海事アカデミア202104
 印刷 2021年02月26日デイリー版1面

インタビュー DXプロジェクト始動】商船三井執行役員チーフデジタルオフィサー(CDO)兼チーフインフォメーションオフィサー(CIO)補佐・木村隆助氏、生き残りへの行動変革

商船三井執行役員 チーフデジタルオフィサー(CDO)兼 チーフインフォメーションオフィサー (CIO)補佐 木村 隆助氏
商船三井執行役員 チーフデジタルオフィサー(CDO)兼 チーフインフォメーションオフィサー (CIO)補佐 木村 隆助氏

 商船三井は2020年4月から、グループのデジタルマーケティング戦略立案・施策実施を統括するチーフデジタルオフィサー(CDO)を設置し、ICT(情報通信技術)戦略を加速させている。CDOを務める木村隆助執行役員に、商船三井グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を聞いた。(聞き手 幡野武彦)

■探索志向

 ――CDO就任から10カ月以上が経過したが、これまで取り組んできたことは。

 「社内広範にヒアリングして、進行中のプロジェクトの確認や、リーダー層・実務担当者層の考え方、今何が足りていないかなどを探ってきた。少々時間をかけ過ぎた感があるが、11月までに整理を終え、それをベースにICT戦略部門の若手らと商船三井の変革にこれから何をすべきかを議論して年明けにまとめ、2月から全社員参加型のプロジェクトを開始した。『MOL DX』と銘打つが、最重点課題は、身の回りのものを組み合わせて思考する深化志向の意識に加えて、広く思考できる探索志向の意識を植え付けていくことをデジタルツール活用で変えていこうという行動変革を促すプロジェクトだ」

■スピード勝負

 ――なぜ変革が必要なのか。

 「今の世の流れを見れば、10年後の当社の事業ポートフォリオも大きく変わっているだろう。当社が強みとするドライ・エネルギー輸送はもとより、海洋事業でさえも変化していくことは確実であり、これまでのビジネスの捉え方・やり方でいいと思っている社員は一人もいないに違いない」

 「従来だと顧客とのコミュニケーションや業界情報筋からヒントを得、長年培ってきた海運マンとしての経験と感覚をもって収益モデルを具現化して商売を決めてきた。しかし、今は数多いデータを利用して商機の判断材料として利用したり、効率運航や安全運航に役立てる思考力がなければ競争力の高い事業獲得や運営はできない。あらゆるデータを利活用した上で考察・判断・行動できるような風土の醸成が、企業が生き残っていくために不可欠な要素となる。行動スピードの向上がこれからの勝負の鍵だと思っており、危機感を持っている」

 ――現在の具体的な問題とは。

 「組織の中でデジタルツールを使う現場(ユーザー)と開発が一体となって協力しなければいけないが、相当な距離感がある。さらに、各事業部門も孤軍奮闘型で他部門と積極的に交わらない傾向があった。安全運航や効果的なプロセスも事業部門間で共有されていないことも多い。また実務担当者は代々引き継がれてきたオペレーションや収支管理のルーティンに忙しく、視界が身の回りに限定され、ちょっと視座を上げて『これおかしい』とか『こんなもの欲しいんだけど』という個々の『何とか改善しようぜ』という声がなかなか出てこない傾向にある。『問題やな』と強く感じた点だ」

■4つの融合

 ――そうした変革のための組織づくりはどうするのか。

 「デジタルツールを利用して、システム側支援担当・業務(オペレーションなど)ユーザー・顧客営業、経営の4つをしっくりと融合させていくことをプロジェクトのロードマッピングでイメージした」

 「4者のつなぎ役となるICT分野へのリテラシーの高い人材を集め、CDOが監督するプロジェクトチームを組成する。社内変革の支援役・先導役を働き方改革・効率運航プロジェクトと協働して担っていきたい。10人程度の少人数で編成し、各部門にチェンジエージェントという変革担当を置き、現場のニーズや要望などを拾い上げ、チームがその技術支援(含むトレーニング)を行っていく考えだ」

■属人性を断つ

 ――具体的な取り組み内容は。

 「3つの課題を設定した。まず1つ目は、社員のデータ処理能力を向上していくこと。自己設計のスプレッドシート(エクセル)を漫然と利用するのではなく、社員がBI(ビジネスインテリジェンス)を駆使し、データ解析や業務プロセスをできる能力を備え、属人性・非継続性を断ち切ることだ」

