【国内船主の今】(255)中型船市況2万ドル 船主に遅延リスク。LNG燃料船保有に課題
「ウルトラマックスの用船料が2万ドルを超えている今、船主にとって船員の感染リスクは経営を揺るがす問題になっている」
2月25日午後、今治船主が電話取材に厳しい口調で答えた。
■不可抗力になるか
新型コロナウイルスの発生以来、オペレーター(運航船社)、船主問わず船員の感染リスクは大きな課題となっている。
冒頭の今治船主はしかし、「足元の状況は次元が違ってきている」と指摘する。
同船主が続ける。
「造船所の新造船で外国人船員がコロナウイルスに感染し、引き渡しが遅延しているという発表があった。市況低迷時なら、オペ、船主とも新造船の引き渡しが遅れても問題にならないケースもある。しかし、足元のように市況が高騰していれば、オペとしては一刻も早く引き渡してもらわねば困る、という状況だ」(中手船主)
足元で日本船主の新造ウルトラマックスが竣工、海外オペと定期用船契約を結んでいたとする。
船主―海外オペ間の用船契約は間違いなく足元の「1日当たり2万ドル」の半値以下、おそらく同9000ドル前後の可能性がある。
オペはこの場合、自身の契約カーゴに投入すれば市況高騰による目先の利益は出ない。仮に船腹に余裕があれば新造船をリレット(また貸し)、単純計算で1日当たり1万1000ドル(約115万円)の利益を得られる。
さらに深刻なのは、オペが契約カーゴを持っていて、「代船」の必要性が発生する場合だ。
海運ブローカーが話す。
「オペが新造船を契約カーゴの輸送に用いる配船スケジュールを立てていたとする。この場合、船主の手配した船員のコロナ感染で新造船の引き渡しができなければ、誰かが代船を用意するしかない。足元の高騰しているウルトラマックス市況でスポット船を調達してくれば、契約カーゴ運賃との差額は用船料換算で1日当たり1万ドル強だろう。誰がこの損失を負うのか、ということになる」(ドライ担当者)
関係者によると、オペ―船主間の定期用船契約のフォース・マジュール(不可抗力)の適用については、個々の契約内容や解釈によるとしている。予期せぬドライ市況の高騰は、船主にとって利益面と同時にリスク面も浮き彫りにしつつある。
■SDGsに直面
「われわれにとってSDGs(持続可能な開発目標)と言われても今一つピンとこなかったが、LNG(液化天然ガス)燃料船の増加により、自分事として認識するようになった」
2月24日午後、船主関係者が真剣な表情で話した。
SDGsといっても理念の話ではない。技術面の話である。
同船主関係者が続ける。
「日本郵船は2月、今後10年間で約40隻のLNG燃料自動車船を建造すると発表した。実際に既に新造船も竣工している。仮にこのLNG燃料自動車船を日本船主にドロップ(新造リセール)で打診されても、LNG燃料を扱える船員を手配できないのが実情だ」(四国地方の船主関係者)
一般的なLNG船の船員の給与水準は、バルカーや自動車船と比べ格段に高い。「そもそも比較対象にならない」(船舶管理会社)
日本船主がLNG燃料自動車船やLNG燃料バルカーを保有したくても、「船舶管理コスト面で折り合いがつかないほか、そもそもLNG燃料を取り扱える船舶管理会社と付き合いがない」(中国地方の船主)
定期用船契約を結びつつ、本質的には裸用船契約(BBC)でオペが船舶管理を手配する「なんちゃってTC(定期用船)」という造語さえある。
しかし、オペとしてもLNG燃料船に配乗できる船員は限られる。LNG船で配乗訓練すればいいという意見もあるが、「そもそも一般的なLNG船は居住区に余裕がなく、トレーニング船員をダブル配乗させることは難しい」(海運幹部)。
邦船オペ、海外船社を問わず、今後、LNG、アンモニア、水素と新燃料への対応船が検討される。オペにとっては荷主に選ばれる海運会社であるためには「SDGsは必須科目」でもある。
新燃料対応船は、造船所が技術面でハードルをクリアしたとして、「ソフト面=船員の育成」は追い付くのか。LNG燃料船に船員を配乗できる日本船主は現状では限られている。
(国内船主取材班)
=毎週月曜掲載