印刷 2021年04月16日デイリー版1面

インタビュー 洋上風力への挑戦】日本郵船執行役員・中村利氏。欧州トップと協業

日本郵船執行役員 中村 利氏
日本郵船執行役員 中村 利氏

 日本郵船はESG(環境・社会・企業統治)に基づく成長戦略「NYKグループ ESGストーリー」で「日本の洋上風力発電の発展に貢献する」ことを掲げている。中村利執行役員に洋上風力事業の展望を聞いた。(聞き手 柏井あづみ)

 ――日本郵船が洋上風力事業に乗り出す背景は。

 「海運企業は化石燃料を輸送し、燃料として消費している。これから再生可能エネルギー分野で新規ビジネスを創出、拡大していかなければ、脱炭素化という社会課題解決に貢献できない。その一丁目一番地が洋上風力だと考えている」

 ――日本の洋上風力市場では現在、「第1ラウンド」と呼ばれる、秋田県と千葉県沖の一般海域の発電事業者を選定する入札手続きが進んでいる。

 「5月下旬の応札締め切り後、発電事業者の選定が完了すれば、一気に資材の発注と輸送、物流が動き出す。そこでグループ会社のNYKバルク・プロジェクトや郵船ロジスティクスの活躍が期待できる。その後は2024―25年ごろから洋上風車の設置・据え付け工事に入るとみられ、そこから2―3年後に発電が始まり、O&M(運用・保守点検)フェーズを迎えるイメージだ」

■海技力で一気通貫

 ――日本郵船は洋上風力分野でどのような特長を発揮できるのか。

 「われわれの最大の強みは技術力だ。洋上風力や次世代燃料というグリーンビジネスは、技術なしには語れない。当社グループ社員のうち海技者は35%を占め、日本人海技者600人、運航船隊における外国人船員数1万9000人を擁する。この海技力の層の厚さがわれわれの武器であり、洋上風力のドライバーになる」

 「さらに洋上風力のバリューチェーン全体にわたり一気通貫でサービスを提案できることも特色だ。当社の海技力と欧州有力企業とのパートナーシップを武器に、FS(事業化調査)から資機材の輸送・物流、風車の洋上据え付け、O&M(運用・保守点検)に至るまでをカバーする」

 「パートナーシップを結ぶ欧州企業は、それぞれの分野でナンバーワンのプレーヤーであり、自信を持って高品質のバリューチェーンを支える事ができるだろう」

 ――洋上風車の据え付けを担うSEP(自己昇降式作業台船)船事業では、蘭EPCI(設計・調達・建設・据え付け)大手ヴァン・オードと覚書を締結した。

 「両社で日本籍船を保有する合弁会社を立ち上げ、早ければ24年からヴァン・オード日本法人や日本の建設・エンジニアリング会社に貸船する計画だ。投入予定候補船には1600トンクレーン搭載船が挙がっている」

 ――SEP船の改造工事も視野に入れる。

 「洋上風車は大型化が進み、かつては4メガワット級が主流だったが、現在は14メガ7―15メガワット級が検討されている。そうすると、特に基礎部分の据え付けで800―1000トン級クレーン搭載船では対応が難しく、吊り上げ能力向上が必要になる可能性がある」

■国内タグ網を発揮

 ――CTV(作業員輸送船)ではスウェーデン企業ノーザン・オフショア・グループ(NOG)と覚書を結んだ。

 「欧州CTV最大手のNOGと船型開発や共同保有、運航で協力し、日本市場に最適なCTV投入を予定する。将来的にバッテリーやFC(水素燃料電池)を使った次世代船開発も視野に入れる」

 「CTV事業を国内展開する上で力となるのが、当社グループのタグ会社ネットワークだ。国内14拠点で130隻以上を運航し、国内トップシェア30%超を誇っており、各地の代理店や造船所との強いつながりを生かしてCTV運航会社を立ち上げていく」

 ――海底地盤を調査する地質調査船では蘭大手フグロ、応用地質(本社・東京)とコンソーシアムを組む。

 「22年春の市場参画を目指し、日本市場に特化した調査船の投入を検討している。今年はフグロ保有船『Fugro Mariner』がスポット投入される予定だ」

■浮体式で商機拡大

 ――ケーブル敷設船やSOV(サービス・オペレーション・ベッセル)分野はどうか。

 「現在パートナーを選定中だ。日本は遠浅の海域が少ないため、着床式の設置エリアは沖合10キロメートル程度と陸から近く、敷設するケーブルも短い。おそらく今後約10年、1000万キロワット程度までは着床式プロジェクトが続く。その後、浮体式洋上風力が実用化すれば、発電エリアが沿岸から遠距離化し、ケーブル敷設やSOV需要の拡大が期待できる」

 ――古野電気、日本海洋科学と共同で洋上風力の海域管理事業を計画している。

 「洋上風力はいわば海の広大な発電所であり、その海域では漁船やプレジャーボート、一般船が航行している。事故防止や資材の供給状況など、海域を利用する関係者の理解や協力を得ながら、海域全体を管理する必要がある。3社で日本独自の海域管理システムを開発し、当社の海技者をマリンコーディネーターとして派遣する。発電事業者のサブシステムの一つとして提供したい」

■マイナー出資視野

 ――発電事業自体への参画も視野に入れている。

 「顧客ニーズを内側から理解し、サービス品質を上げていく狙いがある。ただ、われわれがプロジェクトを主導するわけではなく、あくまでマイナーシェアでの出資を考えている。まずはサービス事業者としてナンバーワンの地位を目指し、プロジェクトへの貢献を認めてもらった上で発電事業への参画機会を探りたい」

 なかむら・とし 91(平成3)年東大法卒、日本郵船入社。17年バルク・エネルギー輸送統轄グループ長、19年4月からグリーンビジネスグループ長。4月1日付で執行役員に就任。神奈川県出身、54歳。

※日本郵船広報グループのユーチューブ公式チャンネルでは動画「洋上風力発電普及への取り組み」(https://youtu.be/h8LdpCpBNPc)を公開している