印刷 2021年03月26日デイリー版1面

スエズ座礁事故】船主責任、貨物損害 免責に。サルベージ費用は負担か

座礁した「Ever Given」の船首部
座礁した「Ever Given」の船首部

 スエズ運河での大型コンテナ船「Ever Given」(正栄汽船グループ保有、エバーグリーン定期用船)の座礁事故を巡り、船主の責任が注目されている。一般的に座礁船の離礁にかかったサルベージ費用や船の修繕費用は、操船上の過失の有無にかかわらず、船主が負担する可能性が高い。一方、貨物の損害に関するカーゴクレームは、操船上の過失があった場合も国際条約「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」に基づき、船主は免責される。

 エバーグリーンとスエズ運河庁によると、今回の座礁事故の原因は、風速30―40ノット(約15―20メートル毎秒)の強風とみられている。

 海難事故の法的責任に詳しい戸田総合法律事務所の青木理生弁護士は「強風の程度によるが、『予見可能性』と『結果回避可能性』の2つが船主責任のポイントとなる」と指摘する。

 「予見可能性」は、例えば台風の予報のように「強風を受けることが事前に予見できたか」という論点。今回の強風は突発的な砂嵐とされており、乗組員による予見は難しかった可能性がある。

 一方の「結果回避可能性」は「通常の操船では対応不可能なほどの強風だったのか」という論点。例えば2018年に発生した関西国際空港の連絡橋への衝突事故時には最大瞬間風速70メートルを超す強風があり、不可抗力事由に当たるかが争われている。

 この「予見可能性」と「結果回避可能性」を考慮して、突発的で結果を回避できない強風と判断されれば、過失がないと見なされる。

 さらに青木弁護士は「スエズ運河を通航するには水先案内人の乗船が原則として義務付けられていることにも着目すべき」と指摘する。今回の事故は水先案内人の落ち度によって生じた可能性がある。

 船主に過失がない場合は、契約を結んでいない第三者は船主に責任を追求できない。一方、定期用船契約を結んでいる用船者のエバーグリーンとは、契約条項に基づき、責任範囲が決められる。

 仮に船主に過失があったと判断された場合でも、今回の事故によるスエズ運河の滞船で第三者の船に生じた遅延による損失は、船主の賠償責任の範囲外と見なされそうだ。

 青木弁護士は「こうした事故によって仮に他船に営業損失など何らかの損失が生じた場合でも、事故当事者が予見しにくいことから『間接損害』、『結果損害』や『純粋経済損失』などと見なされ、一般的には損害賠償は認められにくい」と説明する。

■オフハイヤー適用

 船主の過失の有無にかかわらず座礁船に対してはオフハイヤー(不稼働による用船契約の中断)条項が適用される可能性が高い。オフハイヤー条項は船主過失の有無ではなく、船が不稼働であることが要件のため、稼動できるまで用船料は支払われない。

 貨物の損害を巡っては、航海過失免責を定めたヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づき、単なる船員の操船ミスによる事故「ナビゲーショナル・エラー」(航海上の過失)の場合、カーゴクレームを提起されても免責となる。

 ただ、エンジンや舵の故障をはじめ船の堪航性に問題があったなど特殊な場合は、例外に当たるケースがある。

 カーゴクレームは、BL(船荷証券)の発行人が運送人として荷主との窓口となり対処する。貨物にダメージがあった場合は、荷主が契約する貨物保険で損害が補償され、保険会社がBL発行人に賠償を請求する。

■船舶保険でカバー

 過失の有無にかかわらず、座礁船の離礁にかかったサルベージ費用は船主が支払うことになり、一般的には船主が契約する船舶保険でカバーされる。これは、座礁船を放置すること自体が船主の落ち度と見なされる可能性があるため。船の修繕費用も、一般的には同様に船舶保険でカバーされる。

 一方、スエズ運河の設備ダメージは、同運河の規定にのっとり、責任の主体が判断される。同規定は、水先案内人の過失による事故でも船長が責任を負うと規定しており、船員に過失がなくとも船主が賠償請求される可能性がある。