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 印刷 2021年01月13日デイリー版1面

インタビュー 内航海運のSDGs】アイテックマリン社長・石川和弥氏、デジタルで船員支援

アイテックマリン社長 石川 和弥氏
アイテックマリン社長 石川 和弥氏

 国内物流の4割強を担う内航海運。経済・社会を維持するために必要不可欠なインフラだが、社会的認知度の低さが指摘される。2019年に起業したアイテックマリン(本社・福岡市)は、デジタル技術も活用し認知度向上や、内航業界で課題となっている船員確保を進めるための事業者へのサポートをしている。内航船員の安定的な確保・育成は国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)のゴールの一つである「働きがいも経済成長も」にもつながる取り組みだ。総合商社を退職し、同社を立ち上げた石川和弥社長に起業後の取り組み、今後の事業展開などを聞いた。(聞き手 鈴木一克)

■10年先見据え

 ――商社を退職し、アイテックマリンを立ち上げた理由は。

 「商社時代にケミカルタンカーの配船業務に携わったことで内航海運業界との関係が生まれた。溶融硫黄という石油精製の過程で出てくる副産物の輸送が主な業務だった。肥料やタイヤなど、さまざまな化学製品製造に欠かせない化学品原料だが、約束のスケジュール通りに硫黄を引き取り・供給できなければ、ガソリンや化学製品製造が停止し、社会・経済に甚大な影響を与えてしまう。この業務を通じて、人々の生活にとって内航輸送が重要だと痛感した」

 「一方で、訪船した内航船の現場では平均55歳以上のベテランが船内の狭い空間で、日々蒸気漏れやさびの検知をすることで現場の安全を支えている姿を目の当たりにした。こうした経験豊富な船員の技術レベルに驚かされる一方で、5―10年先の内航海運を考えると次世代の船員を確保・育成できなければ事業継続は難しいと実感した。こうした人材確保・育成に苦しむ内航海運業者を支援したいと思い独立した」

■動画でアピール

 ――起業後の活動、業務を通じて得たことは。

 「内航海運の社会的認知度を向上させる取り組みを優先的に進めてきた。業界・職業の認知度が上がらなければ、入り口にすら立ってもらえないと考えたからだ。内航海運は社会的な重要度と認知度が比例していない産業だと感じる。船員を志望する際、商船系高等専門学校に進学するという道もあるが、中学生の段階で本人や親などが船員という職業を知らなければ、進路選択の一つに挙がらないからだ。認知度向上への取り組みの一つが動画投稿サイト『ユーチューブ』などでの配信で、内航船や船員の仕事について紹介している。動画は中学生、高校生、大学生、学校を卒業して社会で働き始めた世代向け。動画を見た社会人から『船員という職業に興味関心を持った』という問い合わせもいただいている」

 「起業から半年間は船主・船員と面会を重ね、業界の実情把握に努めた。さまざまな人の話を聞き、船員不足が喫緊の課題であると改めて実感した。一方で、採用、離職防止、育成、職場環境改善など船員問題に関する切り口がさまざまだと気付かされた。将来に向けた課題解決策をどのように船主などに提供するかを考える際に、多くの人へヒアリングした経験が生かされている」

 ――現在特に力を入れている業務は。

 「船乗りや工務などの陸上専門職の就職・採用がより気軽に行え、かつミスマッチを減らす取り組みを進めている。自社のホームページがなく、具体的な仕事内容や社風を明確に紹介できていない会社でも、手軽に自社をアピールできるような動画やスワイプ画像を当社で作成し、SNS(交流サイト)・ホームページ上で発信することで、就職・採用支援を行うサービスをしている。さらに、船員が働く上でのノウハウなどもまとめた動画制作・提供なども行っている。認知度も徐々に上がり、利用いただける会社も増えてきている」

■ITで環境改善

 ――将来的にどのような事業に取り組みたいか。

 「船員育成のデジタル化コンテンツづくりを進めたい。例えば指導・教育が上手な人が教える様子をまとめた動画を複数の事業者で共有できる仕組みをつくり上げていきたい。またデジタル技術を活用し、船員のメンタルケア、健康管理をできる仕組みも構築したい」

 ――デジタル化が進むことで労働環境改善につながる。

 「内航船員の労働環境改善をさらに推進する必要があると感じる。航海日誌作成や、狭い場所での確認作業などの負荷を下げるようなデジタル化を進めることで働きやすい環境を整備することは重要だ」

 ――今後の内航海運に期待することは。

 「IT化などに関心がある船主が増えている。業界全体でデジタル化が進み、働き方の変化や、内航海運の魅力がより多くの人に伝わりやすくなることにつながればうれしい。IT化に抵抗感がない人が増えれば、内航船の姿も変わってくるのではないか。当社として、そういった変化に対してサポートできることがあれば、粘り強く貢献していきたい」

 いしかわ・かずや 九州大院システム生命科学府修士課程修了後、三井物産に入社。日本・ドイツで海運関連の業務などに携わった後退職。19年10月にアイテックマリンを創業。愛媛県出身、32歳。