどとの協業も進める。
三井物産関係者は「実海域での航行性能評価の精度が上がれば、船舶の設計や保守管理にも応用できると思う」と述べ、潜在的な顧客として造船所や船主も挙げた。
また、船舶からのGHG排出について「どの程度が気象海象などの外的要因に起因するものなのか、メンテナンスや最適速力からの乖離(かいり)によるものなのかを明らかにすることもできる」と語り、海運の低・脱炭素化にも貢献していく考えを示した。
実海域での船舶の運航性能を正確に把握することは、運航の最適化や環境負荷の軽減を図る上で重要になる。ただ、風や波、海流などの影響を受けるため、運航性能の解析精度を高めることは難しかった。
現在はIoT(モノのインターネット)技術の発達により、リアルタイムで取得できるビッグデータを活用することで一定の評価が可能になっている。ただ、さらなる解析精度の向上は海事産業全体の課題となっている。
三井物産は長年にわたり船舶関連ビジネスに幅広く関与してきた。デジタル関連分野にも先進的に取り組んでいる。それら総合商社としての知見やノウハウを融合し、実海域での運航性能評価の精度向上を支援し、船舶の運航に関わるDXを後押ししていく。
米スタンフォード大学教授のング氏は、米グーグルや中国の検索大手の百度でAI事業の立ち上げに関与。両社を世界トップのAI企業へ導いた実績がある。AIファンドには米国の著名なベンチャーキャピタルやソフトバンクグループが出資している。