印刷 2021年06月29日デイリー版1面

インタビュー 海事産業強化法で業界支援】国土交通省海事局長・大坪新一郎氏、海事クラスター復権へ

国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏
国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏

 造船業の基盤強化や船員の働き方改革などを柱にした「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律」(海事産業強化法)が5月21日に公布された。省庁再編で国土交通省海事局が創設されて以来初めて、局内の全ての課が携わった。大坪新一郎海事局長は、就任期間2年間の集大成ともいうべき同法について「最大限やれることは盛り込んだ」と語る。同氏に同法の特徴や海事産業の課題について聞いた。(聞き手 船木正尋)

 ――海事産業強化法が今国会で成立したが。

 「海事産業強化法は、海上運送法や造船法、船員法、船員職業安定法、内航海運業法、船舶安全法の計6本の法律を一部改正し、パッケージ化した。法案の構想段階から政治的な関心は高く、国会でも与野党ともに法律の実効性を高める視点から前向きな審議が行われ、全会一致で可決・成立した。全ての関係者に感謝している」

■最大限の支援盛る

 ――造船法の抜本改正は初めてではないか。

 「資本主義経済である日本で、最大限支援できる施策を盛り込んだ。造船法を改正して、事業基盤強化計画の認定とそれに基づく金融面の支援制度などを盛り込んだが、法目的も大幅に加筆し、安定的な海上輸送の確保、海洋の安全保障、地域経済の活性化など造船業の意義を書き込んだ。製造業の『業法』がほぼ存在しなくなっている中で、造船法は異彩を放つ」

 「業法があっても国営企業ではないので、企業自らが、中長期的な成長戦略を決めて取り組むことが必要。今回のスキームは、民間企業の事業再編や投資を金融面などで支援するものであり、各企業が、規模や生産性向上で戦うのか、ゼロエミッション船などの新分野での先進性で勝負するのか、戦略を考えなければならない」

 ――この法律で建造コスト削減は可能か。

 「中国との船価差が2割もあるとか、それを今回の支援策で埋められるのかという質問がよくあった。われわれと造船企業との議論の結果として、コストで1割は下げられるのではないかと回答してきた。『2割』については船種によって異なると思うが、差が埋まらないとすれば、製品のライフサイクルバリューで補完するしかない。造船に限らないが、もしも、中国と全く同じ価格でないと買ってもらえないというのであれば、その産業は終わりだろう」

 ――日本は本当に技術で勝っているのか。

 「既に発表した『燃費実績格付け制度(CII)』の試算結果にもあるように、ならしてみれば、勝っていると認識している。ただし、これはEU(欧州連合)寄港の現存船の実燃費によるもので、あくまで過去の成績。今後も技術の優位性を維持できるか、不断の努力が必要だ」

 「コストの削減や技術の磨き上げに向けて、複数事業所間の最適化も含めて設備投資などに積極的に動いている造船企業は複数ある。今回、ツーステップローン(2段階融資)を法律事項として含めているが、金融機関の協力は必須。企業が不退転の決意をもっての投資であることを理解してほしい」

■部品の国産化必須

 ――日本にとって厳しい分野は。

 「近年のLNG(液化天然ガス)輸送船の建造実績で圧倒的に負けているので、LNG関連技術の蓄積の差がさまざまな船種のLNG燃料船にも効いてくることを懸念する」

 「LNG燃料船については、船型・船種ごとの1番船を、実証という位置付けで環境省との連携で支援してきた。PCC(自動車運搬船)や内航貨物船、フェリーなどさまざまな船が既に竣工または建造中であり、出だしを支援すればその後は自然に進むだろうと思っていた。しかし、よく内情を調べてみると、ガス燃料供給システムのエンジニアリングを言いはやしていても、肝心の燃料タンクなどを海外製に頼っているという状況で、がくぜんとした」

 「海外製品を日本が当該国向けよりも安く輸入できるはずがないので、国産化しない限り、コスト競争では勝てず受注できない。国産化するにしても、各社ばらばらでやると、数が稼げず、コストが下がらない。タイプを絞り込み、集中して開発・低コスト化・連続生産する必要がある」

■コンセプト協働を

 ――造船業と連動して海運業も支援の対象としているようだが。

 「海運については、日本荷主向けの長期安定契約を主とした事業モデルは、相対的に縮小し、第三国輸送や、海洋資源開発・再エネルギーなどの新規事業で、日本発着貨物や日本荷主と関係ない世界で、競争を勝ち抜くことを迫られている」

 「そのため、優れた『商売道具』として、『特定船舶』への支援を入れた。日本の海運と造船が好循環を生み出し、共に成長することを狙っており、業種の垣根を越えた総合的な施策になっている。近年、多少変化しているとはいえ、日本の造船と海運は、お互いに高い依存関係にあり、世界単一市場であっても、自国の産業とのつながりは重要だ」

 「好循環が生まれるためには、造船が海運の新たなニーズに合う製品を供給できるよう、パートナーとしてコンセプト段階から協働することが必要。『うちの製品はこれだけです、その中から買ってください』では成り立たない。新しいことは海外造船と組んでやるという動きが出つつある中で、ここで日本海運に見捨てられたら終わり。『できませんとは言いません』という姿勢が必要だ」

