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 印刷 2021年01月19日デイリー版1面

インタビュー 造船支援 新段階、パッケージの肝】(上)国土交通省海事局長・大坪新一郎氏、生き残りへ進化・再編促す

国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏
国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏

 国土交通省交通政策審議会海事分科会の海事イノベーション部会が、造船支援策に関する答申をまとめた。海事局は、答申に盛り込まれた施策を実行可能とする法改正案を2月上旬に国会へ提出する予定だ。大坪新一郎局長に、予算・税制・財政投融資などを連動させた政策パッケージの要点を聞いた。(聞き手 松下優介)

 ――国交省交政審海事分科会の海事イノベーション部会が、造船支援策に関する答申をまとめた。

 「日本造船業が、鉄鋼や石油業などの日本の大規模荷主や経済の強さに依存してきた産業から、自らの力で海外に売り込める産業に脱皮できるか。これが今の待ったなしの課題だ。このため答申は、生き残りに向けて自ら変わろうとする造船所を支援する内容になっている」

 「これを予算、税制、財政投融資、その他の施策を連動させた政策パッケージ『我が国海事産業の再構築プラン』として速やかに実行したい。1つ目の柱は、日本造船業の基盤強化。2つ目は日本海運の支援。これは船主の新造発注意欲を促進するもので、日本造船の支援にもなる。その他の施策が3つ目だ」

■DX・脱炭素が鍵

 ――1つ目の柱のポイントは。

 「日本造船業の基盤強化には、デジタルトランスフォーメーション(DX)とカーボンニュートラルの推進が鍵になる。まず前者。日本の造船所はこれまでも経営統合は進んだが事業所の数は今も多く、全国に分散しており、同じ企業でも工場ごとに異なる製品仕様になっていたり、設計・生産システムが統合されていないケースがある」

 「造船所の再編・合従連衡は今後さらに進むだろうが、その効果を最大化するには、同一企業内はもちろん、パートナーとなる企業間でもシステムの統一が必要になる。事業所が複数あっても、バーチャルにはシステムも含めて1つの事業所であるかのように最適に機能する。これを達成する鍵が、デジタルツインなどのデジタル技術の活用だ」

 ――カーボンニュートラルの推進とは具体的には。

 「LNG(液化天然ガス)燃料船の生産基盤の強化だ。世界的なカーボンニュートラル化の流れに沿い、船舶燃料は長期的には、水素やアンモニアになるかもしれない。だが、LNGはそこに至る単なるつなぎではなく、2030年以降も主力燃料になると考えている。日本造船所としても、LNG燃料船を競争力の高い船価で建造できるようになることは必須だろう」

 「水素やアンモニアは、石油やガスのように元からあるものが湧いて出るわけではなく、風力のような自然エネルギーや通常の化石燃料の燃焼エネルギーにより人為的に作り出されるもので、後者については当然、ゼロエミッションではない。つまり、水素などは『エネルギー源』ではなく、『エネルギーの媒体』にすぎず、本質は蓄電池と同じだ。水素やアンモニアを安定的に燃焼できる優れた内燃機関を日本が開発しておくことは将来のために必須だが、一方、巨大な出力を必要とする外航船を何万隻も世界中で動かすに足る水素が、簡単に供給されるとは思えない」

 「LNG燃料を使用しながらも、推進に風力を一部利用したり、さまざまな省エネ技術を組み合わせることにより、CO2(二酸化炭素)排出を最小化する『(ゼロではないが)ミニマムエミッション船』を目指すのが現実的。現状よりも8割以上排出を減らせるという試算がされている。また、回収したCO2を水素に化合させて作るカーボンリサイクルメタンが普及すれば、LNG燃料船にはそのまま使えることもあり、これから造るLNG燃料船が陳腐化するようなことはないだろう」

 「LNG燃料船については、貨物倉を圧迫しないよう、スペース効率の高い革新的な燃料タンクを開発したり、タンクおよびその周囲の複雑な加工・溶接をロボットの活用で自動化・効率化するなど、コスト競争力と共に品質の高度化も欠かせない」

■発注意欲を喚起

 ――2つ目の柱、日本海運への支援のポイントは。

 「新造船の建造に必要な資金についての政府系金融機関による出融資を活用することが1つ。これにより、船価が若干高くても、用船料に置き直した場合に競争力を発揮できるようにし、船主の新造船発注意欲を喚起する」

 「ゼロエミッション船や自動運航船の実現に向け、技術開発に対する支援も行う。また国際船舶に係る特例措置(固定資産税)を3年間延長するとともに、高い省エネ性能などを持つ船舶には課税標準を18分の1から36分の1に拡充する。こうした船主への支援は結果として、日本造船所の受注拡大にもつながる」

 ――3つ目のその他とは。

 「官公庁船の建造、輸出促進だ。艦艇や巡視船など官公庁船の建造需要は、日本造船所の仕事量を下支えしている。一方、優秀な技術者のつなぎ留めも含め、その建造基盤を維持するには、市場を拡大していく必要がある。海外向け官公庁船の案件形成に他省庁と連携して取り組む」

 おおつぼ・しんいちろう 87(昭和62)年東大院修了、運輸省(現国土交通省)入省。米ハーバード大修士、東大博士。16年大臣官房技術審議官(海事局担当)、17年海事局次長。19年7月から現職。福岡県出身、57歳。