印刷 2021年03月04日デイリー版1面

インタビュー 海洋OS「Marindows」】Marindows社CEO・末次康将氏、船舶デジタル化へ攻勢

Marindows社CEO 末次 康将氏
Marindows社CEO 末次 康将氏

 世界初となる海洋OSの開発と普及を目指す新会社「Marindows」。同社のCEO(最高経営責任者)に就任した末次康将氏に設立の狙いとビジョンを聞いた。(聞き手 浅野一歩)

 ――Marindows社を設立した背景について教えてほしい。

 「キーワードは2つ。日本の海事産業における『差し迫った危機』と、海上ブロードバンド(BB)通信時代の幕開けという『チャンスの到来』だ」

 「まず、海運や造船などの海事産業は島国日本のライフラインとして必要不可欠な存在だが、GHG(温室効果ガス)の削減要求に代表される環境対策や内航船員の高齢化と後継者不足、中国・韓国をはじめとする海外勢との競争といった課題に直面している。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているものの、旧態依然のアナログシステムから脱却できない状況に陥っている」

 「一方で、海上におけるブロードバンド通信のスタートが2022年度に迫っている。陸上における4Gと同程度の通信環境が、これまで未整備だった海の上に出現し、とてつもないスピードとスケールでデジタル革命が進むだろう」

 「つまり、このタイミングでデジタルソリューションを立ち上げなければ、海事産業における情報通信革命の波に乗り遅れ、中韓欧州勢に負けると考えた。他産業を見れば、デジタルの世界は上位1社2社しか生き残れない。新しい価値が爆発的に生まれる『海上デジタル・カンブリア時代』をチャンスと捉え、日本のイノベーションに生かしていきたい」

 ――新会社はどのような位置づけなのか。

 「Marindowsは、e5ラボのデジタル事業をスピンアウトしたもので、e5ラボが100%出資で作った。海事産業だけでなく業界内外から幅広く出資を募り、通信・デジタル業界なども参入できるよう株主構成を変えていく。将来的な上場も視野に入れている」

■専念できる組織に

 ――これまでも世界初のゼロエミッションEV船(電気推進船)「e5タンカー」の開発など先進的な取り組みを行ってきた。なぜ別組織を立ち上げたのか。

 「e5ラボが行っているEV船の開発・普及は、小型の水上モビリティから外航のカムサマックスバルカーまでプロジェクトが進展しており、事業への手応えを感じている。しかしEV船とDXは成長スピードが全く違う。通信、デジタル、AI(人工知能)が入ってくると指数関数的にイノベーションが起きるため、そうした環境に対応し新しいソリューションの開発に専念できる組織が必要だと考えた」

 ――Marindows社が開発を行う海洋OS「Marindows」とは。

 「進化と拡張が可能な一気通貫の通信デジタルプラットフォームと捉えている」

 「例えば船を一つのスマートフォンとして見た場合、iOSやアンドロイドのようなスマホ向けOSに加えて、Wi―Fiを使用した高速データ通信、そしてアプリケーションやセキュリティーをパッケージで提供するようなイメージだ」

■通信格差を是正へ

 ――「Marindows」を導入するメリットについて知りたい。

 「Marindowsは『海上BB通信、デジタル、AI』を活用し、特に安全、環境、幸せといった3つのコア領域でイノベーションを加速させるだろう。船舶の安全航行はもちろんのこと、船と陸で働く人間の労務環境と地球環境の2つの環境に対する課題解決や、海上BB通信の普及を通した通信格差是正による船員の幸福度向上も図っていく」

 「ポイントは、Marindowsが『通信・デジタル・AI』をパッケージで提供できる現時点で唯一の存在だということ。EV船とデジタルを組み合わせて事業を行えることも一つ強みになっている」

 ――「Marindows」は、どのような船舶への導入を想定しているのか。

 「船の大きさは問わないが新造船だけでなく、既存船に簡単に搭載できるシステムであることが重要。船齢が20年の船にも30年の船にもパッケージで提供できるようなソリューションを目指している。エミッション削減に対して、船単体としてではなく、フリート(船隊)単位で運航効率を最適化することで、エミッション排出を数十%削減できるようなシステムを目指す」

 「特に、日本は世界最大規模の内航船マーケットがある。まずは地の利がある日本で内航船を舞台にしっかりとした価値をつくり出し、その上でアジア圏を足掛かりに世界へと進出したい」

■世界展開を想定

 ――海外展開も考えているということか。

 「もちろん世界展開を前提にしたデザインをしている。私たちは効率、性能、コストの全てが世界で一番良いものをつくらないといけない。中韓市場は難しいかもしれないが、アジア圏全体で『Marindows』というソリューションを受け入れてもらう」

■幅広く仲間募る

 ――今後のスケジュールについて教えてほしい。

 「2021年度末にフェーズ1としてOSとアプリケーションの部分を中心としたパイロットサービスをスタートさせ、内航船の分野で船舶、船主、オペレーター(運航船社)がそれぞれ手掛けている既存業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める」

 「22年度にはフェーズ2として対象船を漁船などに拡大。IoT(モノのインターネット)も活用し、陸上側のシステムとの接続や連携を促進する。23年度にフェーズ3へ移行し、外航船も含めたサービスを始めたい。海洋プラットフォームの構築や低軌道衛星通信との接続・活用、陸上インフラとの連携なども実現する」

 「21年度の第4四半期に始まる内航船向けのDXでは、既存のセルラー通信(LTE、5G)と静止衛星(GEO)サービスを組み合わせる。22年度からはOneWeb(ワンウェブ)など低軌道衛星(LEO)通信サービスとセルラー通信のハイブリッドソリューションで全ての船舶のオンライン化を加速させる」

 「Marindows社は、企業や技術・アイデアを組み合わせることで全く新しい価値を生むための共創プラットフォーム。日本の海事産業・非海事産業から幅広く共創パートナーを募るつもりだ」

 すえつぐ・やすまさ 清水海員学校(現清水海上技術短大)専修科、東京商船大(現東京海洋大)航海学コース卒。95(平成7)年東京電力入社。17年からエクセノヤマミズで海上物流設計コンサル業務に従事。19年8月、e5ラボCTO(最高技術責任者)。21年3月Marindows社CEO。茨城県出身、43歳。