 「一方で、海運側には、造船側のマンパワーの制約も理解してもらい、長い目で付き合ってもらいたい」

■ミクロな課題解決

 ――若年船員は増加している。

 「船員全体のデータで見ると、60歳以上の人数が増えているが、これは30年前、大量に内航に転職した人材の固まりが長年内航海運を支え、30年たって60代になったもので、いわば自然増。50代以上の割合を見れば2010年から19年で、50・7%から46・4%に減り、20代以下の割合は12・6%から19・2%に増えている」

 「これは、内航の新規就業者数が増え、近年は900人台を維持しているから。JMETS(海技教育機構)も絶対数は増えているが、それ以上に水産・海洋高校と新6級が増えた」

 「他産業の統計に合わせて34歳以下の割合で比較すると、船員(27・0%)は、全産業平均(25・1%)を超え、建設業(18・6%)を大幅に上回る。少子化の中で、若年船員の割合は年々増加しつつあり、悪化(若年割合が低下)している他産業との差は歴然。もはや『船員の高齢化』はデータ上、当てはまらない」

 ――それでも船員は不足しているのでは。

 「若年層は順調に増えているが、『船員不足』が解消したとは思っていない。これまでも一部の経営者から発言されてきたが、船員不足は、全体の需要・供給の問題ではなく、もっとミクロに、特定のセグメント・事業者・船の問題だ」

 「小型船かつ、荷役の負担が大きく労働時間が長い傾向にあるタンカーなどで顕著だが、ハードの制約による居住環境・作業環境の悪さや運航パターンに起因する労働時間の長さなど、個々に問題を解決していかなければならない」

 「個別の問題から目をそらして、『とにかく内航船員全体の供給を増やせ』と言うのは何の解決にもならない。たとえ全体の供給人数が増えても、相対的に『環境や処遇の良くない船・会社には行きたくない』という若者の気持ちは未来永劫(えいごう)変わらない。このことから、法案において若者の定着率を数値目標として掲げた」

■監査の実効性向上

 ――労務管理は新たな制度になる。

 「課題解決に向けて、国土交通省も変化・改革していく。新制度により陸上で船員の労務管理を行うことになるが、運航労務管理官による監査の在り方も変わってくる」

 「これまでは訪船して記録簿を確認していたが、今後、書類による監査は、陸上の事務所で、集中的に、効率的に行える。一方で、訪船監査の役割が失われたわけではない。訪船時は、船員の生の声を聞き、労務管理が適切に行われているか、船員の立場にたって、きめ細やかな監査が求められる」

 ――内航の業界構造は変わるか。

 「まず、船齢分布データを見ると、10年時点では船齢15歳、15年には20歳付近に高い『山』があり、これは、バブル時代に実需を超えて大量建造した名残。時の経過とともに、山は右側(船齢の高い側)に移動してくるので、そこだけ見れば『高齢化』なのだが、20年時点では25歳付近の山は崩れて、低くなっている」

 「現在は、若い船齢の分布は、ほぼ平たんになっている。老齢船がスクラップされて、実需のある船は代替建造されているが、実需のないものはそのまま退役していることを意味する。『船の高齢化』は、データ上は見えなくなりつつある」

 「船齢の平準化は、市場変動要因が小さくなるというプラス面がある。一方、海上荷動き量は、コロナ禍の収束後でも、減少トレンドが続くだろう。人口が減るとともに石油も鋼材も紙も化学製品も基本的に減っていく」

 「暫定措置事業も今夏には終了を見込む。国内物流を安定的に支えるためには、荷主やオペの側が、これまで以上に自らの輸送手段(船舶、船員)確保への関与を強化していくことが必要だ。今回の法案では、働き方改革の観点からの荷主やオペの責任を強化する措置を導入したが、業界の変化を期待したい。カーボンニュートラルへの対応も迫られている。オーナー側も船舶管理会社の積極的な活用など、さらなる努力を求めたい」

■人に優しい船建造

 ――事業者側の変化の兆しは。

 「全体的には船齢構成は平準化したが、199トン型に限って言えば最近の建造量が少なく、老齢船がまだたくさん動いている。運航パターンやハードの制約から、最も船員を集めにくい分野だ」

 「その中で、『内航ミライ研究会』のスマートアシストシップ(199トン型のケミカル船)は、『i―Shipping制度』でも支援をしたが、今すぐできる改革を実船に取り入れたことに価値がある。造った造船所も『船員の働きやすさを意識した船づくり』の面で意識改革になったのではないか」

 「同研究会が目指す『人にやさしい船』では、船員の健康管理、書類・手続きのデジタル化、居住区の配置や構造の見直しなど、魅力ある職場にするためのアイデアがたくさん含まれている」

 「これらを実現するためには、自動車でよく言われる『connected, autonomous』が重要だ。その効果を上げるためには複数の船舶を同時に管理することが有効である。この面からも、船舶管理会社を使うメリットは、増えてくる。これも背景に、船舶管理会社を法定化した」

 おおつぼ・しんいちろう 87(昭和62)年東大院修了、運輸省(現国土交通省)入省。米ハーバード大修士、東大博士。16年大臣官房技術審議官(海事局担当)、17年海事局次長。19年7月から現職。福岡県出身、58歳。