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 印刷 2021年02月24日デイリー版1面

海運トップに聞く 下期の舵取り】(7)乾汽船社長・乾康之氏、自社船主義で耐久力

乾汽船社長 乾 康之氏
乾汽船社長 乾 康之氏

 ――乾汽船の外航海運事業が主力とするハンディサイズバルカー市場は昨年、どう推移したか。

 「5月が一番底だったが、当時は焦りを強く感じていた。コロナ禍の混乱がいつまで続くかわからず、船を動かし続けることができない恐れに直面し、ホットレイアップも検討した。その後、何とか世の中が持ちこたえて安心できたが、依然として船員交代などで困難な状況が続いている」

 ――スポット市況は昨秋以降、大きく回復している。

 「例年とは異なる値動きをしている。西高東低が顕著になり、船員交代のためにアジアの船員供給国に向かう船が多いことが太平洋の船腹余剰と大西洋のタイト感につながっている」

 「当社の長期的な市況見通しは変わっていない。ここ数年、世界的に新造発注が難しい環境が続き、これから竣工のスローダウンにより、船腹需給は引き締まってくる。いまはコロナ禍で解撤が少ないが、感染拡大がスローダウンすれば老齢船の撤退も増えるだろう。2022年初頭には市況が本格的に回復するとみている」

 「ただ、これから半年程度の短期的な市況動向はまったくわからない。今後も小さな混乱が断続的に続くだろう。そうした中で、とにかく安全な運航を続けるしかない。何があっても船を止めることなく、動かし続けることが荷主からの評価にもつながる」

■外航撤退はない

 ――外航海運事業は20年4―12月期に営業赤字29億円を計上した。船隊規模を縮小させる選択肢はあるか。

 「いま外航船隊を大幅に縮小または撤退することは、機会を逃すだけでもったいない。本格回復期まで耐えることが重要だ。そのために『緩やかなOWN(自社船)主義』と『ご長寿お達者』(自社船を耐用年数25年まで使う取り組み)で耐えられる体制を作ってきた。当面は船隊を自社船で固めて、できるだけ長く使って頑張る」

 ――船隊整備計画は。

 「現在のハンディサイズ船隊は24隻。新造発注残は自社船1隻と用船5隻を抱えている。当社は緩やかなOWN主義を掲げているが、スクラバー(排ガス浄化装置)戦略を含めた資金調達面を考慮して、新造整備のうち5隻を用船ベースとした。これらは18年度までに決定した案件であり、それ以降、新造整備はストップしている」

 ――スクラバーの積極搭載を進めている。

 「昨春から秋にかけての規制適合油と高硫黄C重油の値差は40―60ドルと非常に小さかった。航空燃料の消費激減などに伴う石油価格低迷が背景にあり、これもコロナ禍による混乱の一種だ。足元はある程度、混乱が収まったことで100ドル以上に開いている。引き続きスクラバーへの投資を続け、最終的にレトロフィット8隻、新造時の搭載7隻を計画している」

■新規開拓進む

 ――物流事業へのコロナ禍の影響は。

 「トータルでは持ちこたえている。倉庫・運送で主力の紙製品の荷動きが減少したが、新規顧客の開拓が予想以上に進んだ。リスティング広告に力を入れており、同広告経由で昨年4―12月は130件以上の引き合いがきた。中小の案件が中心で、業種はさまざまだ」

 「新規案件の増加に対応し、昨年は東京都足立区の倉庫を約4000平方メートル借り増しした。そのための費用で利益率が落ちた分を除けば、一般倉庫の収支は平年並みに戻すことができた」

 ――新規開拓が進んだ要因は。

 「入出庫情報を反映し実在庫と情報上の在庫を同期するクラウド型のWMS(倉庫管理システム)『SOS(スマートオーダーシステム)』が評価を受けている。SOSにはデジタル化により物流を可視化し、分析できる利点があり、利用荷主の割合は17年4月の45%から20年3月には72%に上昇した。新規顧客に限っては、大半にご利用いただいている」

 「当社の現場力への評価も高い。リスティング広告をきっかけに営業をかけるが、物流提案後の現場視察も成約の大きな決め手になっている」

 ――今後の事業環境をどう見るか。

 「物流業界では強い企業はより強く、弱い企業はさらに弱体化する二極化が進むだろう。また将来の内需縮小と物量の減少に耐える力を付けた上で、新たな顧客を引き込む力を持たねばならない。コロナ禍による人の流れと荷動きの変化により、将来の物量減少状態を疑似体験したと思う」