 「現状では、BIツールを使いこなせるのは全社員の5%程度しかいないと見ている。社員の大多数がBIツールを駆使できるようになれば、仕事のやり方や分析なども格段に向上する。多角的にデータを分析すればいろんな気付きがあり、それが商売や効率運航につながっていくと確信している。まず本社内で始め、徐々に海外現法やグループ会社に広げていきたい」

■PFの分社化も

 ――2つ目の課題は。

 「顧客との接点のデジタル化、いわゆるデジタルCX(顧客体験)の推進だ。ドライバルク船の顧客を対象とした情報提供プラットフォーム(PF)「ライトハウス」を昨年稼働開始させている。しっかりとした基本機能をとりそろえたコンテンツでお客さまからも大変な高評価を頂いている。日々改良を重ねてお客さまの求める高度な機能も深化拡大させている。近い将来に顧客と海運会社をつなぎ、広く使われる業界間PFにしていくことを目指している」

 「ライトハウスの最大のネックは提供できる情報が当社運航船だけということ。ライトハウスを使った顧客はコンテンツには非常に満足しているが、当然『起用している他船社の情報も同様に入れてほしい』という話になる。しかし、当社運営のサイトで他船社の情報を同様に入れたら競争法に抵触してしまう。そうしたジレンマがある」

 「そのため当社としてはライトハウスをオープン化(分社化)して、他船社さんにも門戸を広げて運営できる体制を設計中だ。基本機能プラスアルファについては利用者に課金する体制として持続性を確保することも必要となってくる。何よりもお客さまの利便性向上を命題として両業界にとって革新的な接続PFとしていく。国内外のお客さま、ドライ以外の船種に対応できるツールとしていくべく開発とプロモーションを進める」

■双方向でつながる

 ――3つ目の課題は。

 「従業員エンゲージメントを高めるツールを考えていきたい。日本でも働き方がメンバーシップ型からジョブ型に変わりつつある中、組織と従業員の関係性を強めるデジタルメカニズムが不可欠。ことさらコロナ以降の就労体制で必要性が増している」

 「昔は社内電話帳の名前と部署と電話番号、それと飲み会なんかで縦横斜めが相当つながっていてそれはそれでいい時代だった。会社が社員に期待すること、逆に私はこんなプロジェクトをやってきました、こんなことが得意でやりたい、こんな商売できるよ、と受発信できるような会社と社員を双方向で結び付ける仕組みを開発していきたいと考えている。プロジェクトに海外ローカル社員も加えて当社の海外主要ネットワークにも広げていくつもりだ」

 「この3つがCDOとしての2021年の取り組むべき課題。ICT戦略における位置付けとしては、1つ目と2つ目が『攻め』、3つ目が『ONE MOL』となる。進行次第では21年度内にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略として刷新することも考えている」

 ――デジタルを活用して社内の業務フローや組織構造を根本的に見直して再設計するBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)という印象を受ける。

 「最初に述べたように、目的は仕事のやり方・考え方の変革であり、そのための手段としてデジタルを使うのみ。当初は大規模な全社DXみたいな取り組みもイメージしていたが、当社の規模であれば少数の先導役が面白い先進的な取り組みをして、それを徐々に広げていく布教活動を通じて自然と身に付いていくような規模と手法で良い成果になるだろう―とヒアリングの結果、そこに落着した。半年くらいしたら『こんなもの欲しい』とか『こんな無駄があるのでやり方を変えるのはどうしたらいい』などあらゆる階層からプロジェクト部隊に向けて多くの声が上がってくれれば良い。徐々にプロセスもリデザインされると期待する」

 「一方でクラウド時代に入って以降、いろいろなところに散らばっているデータを同一基盤上にまとめて、何のデータがうちにはあるのかを明示する整理作業もIT技術部隊で急ぐ。これはデータ構造化の作業を容易にするためだけでなく、社員がデータを使ってこんなことができるのではという発想を持ってもらうためにも必須だ。22年春には新基幹システム(SURFプロジェクト)も稼働を開始し、取れるデータも一段と拡大するのでそれまでに全社員のリテラシーをしっかりと上げることも必要。One MOLの意識を上げて、ワイガヤで着実に取り組んでいきたい」

 きむら・りゅうすけ 89(平成元)年関西学院大商卒、大阪商船三井船舶(現商船三井)入社。09年MOLライナー出向、16年定航部定航事業統合準備室長兼務、18年定航事業管理部長を経て、20年4月から現職。兵庫県出身、54歳。