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 印刷 2021年01月13日デイリー版3面

菊田の眼 Logistics Insights】(6):日本海事新聞社顧問・L―Tech Lab代表・菊田一郎、物流も"グリーン"変革へ。「GX」で課題に挑め

日本海事新聞社顧問 L-Tech Lab代表 菊田  一郎氏
日本海事新聞社顧問 L-Tech Lab代表 菊田 一郎氏
表・グラフ

 コロナ禍で世界の持続可能性への関心がいやが上にも高まる今、政治経済の未来ビジョンで潮目が変わろうとしている。「2050年にカーボンニュートラルの実現を目指す」との政府方針発出を受け、脱炭素化への動きが本格化したからだ。

 有限な化石燃料資源は増え続ける全人類の需要を賄いきれない。それ以前に過剰な費消を止めなければ、温暖化と汚染によって生存環境は不可逆的に損なわれる。世界の持続のため脱炭素はまさに喫緊の課題―。このロジックが日本でも公に共有されたことになる。

 SDGs(持続可能な開発目標)の中でも最大テーマの一つ、脱炭素社会化に本気で挑むなら、実は産業地図を一変させるほどディスラプティブ(破壊的)なインパクトが生じる。本紙が新春特集で示した通り、物流・海事業界にとってもそれはしかりだ。

 昨年12月3日、「経済産業省が2030年代半ばに新車販売を100%電動車(EV)にする方向で調整」との報道に、産業界から出た反応の中で注目されるのは12月17日、日本自動車工業会(自工会)の記者懇談会で豊田章男会長が「堪忍袋の緒をぶち切らせた」と報じられた発言である(注1)。

 注記リンクから小泉環境相発言も含め動画が見られるのでご覧いただきたいが、同氏は「自工会として50年カーボンニュートラルの政府方針に積極的にチャレンジすると決めた。ただし画期的ブレイクスルーが必要で、欧米中と同様の財政的支援を要請する」とした上でさまざまなデータを提示。「EVは製造・使用過程で(日本では主に)火力発電による莫大(ばくだい)な電力を使う(中略)国内400万台を全部EV化したら夏のピークで原発10基分の電力が不足する」「全面EV化というならものづくりで雇用を生み出す日本の自動車ビジネスモデルが崩壊する」「政治家はそれを分かって話されているのか」「メディアの皆さんにも公平な報道をお願いしたい」…などと強く主張した。

 これを受けさまざまな議論が展開されている。筆者もSNS(交流サイト)で年末年始、識者らと意見交換を重ねてきた。現在の地点で同氏の主張は合理的だし、政府の判断根拠を堂々問うたこと、偏りないデータを基に対立ではなく論議を交わすべきとした意見には大賛成だ。

 一方で、示されたデータは現在までのAs―Is(アズ・イズ、現状)基準であり、挑戦目標である自然エネルギー転換のTo―Be(トゥービー、理想の姿)視点がない。自動運転EVのシェアリングを志向するCASE(接続・自動運転・シェアリング&サービス、電動化)時代に対応するとして、同氏はトヨタを「モビリティーカンパニーにする」と宣言したのだが、EVを半否定し激動の世界で生き残れるのか…真意は続報で確かめたい(注2)。

 現実をみると、十数年来の欧米発の脱炭素コンセプトに中国がいち早く反応、「グリーン・ニューディール」(自然エネルギー社会の実現で持続可能な地球と人の環境保全を目指す新施策ビジョン)の取り組みは猛進中だ。環境エネルギー政策研究所によると19年(暦年)の国内全発電量に占める自然エネルギー(水力、太陽光、風力、バイオマス、地熱)の割合は、欧州28カ国全体で約34%(デンマークは約84%)、中国26・4%に対し、日本はようやく18・5%である(注3)。

 再生可能電力のスマートグリッド化による 1.通信のインターネット 2.エネルギーのインターネット(地球規模でのシェア) 3.物流・ロジスティクスのインターネット、というスーパーインターネットをベースに、循環経済(サーキュラーエコノミー)、共有経済(シェアリングエコノミー)社会を実現すべき、と主張するのが前回触れたジェレミー・リフキン「グローバル・グリーン・ニューディール」である。

 米国もバイデン新政権が協調モードに舵を戻すことが期待される。新たなルールで新たなゲームの土俵を作り、主導権を握るという国際競争はすでに佳境を迎えている。

 では、これから出航する脱炭素チャレンジの航海にわれわれはどう臨むべきか。既に12月で4回を重ねた政府の「グリーンイノベーション戦略推進会議」では、産業分野ごとの有力テーマで実行計画を別図のようにまとめている。約半数が物流・海事の関連項目だ。豊田会長の指摘通り現実を踏まえ慎重に進めるべき点はあるが、なすべきことは実に多い。

 この挑戦を筆者が言う物流DX(デジタルトランスフォーメーション)、CX(コーポレートトランスフォーメーション)に重ね、「物流GX(グリーントランスフォーメーション)」と呼びたい。

 前回コラムで筆者は、SDGsの17のゴールのうち、わが国で認識が薄く今後注力すべきゴールとしてディーセント・ワーク(生産的で働きがいのある人間らしい雇用)ほかの促進を挙げた。

 今回強調したグリーン課題、コロナ対応と合わせ、「地球と働く人の環境保全」が物流・海事セクターでもこの新しい年、優先課題となるのではないか。その追求こそ当産業におけるESG(環境・社会・企業統治)経営のキモになるからだ。ただし「株主、投資家に選ばれるためのESGポーズ」はいただけない。「世界を持続可能とするために、わが社は誰が何と言おうとSDGs達成を目指す」との心意気が欲しい。

 自らがDX、GXを経て「ESGレベルを高めるほどもうかる組織」へと、CXで「会社を根こそぎ変える」(「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」、冨山和彦、文藝春秋)ことが、そのままビッグなビジネスチャンスの獲得につながるはずである。

 (注1)「豊田章男社長の『警鐘』」、川口マーン惠美、講談社現代ビジネス、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78943

 (注2)豊田会長は1月8日付自工会年頭メッセージで「再生エネの活用でCO2を大幅削減する必要がある(だから自動車産業だけでなく)国家を挙げてカーボンニュートラルに挑むべき(趣意)」と語り前記発言を補った。

 (注3)環境エネルギー政策研究所、https://www.isep.or.jp/archives/library/12541

 (月1回掲載)

 きくた・いちろう 82(昭和57)年名大経卒。83年流通研究社入社。90年から20年5月まで月刊「マテリアルフロー」の編集長を務める。同年6月に独立し、L―Tech Lab設立。同月、日本海事新聞社顧問就任。