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 印刷 2021年06月14日デイリー版1面

インタビュー LnS事業展開】マースク北東アジア地区CEO・西山徹氏、顧客ニーズ洗い出し必要

マースク北東アジア地区CEO 西山 徹氏
マースク北東アジア地区CEO 西山 徹氏

 空前の活況が続くコンテナ輸送市場。船社にとっては追い風でもあるが、スペース確保に四苦八苦する荷主との関係をどう構築していくか、大きな課題でもある。現在、船社から「コンテナ物流のインテグレーター」を目指して事業転換を進めているマースクで、日本・韓国地区のトップを務める西山徹・北東アジア地区CEO(最高経営責任者)に聞いた。

(聞き手 幡野武彦、岬洋平)

 ――2021年度の運賃交渉を振り返った感想は。

 「コロナ禍による巣ごもり需要もあり、主要コンテナ航路の状況が今、空前の需給タイトとなり、20年に1度の事態になっているのはご存じの通り。今年の運賃交渉はこれまでとは全く違う景色となった。当然ながら運賃水準の底上げは達成したが、その規模も過去に例を見ないような上げ幅となった」

 「今回の運賃交渉を振り返ると、顧客がスペース確保を最優先で要求してきたのは大きなトピックスだが、それは大なり小なり他の年も同じこと。それよりも、今回ほど期中の契約改定に抵抗感がない年はなかったのではないか」

 「コロナ禍の反動増による空前の荷動きで物流混乱が続く中、荷主側も20年度期初に決めた既存契約では、とても輸送スペースを確保できないと強く感じたと思う。特に海外荷主の新年度契約が始まった今年1月からは、スペースが売り切れ状態となったので、日系荷主も年度末(3月末)までの既存契約を前倒しで打ち切り、残りの期間を新年度契約に加えて15カ月契約のようなものとしたケースもあった。これは本当に過去にない事例だ」

 ――この状況下、マースクとしての対応は。

 「純粋にオペレーター(船社)として利益を追求するのであれば、(契約運賃よりも)短期(スポット)運賃重視の施策を取ればいいだけだ。ただ、今の環境が未来永劫(えいごう)、続くことはない。マースクとしては今、事業のトランスフォーメーションを進めている中、中長期的な視点に立って、サプライチェーンの混乱で今の物流混乱で苦しんでいる顧客を手助けできる関係を構築することこそが必要だと思っている。もちろん、それは全ての顧客というわけにはいかないが、少なくとも当社とパートナーシップを構築している顧客はしっかり助けていきたいと思っている」

 「マースクは16年、グループのポートフォリオを再編し、(海上コンテナ輸送を中心とした)トランスポート&ロジスティクスに注力する方針の下、資源部門を売却。さらに『コンテナ物流のインテグレーター』を掲げ、19年初めにはダムコが有していたサプライチェーン関連業務をマースクに移管し、事業のトランスフォーメーションを進めている」

 「マースクのオーシャン(海上輸送)のグローバルキークライアント(KC、主要顧客)は全世界で約100社程度。次世代のKC候補も同規模ある。次世代候補を含めた200社超のKCと中長期的な関係を構築しつつ、今取り組んでいるロジスティクス関連事業の成長の半分を賄いたいと思っている」

 「KCのうち日韓地区の企業が約1割。また次世代候補もほぼ同数だ。顧客層も自動車や電機業界以外に、流通やアパレルなどこの地区の産業構造を反映した構成となっている」

■営業力さらに強化

 ――インテグレーターを目指したトランスフォーメーションの進捗(しんちょく)状況は。

 「顧客から見れば、いくらマースクがロジスティクスを含めたサービスを提供するとはいえ、全くの門外漢に頼むのはハードルが高い。その意味では鉄道輸送は海上輸送の延長でもあるので受け入れられやすい。アジア―欧州間での鉄道輸送と域内海上輸送を組み合わせた複合輸送サービスAE19は非常に好評で、今は満杯となっている。正直、鉄道輸送は海上輸送に比べて輸送力は小さく、輸送コストも高い。それでもこれだけ人気を博しているのは今、圧倒的に輸送スペースが足りていないからだろう」

 「こうした状況の中、ロジスティクス&サービス(LnS)事業を伸ばしていくには、徹底した顧客ニーズの洗い出しが必要となる。その能力に磨きをかけながら営業力を強化していく。とにかく徹底して海上輸送にとどまらないサービスを提供したい。一方で当社と顧客の方向性、ベクトルが一緒でなければいくらやっても意味がない。そこはしっかり確認する必要がある」

 「ロジスティクス分野でマースクは新参者なので、一足飛びに事業を広げられるわけではない。しかし、他の物流企業からの本質を突かない提案内容に対して、不満を持っている日系企業は少なくない。少なくともそういう印象はある。ロジスティクス分野でマースクは後発だが、当社のデジタル技術や幅広い商品ポートフォリオを駆使すれば十分に対抗できると思っている」

■日立と海外協業も

 ――日立物流との提携はLnSを補完するものとなるのか。

 「これは日立物流の発表の通り。両社のサービスメニューを組み合わせ、日本を中心に海外との輸出入を含めたシームレスなロジスティクスサービスを提供する。まずは日本国内での協業が対象だが、将来的には海外にも広げることを視野に入れている」

 「3月以降、日本支社の東京事務所に日立物流からの出向者2人を受け入れた。彼らは倉庫営業の専門家で、共同営業を行っている。今は日本国内での事業が対象だが、将来的には海外、エリアとしては日立物流が強みを持つ東南アジアでの共同事業も可能性がある」

 ――LnS(ロジスティクス&サービス)で提携するのは日立物流だけとなるのか。

 「マースクとしては日立物流が唯一の選択肢ではないし、同社もエーアイテイーや近鉄エクスプレスと提携するなど『協創』によるエコシステム(経済圏)形成に取り組んでいる。ただ、日立物流の経営判断は非常にスピード感があり、親和性が高い。同社は『トレードレンズ』も利用している。こうした部分は相互関係を高める上で大きい。日立物流との提携はまだまだ途上なので、もっと大きくしていきたい」

■LnS分野にも展開

 ――コンテナ船の船腹量でマースクはトップシェアだったが、今、MSCが猛追している。

 「グローバル規模の戦略は本社マターだが、私の理解としては、顧客のサプライチェーンをトータルで担う地位を確保するには、コンテナ輸送のシェアは20%あれば十分だと考えている。大切なのは2割前後のシェアを維持することで、トップか2位かという順位争いに一喜一憂する必要はない。海上輸送でシェア20%を25%に引き上げるための投資をしても、費用対効果は必ずしも良くないのではないか」

 「むしろ海上輸送でシェア2割の規模を維持しつつ、それを基盤に通関や倉庫、配送などLnS分野を広げる方がより、投資としては効果的。荷主の物流コストのうち、海上輸送の占める割合は実はごく一部。海上輸送のシェア2割を基盤としつつ、ロジスティクス展開をするのがマースクの立場だと思う」

 にしやま・とおる 02(平成14)年慶大法卒、マースク入社。トレード&マーケティング本部長(東京)、コペンハーゲン本社経営戦略室ディレクターなど歴任。17年8月北東アジア地区統括営業本部長、18年7月から現職。41歳。