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 印刷 2021年04月20日デイリー版4面

記者の視点/船木正尋】病院船導入への課題、既存船活用で活路見いだせ

 新たな感染症や大規模災害の発生時に海上で患者の治療や搬送をする「病院船」は、阪神淡路大震災、東日本大震災など大規模地震が発生するたびに、導入の機運が高まってきた。新型コロナウイルスが世界中に感染拡大している中、政府は昨年から導入に向けて検討を進めてきた。

 だが、3月30日に発表された内閣府の「病院船の活用に関する検討会」が取りまとめた報告書では、「(病院船は)主として陸上医療機関では十分に対応できない場合の補完機能としての活用が期待される」と指摘しつつも、「感染症対応のため新たな船舶を建造する必要性は乏しい」として当面の間、建造を見送る判断を示した。

 課題としては 1.災害時の医療従事者の確保 2.船の運航要員の確保 3.平時の民間活用など収益性との両立―などを挙げた。これらについていずれも有効な方策が見いだせていないとも指摘した。

 確かに、陸上でも医師や看護師を含む医療従事者の不足が問題となっている状況で、病院船への派遣は困難だ。船員の確保も同様に難しい状況だ。

 建造費コストについては医療器材やヘリコプターなどの一定の要件を設置した上で500床規模が約430億円、100床規模は約180億円と試算する。国債や借入金といった将来税収で返済しなければならない国の借金「長期債務残高」が、3月末で1000兆円の大台を超えてしまった日本の財政状況では、「建造費をどこから持ってくるのだ」との意見もあるだろう。

 しかし、頻発化・激甚化する台風などの自然災害や、今後30年以内に発生する確率が「80%程度」と言われている南海トラフ巨大地震、そして今回のような感染症に対応するための病院船は必要だ。

 特に地震の起きた際には道路も寸断された陸からの支援が難しい。東日本大震災の時は、同様の状況で船舶の物資輸送が大きな役割を果たした。もしも病院船が導入されていたら、救えなかった命が救えたかもしれない。

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 建造できないのなら、既存船の活用を模索するべきだ。内閣府の報告でも、それを指摘している。さらに2021年度中に高知県沖で自衛隊艦艇を活用して訓練を実施し、病院船の活用に向けた計画の具体化を進める方針を示した。

 訓練では、50床程度を備えた自衛艦で行われる予定だ。50床は一般的な医療機関の1病棟当たりのベッド数と同程度であり、医療従事者も100人程度で済むという。被災地への展開や要員交代なども機動的に行えるため現実的だ。

 自衛隊は現在、50床を備えた4隻を含め、手術など医療機能を持つ15隻を保有している。さらに900人の医官や1000人の看護官もおり、普段は各地の自衛隊病院などで勤務している。

 だが、これだけの人員、装備を有していながら医療機能を有した艦艇では、これまで一度も民間人を治療したことがないのだ。

 今年度実施される高知県沖の訓練を通じて、病院船としても活用できるノウハウを身に付け、医官ら医療従事者が民間人も治療できるような手だてを講じることが求められるだろう。