海事アカデミア202104
 印刷 2021年04月07日デイリー版1面

海運大手 新本部長に聞く】日本郵船常務執行役員ドライバルク輸送本部長・鹿島伸浩氏、4つの戦略 市況耐性・船質強化

日本郵船常務執行役員 ドライバルク輸送本部長 鹿島 伸浩氏
日本郵船常務執行役員 ドライバルク輸送本部長 鹿島 伸浩氏

 国内鉄鋼メーカーの生産体制の最適化や脱炭素化の潮流による石炭輸送への逆風など、事業環境の変化が目まぐるしいドライバルク部門。1日付で日本郵船のドライバルク輸送本部長に就任した鹿島伸浩常務執行役員に今後の舵取りを聞いた。(聞き手 鈴木隆史)

■淘汰への危機感

 ――就任の抱負を。

 「当社のドライバルク事業は2003―08年ごろまでの海運バブル期以降、高コスト用船を抱え、長らく事業の重しになっていた。そうした状態が十数年続き、今も『淘汰(とうた)への危機感』がある。歴代のドライバルク輸送本部長はこうした厳しい事業環境の中で、何とかドライ部門を守ってきた」

 「特にここ3年間は『エクスポージャー(市況変動にさらされる部分)の管理』『トランパー(不定期船)事業の進化』『専用船事業の強化』『新規事業の展開』―の4つの戦略を掲げ、市況耐性と船質の強化を図っている。その成果が見え始め、徐々に収益を上げられる体制に変わりつつある。ドライバルク輸送本部長として、まずはこの4つの戦略を引き続き実行していくことが使命だと思っている」

 「その際、チームワークがうまく働くよう、『どのように』のHOWと、『なぜそう考えるのか』のWHYをセットで発信していきたい。特にWHYを示すことで、意見の異なる人も反論しやすくなり、建設的に議論ができるのではないかと思う。ドライバルクはボラティリティー(変動性)が激しく、こちらからの指示も頻繁に変わる可能性がある。その都度、WHYを提示することが重要だと考える」

 ――4つの戦略を具体的に教えてほしい。

 「まずエクスポージャーの管理では、スナップショット(瞬間的)ではなく、マーケットの変動に合わせ、動態的にコントロールできる力を身に付けたい。海運にとってエクスポージャーは必然のものという側面が強く、具体的な数値目標は設けるつもりはない。従って、ゼロにしようとも思っていない。ただ、船と貨物のバランスを合わせていく中で、きちんとコントロールしていくことが重要だ」

 「トランパー事業の進化では、短期のスポット貨物輸送を念頭に置いており、不定期船グループの活躍に期待している。既に不定期船グループでは、FFA(運賃先物取引)の運用を含めマーケット対マーケットで着実に成果を上げている。鉄鋼メーカーなど顧客からも『専用船だけでなく、スポット運航やCOA(数量輸送契約)にも強い郵船』が求められていると思う」

 「専用船事業の強化では、鉄鋼メーカーや電力会社、製紙メーカーなどの荷主企業を取り巻く事業環境の変化が激しい中、カーボンニュートラル(実質的な炭素排出ゼロ)推進の観点からもLNG(液化天然ガス)燃料の提案などを実施していきたい。LNGはアンモニアや水素などの次世代燃料に向かう上で、ブリッジングソリューションとして一定程度の効果が見込まれる」

 「長期契約船のリプレースなどではLNG焚(だ)きを第一の選択肢として提案していく。もちろん、やみくもにLNG燃料船を提案するつもりはなく、船隊のポートフォリオに合わせた形でのベストミックスを追求する」

 「また、脱炭素化の潮流で石炭の輸送需要の伸びは期待できないが、鉄鉱石については大幅に減退するというシナリオはない。国内の鉄鋼メーカーもグローバルな市場で勝ち抜こうとしているので、その動きにきちんとついていく」

 「新規事業の展開では、例えば昨年11月に太平洋汽船が100%子会社になったので、内航の船舶管理と内航船員の育成に関わっていきたい。荷主に寄り添うことを実現するには、『内航も手掛けてこそ』という思いがある。内航業界のプラスになるような変化への参画を図る」

■船主と船質向上

 ――今期に構造改革費として540億円超を計上している。期限前返船の進捗(しんちょく)はどうか。

 「実際に返船できるかどうかは船主との交渉次第。ただ、構造改革の精神は、船主に無理強いするものではないということを強調したい。事業を進める上で、今後も船主は重要なパートナーであることに変わりはない」

 「資源メジャーや豪州の船舶査定・格付け会社ライトシップなどの検船が強化される中で、船主とは共に船質を向上・強化していく必要もある。用船も含めた船質の強化については、ドライバルク輸送品質グループをはじめとする海技者の知見を生かし、しっかりと目配りしていきたい」

 ――今後のドライ市況の展望は。

 「コロナ禍の船員交代の停滞などで、全世界的に船腹需給が引き締まりやすくなっている。足元(2月中旬)ではケープサイズが独歩安に陥っているが、主要航路平均値は1万ドル台前半と不需要期であることを踏まえれば、十分高い水準だ。パナマックスに至っては、1万ドル台後半とこの時期としては、驚くべき高値を付けている」

 「中国経済にリスク要因が見当たらず、大局的に見て地合いは良くなっている。新造船の竣工量も限定的なほか、22年のバラスト水規制のモラトリアム(猶予期間)終了が迫る中で老齢船の退出も予想され、需給バランスの改善が見込まれる」

 かしま・のぶひろ 86(昭和61)年慶大経卒、日本郵船入社。13年パナマックスグループ長、14年パナマックスグループ長兼燃料炭グループ長、16年燃料炭グループ長、17年経営委員、20年執行役員(名称変更)、今年4月から現職。57歳。