海事アカデミア202104
 印刷 2021年03月31日デイリー版4面

記者の視点/柏井あづみ】スエズ座礁事故、超大型船の安全高度化の教訓に

 スエズ運河で座礁していた2万TEU型コンテナ船「Ever Given」が現地時間29日午後、離礁に成功し、1週間近くにわたり止まっていた同運河の通航がようやく再開した。

 今回の座礁事故は、年間1万8000隻超が航行する大動脈が遮断に追い込まれたことで、英公共放送BBCはじめ欧米大手メディアが大々的に報道、日本船主の保有船だったこともあり国内の一般紙やテレビのニュース、ワイドショーでも大きく取り上げられた。

 特に昨年秋から世界的なコンテナ不足による物流混乱が生じていたため、運河封鎖がさらなる悪化要因として与えた衝撃は大きい。たった1隻の座礁がここまで世界を動揺させてしまう現実は、あらためて海運がグローバル経済を支える基幹インフラであることを浮き彫りにした。

 29日午後の通航再開時点でスエズ運河内と両端の滞船隻数は計400隻規模に積み上がっており、物流の正常化には数日を要しそうだ。

 海外紙によると、スエズ運河庁は今回の運河遮断による減収を1日当たり1400万―1500万ドル(15億―16億円)と試算しており、6―7日間で90億―100億円強に上る計算になる。

 26日夕には「Ever Given」を保有する正栄汽船グループが愛媛県今治市で記者会見を開いた。

 今治造船グループの船主事業会社である同社が独自の記者会見を開くのは珍しいが、今回の事故の社会的な影響の大きさを考慮し、説明責任を果たすべきと判断したのだろう。

 私自身は会見に参加できず、終了後に録音データを聞いたのだが、檜垣幸人社長はじめ経営陣が定期用船契約の概要やコンテナ積載数など、記者からの基本的な質問にも時間をかけて真摯(しんし)に回答する姿勢が印象的だった。

 檜垣社長は冒頭でスエズ運河の交通を遮断していることを陳謝。その上で「まずは運河の封鎖状態を解くことに注力し、離礁後に船員のヒアリングをはじめ原因究明に動くので、しばらく時間を頂きたい」と語った。

 費用負担や損害賠償の見通しを巡っては「離礁費用、船の修繕費は当社が負担する。運河の閉鎖による減収などの損害については今後、法律にのっとって検討していく」と述べた。

 正栄汽船は事故の当事者として前面に立っているが、事故の原因者として最終的な賠償責任を負うことが決まったわけではない。今後の調査で事故原因や過失の有無が明らかになるのを待つことになる。

 原因の特定にはこれから時間を要すると思われるが、スエズ運河庁は24日の発表で風速40ノット(約20メートル毎秒)の突風と砂嵐による視界不良を可能性の一つに挙げた。

 コンテナ船は近年、大型化の進行により、貨物積載時の水面上の体積が大きくなり、風の影響を受けやすくなっている。これまでは自動車船が風圧抵抗を受けやすい代表的な船種だったが、貨物を大量に積んだメガコンテナ船も「自動車船と同じく、乗組員が風に神経を使う船種になっている」(邦船社の海技関係者)という。

 「Ever Given」は全長400メートル、幅59メートルの巨体を擁し、事故時にはコンテナ1万8349本(20フィートコンテナ換算)、貨物総重量16万7600トンを積載していた。檜垣社長は会見で離礁作業に時間を要した理由について「満船状態で重量が重く、動かすのが難しいためだ」と説明している。

 2万TEUクラスのメガコンテナ船はまだ誕生して3―4年程度。これまでも海運各社は安全管理に細心の注意を払ってきたと思うが、新しいセグメントは常に現場のフィードバックを基にブラッシュアップを続ける必要がある。今回の座礁事故の調査を注視し、超大型船の安全高度化や事故対応の教訓とすることが求められる。