印刷 2021年06月10日デイリー版1面

インタビュー 物流DX】ラクスル・ハコベル事業本部プラットフォーム事業部部長・執行役員・田島裕也氏、PFで輸配送を最適化

ラクスル・ハコベル事業本部 プラットフォーム事業部部長・執行役員 田島 裕也氏
ラクスル・ハコベル事業本部 プラットフォーム事業部部長・執行役員 田島 裕也氏

 印刷業界のシェアリングプラットフォーム(PF)で成功を収めたラクスルが、物流業界でも変革を起こそうとしている。トラック運送のマッチングPF「ハコベル」を2015年に開始して以降、BtoB(企業間)の輸配送を事業ドメインに展開。登録荷主数、車両数ともに右肩上がりで増やしてきた。輸配送の最適化を目指し、その前後の業務プロセスのデジタル化まで荷主とともに取り組み、デジタルトランスフォーメーション(DX)の領域を広げている。(聞き手 梶原幸絵、岬洋平、菊田一郎)

 ――ラクスル社のこれまでの展開を。

 「当社はBtoBの取引をスムーズにするプラットフォーマーを目指している。シェアリングエコノミーにより産業構造を効率化し、指数関数的にインパクトを広げて世の中を変えていくのが目標だ。一定の市場規模があり、かつ非効率が存在し、改善していくチャンスがあるかを基準に印刷のラクスルから物流のハコベル、広告のノバセルへと事業の対象領域を積み上げてきた」

 「物流業界はステークホルダーと業務プロセスが非常に多く、とても複雑な業界だと思う。だからこそシェアリングPFの需要が強く、当社がテクノロジーを使って価値を提供することができる。市場規模も印刷業界の約3兆円に比べてトラック運送は約14兆円と、格段に大きい」

 ――ハコベルの概要は。

 「目指すのは、需要(荷主)側と供給(運送会社)側の取引の最適化、輸配送手段の最適化だ。多重下請け構造に代わって荷主と運送会社を直接つなぎ、取引をスムーズにする。軽貨物を対象とする『ハコベルカーゴ』と、一般貨物が対象で、ソフトウエアをネット経由で提供するSaaS型の配車管理システムを組み合わせた『ハコベルコネクト』により、幹線輸送から域内輸送、ラストワンマイルまで広く対応している」

 「荷主数は『カーゴ』と『コネクト』の合計で約3・4万社、提携運送会社数は約8700社。登録車両台数とドライバー数はそれぞれ2万を突破した(昨年11月末時点)。マッチング率は100%を志向しており、『カーゴ』のマッチング率は97・9%(同)だった」

 「得意とする領域は域内輸送とラストワンマイル。小口の案件を多く手掛けている。また、オンデマンド配送に近い、需要が変動する分野に強みを持つ。これらの領域では大口案件や幹線輸送、ルーティンで計画的に動く案件よりもテクノロジーが効きやすい。同様の理由で需要変動の激しい食品や飲料、日用雑貨業界などの荷主の開拓に力を入れている」

 「国際海上・航空貨物の国内集荷やデリバリーも多く手掛けている。ドレージ(海上コンテナ陸送)のマッチング需要も増えているので、今後はトレーラーにも対象を広げたい」

■荷主の業務効率化

 ――他のマッチングPFと比べた特徴は。

 「BtoBにコミットし、とりわけ荷主の物流DXを主眼にしていることだろう。荷主のオペレーションまで入り込み、ともに改善を重ねている。他社は軸足をBtoC(消費者向け)に置いていたり、幹線輸送であったり運送会社のDXにあったり少しずつ違うので、現状はそれほど競合していない」

 「各プレーヤーが切磋琢磨(せっさたくま)しながら、それぞれの領域で成長することが業界全体の最適化につながる。当社が他社と連携することも考えられる。物流業界は広いので、1社で変えていくのは難しい。1社で独占しようという意識はない」

