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 印刷 2021年01月20日デイリー版1面

インタビュー 新段階の造船支援 パッケージの肝】(下)国土交通省海事局長・大坪新一郎氏、2段階融資で発注環境を整備

国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏
国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏

■資金調達を複線化

 ――海運会社向けの船舶ファイナンスのメニューとして、ツーステップローンの創設を検討する。

 「海運会社向けのツーステップローンは、日本政策金融公庫が国の財政投融資資金として、指定金融機関に融資。その上で同金融機関が海運会社の新造船建造資金などの投資に2段階で融資するもの。財投資金のため、長期の低利融資が可能だ」

 ――具体的な効果は。

 「まず政府系金融機関の出融資を活用した船舶ファイナンスでは、現行法・制度で実施可能なメニューが既に複数ある」

 「具体的には、船主が発注する際の初期投資の負担を軽減する海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)による出資、国際協力銀行(JBIC)による融資のほか、DBJによる融資や債務保証、日本貿易保険(NEXI)による付保などだ」

 「これにツーステップローンという新たなメニューを加え、船主の選択肢を増やして資金調達を複線化することで、より新造発注しやすい環境を整備する。特に6―8隻を連続建造するようなロット発注への対応では、金融オプションを多く持つことが有利に働く」

 「金融機関は民間・政府系を問わず、特定企業に対する融資額に上限がある。このため、ロット発注などの大規模案件で船価総額がかさめば、資金調達を十分に行えないケースも考えられる。これに対応し、ツーステップローンという新たな蛇口を用意する」

 ――ツーステップローンの指定金融機関は政府系に限るのか。

 「民間金融機関も使える。例えば船舶ファイナンスに強い地方銀行にとっても、融資の原資を日本政策金融公庫から財投資金として調達できるメリットは大きいと考えている」

 ――JOINは海外事業向けファンドのため、船主の海外の特別目的会社(SPC)の船舶投資に出資する。ツーステップローンの融資先も、海外SPCになるのか。

 「国内船主の投資に対する融資も可能だ。ただ、外航船の国内船主は大半が保有船を外国籍船として海外SPCに持たせているため、実質的に融資対象はほとんどが海外SPCになるだろう」

 「ツーステップローンは海運会社向けのほか、造船所向けにも使えるようにする。造船所の事業再編につながる買収資金や、生産性向上につながる設備投資などが対象だ」

■船価差縮小へ施策

 ――今回の政策パッケージが実施されると、総じて20%以上とされる日本造船と中国造船の船価差は縮小が見込めるか。

 「船価差の程度は個別の案件ごとに異なるため、一概には言えないし、全ての製品で20%以上の差があるとも思っていない。前述した造船業の基盤強化のポイントであるDXは、製品の魅力向上に加えて、建造コストの低減につながる。設計から建造までをデジタルツインを使って細かくシミュレーションしていけば、最も工数を減らせる造り方を追求でき、コストの圧縮が見込める。このような取り組みを進める造船所の競争力は確実に向上する」

 「そもそも、日本造船所の建造船が仮に中国と全く同じ船価でなければ売れないなら、品質や性能が中国製と同じということであり、その時点で産業として終わりだろう。日本造船所の建造船は品質が高く、それ故にライフサイクルバリュー(LCV、生涯価値)も高くなる。こう評価する船主が存在している今のうちに、生産性向上に取り組むことが重要だ。さらに、船舶ファイナンスのメニュー増加を組み合わせて、日本造船の総合的な魅力度向上を図りたい」

■地盤沈下と人材難

 ――手持ち工事量が約1年となるなど、日本造船業の事業環境は厳しさを増している。答申の前提として、その要因をどう見たか。

 「外部要因と内部要因の2つがあると認識している。前者は中国・韓国の造船所に対する公的支援が市場を乱した面も当然あるが、日本経済の相対的な地盤沈下という問題もある」

 「日本の海事産業はかつて鉄鋼や石油などの大規模荷主、すなわち基幹産業に対し、邦船社が輸送サービスを提供し、そこに投入する船舶を日本造船所で建造する、というモデルだった。この中で日本造船所は総じて、安定した仕事量を確保できていた」

 「しかし、日本の国内総生産(GDP)の伸び率は、中国はもちろん、途上国にも他の先進国にも劣後しており、世界のトレードに占める日本発着貨物の比率は低下した。邦船社はこれに対応し、三国間輸送の比率を拡大。日本建造船を志向してきた国内荷主の意向が働きにくくなった結果、海外造船所に発注する割合が必然的に増えてきている」

 ――内部的な要因は。

 「造船技術や経営に熟練した人材の不足だ。日本造船所は今の50代が新卒の頃、船舶工学科出身を含めて、新人をほとんど採用しておらず、同年代の層が現場技能者、設計技術者とも極めて薄い」

 「日本の造船業を引っ張ってきたのは、今の60代、70代。日本造船所はそのベテランが引退していく中、中国・韓国との競争もあり、クルーズ船や海洋開発用船舶など、難度の高い船の建造に乗り出し、失敗してきた」

 「これは設計技術者の不足が響いているが、それだけではなく、例えば技術のバックグラウンドを持ちながらも契約交渉や建造途中での仕様変更など、困難な交渉に対応できる人材もいなかった。技術職で入社した多数の同年代が、さまざまなキャリアパスのもとで切磋琢磨(せっさたくま)してこないと底力は付かない。30―40年前からの構造的な問題である人材不足が、今の厳しさの一因になっていると考えている」