 ――どのように力を付けていくか。

 「効率化に尽きる。倉庫の現場改善を進めて働きやすい職場を作り、働きがいを創出する『FUN to WORK』も追求し、労働環境をさらに整備する。人の集まらない現場に荷物が集まることはないだろう」

 「その一環として、現場スタッフの職能向上に力を入れている。長く安心して働き続けてもらうため、体力の衰えをカバーするスキルをつける研修を行い、物流関係の検定試験の受験などを奨励している」

 ――庫内の自動化・省人化への考え方は。

 「さまざまな荷主の貨物を取り扱い、物量の波動もある営業倉庫では、大規模な自動化は難しい。ロボットの導入などが考えられるのは、限られた領域になる」

■オープン型PFを

 ――昨年8月に発表した中期経営計画では、「新たなロジスティクスバリューの創出」を掲げ、「『みんなでよくはこぶ』ロジスティクスサービスプロバイダーへの進化」を打ち出した。具体的には。

 「荷主、倉庫会社、運送会社など関係者皆が緩やかにつながるネットワークの構築を図る。参加者の情報を活用し、倉庫やトラックの『空き』を活用しながら効率よくモノを保管・輸送する」

 ――物流リソースのシェアリング・プラットフォーム(PF)を構築するということか。

 「PFというと1社がデータを独占するイメージがあるが、オープン型で誰でも使えるネットワークを目指す。一般的なPFのように、参加者が規格化された仕組みに合わせるのではなく、皆で一緒に物流の構造を変え、最適化に向かうイメージだ」

 「そのために、プログラミングなしに異なるシステム間のデータを連携させるツール『データスパイダー』を使う。参加者は自社のシステムやデータの形式などはそのままに、社外のシステムと簡単につながれる」

 「その前段階として、SOS(スマートオーダーシステム)を『SOS2・0』にバージョンアップする計画だ。客先を含め他社のWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)システムなどとの連携機能を強化し、スマートフォンにも対応する」

 ――倉庫に関しては、SOS2・0を通じて他社と連携するということか。運送分野では。

 「荷主の輸送需要と運送会社の車両空きスペースのマッチングアプリ『G・works(Gワークス)』を中心に、SOS2・0と同様、さまざまなシステムと連携する。Gワークスは当社の提携先で物流ベンチャーの伝三郎商会が開発し、当社と協力会社など約50社(2021年2月現在60社)が実験的に利用している」

■物流危機に備える

 ――福山通運と1月に業務提携したのも、構想の一環か。

 「実物流会社として、共にPF作りを推進する。Gワークスを全国に展開してもらい、ITの力でお互い『得手』『不得手』を交換し協業することで、物流を滑らかにしていきたい」

 ――中計では、荷主との取り組みも打ち出した。

 「『EOAD(アーリー・オーダー・エニタイム・デリバリー)』と呼ぶ取り組みを荷主に提案し、サプライチェーン全体で最適化を目指す。18年度ロジスティクス大賞経営革新賞などを受賞した『バラちらし』では、荷主の納品先である着荷主と協力し、納品時間指定を分散して積載率や車両回転率の向上などを実現した。これを進化させていく」

 「EOADでは輸送を発注するタイミングを前倒しし、かつ時間指定を外してもらうことで、より大きな改善効果を狙う。荷主のESG(環境・社会・企業統治)経営にも貢献できる」

 ――中計は労働力不足に起因する「物流危機」の再燃に備えるものと言える。

 「コロナ禍による物量減少で一時的に緩和されているだけで、物流危機は根本的な解決には至っていない。皆でつながる次の世界を信じて、着実に歩を進めなければ生き残りは難しい」

 =おわり

 (この連載は幡野武彦、柏井あづみ、山田智史、梶原幸絵、鈴木一克、鈴木隆史が担当しました)

 いぬい・やすゆき 甲南大法卒、91(平成3)年三菱地所入社。04年イヌイ建物(現乾汽船)入社。06年常務不動産本部長、08年代表取締役社長、14年10月乾汽船との経営統合に伴い現職に就任。兵庫県出身、52歳。