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 印刷 2021年01月29日デイリー版4面

記者の視点/山田智史】ドライ市況の健全化、有力船社の撤退 契機なるか

 鉄鉱石や石炭、穀物などを運ぶドライバルク船の用船マーケットが、年明け後も何とか持ちこたえている。

 ドライ市況は雨期などの季節要因で1―3月に落ち込むことが多い。今年は中国沖での寒波による滞船などの影響で、大型のケープサイズのスポット市況は急落を免れている。パナマックス以下の中小型バルカー市況も昨年12月からの堅調な水準を保持している。

 不定期船関係者の多くは「いずれ調整が入るだろう」と語り、足元の市況レベルは長続きしないとの見方を示す。だが、コロナ禍を受けた船員交代や入港制限に伴う稼働率の低下も相まって、船腹需給バランスは例年のような崩れ方をしない可能性もありそうだ。

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 ドライバルク船分野では、モナコ船社スコルピオ・バルカーズの動きが注目されている。

 同社は昨年、海洋の再生可能エネルギー分野に参入する計画を発表。洋上風力発電設備設置船の発注計画を公表するとともに、主力のバルカー事業から撤退する考えを示した。再エネ事業に経営資源を集中するため、社名も「Eneti」に改称する。

 同社はスコルピオグループのバルカー船社として2013年に設立された。米ニューヨーク証券市場への上場などで調達した資金を活用し、船舶投資を敢行。設立から1年あまりで80隻近くまで発注残を積み上げた。

 スコルピオは今回の業態転換の理由について、「ボラティリティー(変動性)を抑制し、より予測可能な高いリターンをもたらすため」と説明。より良いリターンを求めて、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する中で市場拡大が見込まれる洋上風力発電分野に投資先をシフトする。

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 リーマン・ショック後、欧米や日本では金融危機を回避し景気を下支えするため大規模な金融緩和が行われた。その結果、海運業界にも大量の投機マネーが流入した。ドライ船市場にも流入し新造船が大量発注され、それらの竣工が集中した15年、16年に市況は不振を極めた。17年以降も市況の回復は限定的で、ドライ船社の経営基盤は揺らいだ。

 スコルピオがドライ船事業から撤退しても船は残る。そのため直ちに需給改善につながるわけではない。ただ長引く不況で投機マネーの流入が細る中で、50隻超の船隊を擁する有力なプレーヤーが資金を引き揚げることは、健全な市場に回帰するきっかけになり得るかもしれない。

 ドライ市況が健全化すれば、船社の傷んだ財務体質も改善に向かうだろう。そうなれば再投資にも前向きになり、高齢船を環境先進船に代替する機運も高まるはずだ。ドライ船を取り巻く事業環境は厳しい状況が続いたが、今年はそういった好循環が生まれる年になることを期待したい。