■設備投資は不可欠

 ――税制改正要望で提出した「船舶産業における生産性向上に資する施設整備に対する固定資産税の軽減制度の創設」は政策パッケージの目玉として注目されたが、認められなかった。

 「日本造船所の生産性向上には、新たな設備投資が必要不可欠だ。例えば前述のように、複数の工場をバーチャルな1つの造船所として運用するには、設計システムを統合した上で、群管理の自動溶接ロボットなどそれにリンクする各種の機器を導入する必要がある」

 「別の例では、造船所Aがブロック製造に特化し、造船所Bが組み立て・艤装を担うなど、得意分野を生かした生産分野の企業間連携に踏み切る場合、その体制に適した設備投資が両社で必要になる」

 「この投資に伴う固定資産税は造船所が黒字でも赤字でも、毎年のランニングコストに乗ってくる。ここが軽減されれば、造船所のキャッシュフローが大きく改善するため、造船所が設備投資に踏み切りやすくなり、生産性の向上が一気に進む効果が期待できる」

 「こうした背景から、造船所の生産性向上に資する設備投資に対する固定資産税を5年間、2分の1に軽減する制度の創設を要望し、地方税を管轄する総務省と調整してきた。だが、特定の製造業に対する固定資産税の軽減は前例がなく、他産業との兼ね合いもあり、要望は実現していない」

■形変え実を取る

 ――今後の対応は。

 「地域の経済・雇用を支え、日本の経済安全保障に貢献している造船業の重要性は、関係省庁の皆さんにも十分理解いただいており、創設を要望していた制度と実質的に同じ効果が出る方策について、関係省庁と検討を続けている。形態は変わっても、実は取れるのではないかと思っている」

 「地域経済をけん引する事業に税制優遇などの支援を行う制度『地域未来投資促進法』を活用する方向で、調整を進めている。同制度は当該事業の固定資産税を地方自治体の判断でゼロから2分の1まで減免し、減免分の4分の3を国が補填(ほてん)するもの。ただ、現状は造船業が使いにくい部分があるため、関係省庁と連携し、造船業にも使いやすいよう工夫を施したい」

■既存制度を活用

 ――具体的には。

 「『地域未来投資促進法』に基づく税制優遇は、地域経済をけん引する事業計画を都道府県知事が承認した場合に適用される。このため、事業計画は都道府県単位になる。一方、造船所は事業所が都道府県をまたぐケースがあり、そうした複数の事業所の機能再編で全体の生産性が向上するような事業計画については、『地域未来投資促進法』は適用しづらい」

 「海事局では今回の答申に盛り込まれた施策を実行できるよう、法改正案を2月上旬に国会へ提出する予定だ。造船所が策定した事業再編などの計画を国土交通大臣が認定した場合、政府系金融機関による出融資を可能としたり、事業再編時に税制面の優遇措置を適用できるよう法改正を行う。そこで同時に、『地域未来投資促進法』に基づく申請を大幅に簡略化したり、複数の都道府県にまたがる事業再編に対する認定要件の工夫などを検討する」

■法案に魂込める

 ――日本造船業が目指すべき方向性は。

 「造船所、舶用機器メーカーという造る側のプレーヤーが、海運会社や商社などのパートナーと組み、日本連合のような形で船舶のライフサイクル全体をサポートしていく。今の売り切り型から、こうしたビジネスモデルに変革していくことが、日本造船・舶用工業の将来像だと考えている」

 「つまり、造船所が船舶の建造に加えて、保有、その先のオペレーションにまで一体的に関与していくべきだということ。これにより、造船所がデジタルツイン(仮想空間に再現した複製)を使って運航時のデータを蓄積・分析し、自社製品の開発・設計にフィードバックすることも可能になる」

 ――上場造船所は、連結対象になる船舶保有会社を大規模には持ちにくいとの指摘もある。

 「造船所が船舶を保有しなくても、オペレーター(運航船社)と契約するなどして、就航後の船舶のライフタイムサポートをサービスとして提供することは可能だろう。船舶保有会社を持つ造船所は、新造船市場の波動を吸収する今の機能に加えて、運航の機能も付加していくことで、チャンスが広がるのではないか」

 ――このほか、造船が取り組むべきことは。

 「日本船社からの信頼を今一度、固めることができるかが課題だろう。海運事業が日本荷主向けの長期安定輸送から、LNG(液化天然ガス)や海洋などにシフトする中で、船社のニーズに応え切れていないとの不満がある。まずは、最重要で身近な顧客のニーズを自分から拾いに行くこと、そして相手が思い付かないような解決策の提案をしていくこと。かつてのように『共に成長する』モデルを取り戻すことが必要だ」

 ――終わりに、法案も含めた「海事産業の再構築プラン」の策定、推進に当たって思いを聞きたい。

 「今回は海事立国推進議員連盟をはじめ多方面の支援により、過去に例がない規模の予算、税制、財政投融資を付けていただいた。一連の政策パッケージの中には、省庁の垣根を越えた取り組みなど、法改正を行って初めて使えるようになる施策が複数ある。大規模な支援に魂を込めるべく、法律をしっかり仕上げることに注力する」