■前後工程と連携

 ――荷主の物流DXをどのように進めているのか。

 「荷主のオペレーションをPFにスムーズにつなげ、効果を上げるためのカスタマイズに注力している。マッチングPFを使うために新たに負担が発生しては意味がない。例えば、荷物を運ぶのに貸し切り便か宅配便か、貸し切りなら2トン車か4トン車かといった割り当てが必要であれば、当社が細かくヒアリングをし、ともにオペレーションの改善とデジタル化を進める。PFと荷主の既存のWMS(倉庫管理システム)などとの連携を含め、輸配送の最適化に必要となる前後工程とスムーズに連携できるようにサポートする。これにより、個社最適になっていた業務の標準化・効率化を進めている」

 ――標準化が進めば自動化も進めやすくなる。

 「そのためにも、物流の共通基盤と言えるものを作りたい。今後、BtoC市場の伸びもあり、物流量は一定程度増えていくだろう。一方で、ドライバーの供給が減少するのは間違いない。ところが自動運転が実用化されたとしても、移行のハードルは高い。既存の業務を変える痛み、自動運転への抵抗感などが課題になるためだ。それがハコベルを使っていれば、貨物の一部が自動運転車両で運ばれても荷主が意識することはないし、業務も変えずに導入することも可能となる」

■繁閑差が縮小

 ――新型コロナウイルス禍は物流業界にどのような影響を与えたか。

 「BtoB(企業間)の輸送需要は減少したが、自宅待機の増加でBtoC(企業発消費者向け)のラストワンマイル(最終配送)が伸び、関連する輸配送も増えた印象だ。供給サイドでは、軽貨物の輸送力が大きく増えている。運送会社を含め企業の倒産や人員削減により、個人事業主の軽貨物ドライバーやバイク便・自転車便のギグワーカーが増えている」

 「荷主の間では需要変動のリスクへの意識が高まっている。需要に合わせた生産・出荷の最適化を進めているため、以前に比べて物流の繁閑差が縮小し、荷物の総量も減少している。運送契約も年間の固定契約を見直し、変動要素を入れる傾向がある」

 ――ドライバーの需給状況は。

 「コロナ禍で需給が一時的に緩んでいるといわれるが、供給を使い切れていない、あるいはそれぞれの企業にとって必要なタイプのドライバーがいないという可能性もあると考えている。貨物需要が見える化されていないことが多く、業界内の情報流通が限定的で、正しい需給が見えない。情報の伝達手段もアナログで時間がかかる。需要があっても即応できず、リソースの稼働率が上がらないとみている」

■物流需要を可視化

 ――そこでハコベルによるデジタル化の価値が出る。

 「荷主の荷物情報、荷物量を全てデジタル化し見える化する。それに基づき、最適な運送会社、車両がマッチングされれば荷主は無論のこと、供給量が適正化され、運送会社にもメリットが出る」

 「今後もプラットフォーム(PF)の利用拡大と見える化のために必要な機能を拡充していく。関東圏の域内輸送から事業を始めたこともあり、現状は域内輸送に強みがあるが、今後は荷主のワンストップ化・最適化ニーズに応え、幹線輸送も増やしたい」

 「ハコベルが取引に関わる物量が増えれば、それだけ最適化の精度が上がる。さらに物量が一定量を超えれば最適化の精度は飛躍的に上がる。トラック運送の最適化には時間、場所、容積、重量、貨物の品目、庫内作業との関連など、印刷に比べて制約条件が多いのでかなりの物量が必要になる。2020年7月期のハコベル事業の売上高は前の期比約42%増の約22億円と市場のごく一部にすぎないので、拡大のスピードをアップしていきたい」

 たじま・ゆうや 大学卒業後、新卒でリクルートに入社。不動産ポータルのシステム開発のプロジェクトリーダーなどを経て、オイシックスとのJV設立やEC系の新規事業の立ち上げなどを経験。14年10月にラクスルに入社後はシステム部・プロダクト開発部の責任者、カスタマーリレーション部部長などを歴任後、20年にハコベルに異動。現在プラットフォーム統括執行役員として活躍中。