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 印刷 2021年06月30日デイリー版4面

Ship of the Year 2020特集】新来島豊橋造船建造船「SAKURA LEADER」受賞、国内初のLNG燃料大型自動車船

偶数・奇数デッキ向けの専用スロープ設置で効率荷役を実現(写真提供は全て新来島どっく)
偶数・奇数デッキ向けの専用スロープ設置で効率荷役を実現(写真提供は全て新来島どっく)
LNGタンクの搭載
LNGタンクの搭載
シップ・ツー・シップのバンカリング
シップ・ツー・シップのバンカリング

 国内建造の大型船として初のLNG(液化天然ガス)燃料船となった7000台積み自動車運搬船「SAKURA LEADER」は、「シップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2020」を受賞した。日本郵船が保有・運航し、新来島どっくグループの新来島豊橋造船が建造した。自動車運搬船としては珍しい日本籍船でもある。新来島どっくグループとして初の挑戦で、同社のほか、郵船、日本海事協会(NK)、舶用機器メーカーが当初から連携。オールジャパンの取り組みが同船実現につながった。

 新来島どっくグループでは、過去に長尺レール運搬専用船「パシフィック・スパイク」がSOYの大型貨物船部門賞を獲得したことがあったが、大賞に当たるSOYの受賞は初となる。

「SAKURA LEADER」の最大の特長は、燃料のLNG化によりGHG(温室効果ガス)排出を大幅に抑制したこと。CO2(二酸化炭素)の排出量は、2008年をベースに40%以上の削減を実現した。このうち、燃料を従来の重油からLNGに切り替えたことで約26%削減。さらに、船型改良や、低摩擦塗料採用、省エネ付加物装備などで20%程度減らした。

 新来島どっくグループでは、幅広い独自の省エネ付加物を「SAKURA LEADER」に適用。

 左右非対称断面として、フィン前後の流れを左右非対称にし、プロペラの回転エネルギーを回収する「エイ・エス・フィン」、プロペラ翼と全く逆の機能を持ったタービン翼によりプロペラトルク(プロペラの回転を阻止する力)を軽減する「ターボリング」、舵上部に装備し抵抗を下げる「スケグフィン」、翼断面形状を最適化した「ケイキュービックプロペラ」、プロペラ上方で流れの乱れを整流・加速する「チップフローフィン」などが、CO2排出削減に貢献した。

 デジタル化についても、NKから、先進的な技術を備えた船舶に付与される船級符号「Digital Smart Ship(DSS)」を世界で初取得した。

 同船は多数のセンサーと分散型統合監視制御システム、NKの機関状態監視・自動診断システム「ClassNK CMAXS LC―A」、郵船の船舶パフォーマンスモニタリングシステム「SIMS」などを採用。船陸間で運航船のデータを共有し、陸上から船舶を監視することなどで、異常の早期検知による故障の予防などにつなげている。

 安全運航のため、就航データのリアルタイムでの見える化や、機関長の経験と最新の機械学習機能を用いた異常判断ロジックの作成などにより、アプリケーションも開発した。

■荷役に新しいアイデア

 環境、デジタル化対応のほか、顧客の利便性にも配慮し、荷役面で新しいアイデアを適用した。通常の自動車運搬船では、貨物倉内は立体駐車場のように車は入り口から最上階に行く場合、途中の階を全て通過しなければならず、事故発生につながる旋回が多くなる。

 「SAKURA LEADER」では、車が乗り込むデッキ(5層目)から、右舷側に奇数デッキ(7、9、11、最上階のガレージデッキ)向け、左舷側に偶数デッキ(6、8、10、12)向けの専用スロープをそれぞれ設置。奇数デッキ向けスロープは緑色、偶数デッキ向けは赤色に色分けして、運転手が直感的に理解する工夫を行った。

 これにより、「運転手のハンドルを切る回数が減少し、荷役時間を約10%短縮できた」(新来島どっく技術設計本部の羽藤慎一副本部長)。

 自動車運搬船は通常箱型で、船体を支えるための部分隔壁など「骨組み」が必要。これまで直進するスロープを設けづらかった。この発想を見直すことで、安全を担保しつつ、長く真っすぐなスロープ構成を実現した。スロープ自体の幅も広げたほか、郵船へのヒアリングなどを踏まえ、積載する車の多様な動線を考慮し、スムーズな荷役を実現した。

■オール日本で連携強化

 「LNGを扱ったことがない状態からのスタートだった。最初は、どこにどのようなことを聞けば良いかも分からなかった」

 同技術設計本部基本設計部の大谷洋一開発課長は、これまでを振り返る。新来島どっくとしてのLNG燃料の取り組みは16年秋から本格化。同社OB、船主、船級協会などへの相談から、人脈拡大、知識積み上げなどを経て、同船の建造が決定した。

 夢物語から、具体的に建造できる状態に、さらに建造対象を競争力のある船にする。この過程で、日本の海事クラスター全体で、大型LNG燃料船建造に関する技術面での連携強化などを目指し、関係者が意見交換・情報共有できる集まり「Challenge 4 zero」が立ち上がった。

 参加者は新来島どっくのほか、船主(郵船)、船級協会(NK)、ガス関連中心の舶用機器メーカーの4極。舶用機器メーカーとして、主機を手掛けるIHI原動機、発電機を供給するダイハツディーゼル、LNG燃料供給装置(FGSS)を納める三菱造船、ボイラーを担当するサンフレム、分散型統合監視制御システムを提供する寺崎電気産業が名を連ねた。

 例えば、FGSSの場合、主機だけでなく、発電機も関係する。FGSSと主機のように1対1のやりとりでは済まないため、このような横断的な場が課題解決などで重要な役割を果たした。デジタル化の取り組みでも、「Challenge 4 zero」のメンバー間で知見を蓄積・共有したことなどで、技術向上につながった。

 「こういう集まりは、これまでほとんどなかった。船主、船級協会、舶用メーカーそれぞれに助けられ、一緒に成長できた。1社でも欠けたら実現できなかった」(大谷氏)、「トラブルもあったが、船主、船級協会、舶用メーカーにバックアップしてもらい、納期を守ることができた」(羽藤氏)

 新来島どっくグループでは今回の経験を基に、得意のケミカルタンカーなど他の船種にLNG燃料技術を展開する。脱炭素化が加速する中で、次世代燃料として水素、アンモニアも視野に入る。デジタル化に関しては、貨物倉の温度や湿度を陸側で把握するなど品質保証面での技術開発推進や自動車運搬船での車の自動荷役、さらには自動運航船の実現も見据える。