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 印刷 2021年01月01日デイリー版2面

新年号 海運・造船編】〈新春インタビュー〉国土交通省海事局長・大坪新一郎氏、トン税の在り方 今年から議論。日本商船隊の国際競争力強化へ

国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏
国土交通省海事局長 大坪 新一郎氏

 国土交通省海事局は2020年5月、「国際海上輸送部会」と「海事イノベーション部会」の合同会議を設置することを決めた。低迷する日本の外航海運、造船業の活性化を図る施策について議論をスタート。特に外航海運では、トン数標準税制の検討が21年から本格的に始まる。さらに船舶からの温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた動きも活発化している。こうした中、国交省の大坪新一郎海事局長に今後の海事行政の方向性について聞いた。

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■外航海運と造船一体的に

 ――トン数標準税制を含む外航政策については。

 「トン税についてはまだ何も決まっていない。四面を海に囲まれている日本は99・7%を海上輸送に頼っている。最も重要なのは、パナマや日本といった船籍にかかわらず、日本に本社・企業統治機能を持っている船社の国際競争力を強化することだ」

 「日本籍船を増やしたいのは当然だが、『日本の船社』なくして日本籍船は存在し得ないので、日本船社の体力が弱ってしまったり、日本に見切りをつけて本社機能も海外に完全移転してしまったら元も子もない」

 「現在、瞬間的にコンテナ船市況は調子が良いが、全体的に見ればリーマン・ショック以降、船腹過剰状態が続き、長期にわたり海運市況が低迷している。さらに、新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけて非常に厳しい状況だ。その中で外航海運事業者は市況低迷の影響を受けやすいスポット契約を見直し、船隊規模の縮小を進めている」

 「(交通政策審議会の)海事分科会で国際海上輸送部会と海事イノベーション部会で外航海運と造船業の支援策について議論している。21年度税制改正要望の海事関係税制や、現在、創設を検討している先進的な船舶導入のための計画認定、およびそれにリンクした支援制度もそうだが、外航海運と造船業の両方が一体的に好循環する仕組みを構築しなければならない」

 ――日本船主協会の内藤忠顕会長から、トン税について「事業環境の変化に合った制度設計に」との要望があったが。

 「第2回国際海上輸送部会で船協の内藤会長がそのように発言していたのは承知している」

 「外航海運事業者はこれまで日本荷主との長期契約で支えられてきた。しかし、現在は輸送契約期間は短期化する傾向にあり、オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)などを代表に事業の海外移転が進み、また製鉄や石油など安定荷主の伝統的事業が長期的に縮小していく中で、海洋開発などの新規分野に出ていかなければならないなどさまざまな面で事業環境の変化がある」

 「これらを背景にトン税の柔軟化、特に日本籍船の増加やそれに連動した日本人船員の確保・育成義務の要件緩和の必要性が指摘された。このほか、日本籍船の制度改善やコスト適正化などの要望も挙がった」

 「先ほども述べたように、根本的には日本の外航海運事業者を強くしなければいけないと思っている。経済安全保障の確保を念頭に、国民の理解が得られる制度設計を検討していかなければならない」

 「個人的な意見を言えば、日本経済全体の変化から離れられないと思っている。今までトン税の適用を受けている船舶は、日本の大規模荷主向けの産業基礎物資の輸送に使われているものが多かった。しかし、これらの長期安定的に稼げる荷主自体が日本経済の低成長を背景に世界と比較して相対的に縮んできた上に、日本の人口減や省エネ・脱炭素化もあり、日本向け基礎物資は絶対量としても需要が減るだろう」

 「そういうことも考慮に入れながら、21年以降トン税について本格的に議論を進めていきたい」

■技術開発を加速化

 ――菅義偉首相は50年のGHG排出「実質ゼロ」を表明したが、海事分野ではどのように進めていくのか。

 「これまで、われわれは、技術開発支援とIMO(国際海事機関)でのGHG排出削減ルール策定の主導という両輪で推進してきた。この動きを一層加速していかなければと感じている。GHGを排出しない『ゼロエミッション船』の段階的実現に向けて一歩一歩進めていかなければならない。このプロセスで、中国や韓国に先んじることが海事産業の競争力強化を図る上で不可欠であり、全力でこれを支援していく」

 「20年3月には、海運・造船・舶用の各海事産業や研究機関・公的機関などで構成する『国際海運GHGゼロエミッション・プロジェクト』が国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ(行程表)を策定した。28年までに『ゼロエミ船』の商業運航を目指している。このロードマップは2つのシナリオを想定している」

 「その一つは、LNG(液化天然ガス)とカーボンリサイクルメタンを中心に活用を想定したものだ。50年までには原油需要が減少し、国際海運の消費エネルギーの約35%がLNGになり、カーボンリサイクルメタンなどが約40%を占めると予想する」

 「LNGは油よりもGHG排出量が少ないが、化石燃料であることは変わらないので陸上では『つなぎ』とのイメージがあるが、海上ではそうではない。なぜなら、大型外航船は極めて大出力で、内燃機関を使わずに蓄電池だけで長距離を航海することは将来でも困難であるし、途上国も含めて世界中で水素供給インフラが整うとは考えにくいからだ。また、将来カーボンリサイクルメタンが普及した際には、LNG燃料船やLNG供給インフラをそのまま使うことができる」

 「LNG燃料船は大型船から小型船まで広く対応でき、信頼性も高く、燃料タンクやエンジンへの燃料供給システムを低コスト化できれば、さらに広がっていく。そうしたことを考慮に入れれば、陸上以上にLNGは重要である」

 「もう一方は、水素・アンモニア燃料が拡大するシナリオだ。代替燃料として水素・アンモニアが45%を占めるが、LNGも35%と依然、高水準で利用されると推測する」

 「これまで代替燃料への転換に向けては、LNG燃料船の技術開発や実証事業を進めてきた。20年度補正予算では、LNG燃料船の低コスト化を図るために、燃料タンクの生産基盤も含めた開発・実証を行うことにしている」

 「また、水素やアンモニアを直接燃焼させるエンジンは現在、存在しない。これを世界に先駆けて開発しなければならない。この開発を進めるためにも、政府が創設を目指している2兆円の脱炭素化基金を活用して技術開発を進めていきたい。まだ制度設計ができていないので、今後の動向を注視していきたい」

■船員確保実績上げる

 ――内航船員(貨物船)の高齢化を危惧する声もあり、船員の確保・育成についてはどのように進めていくのか。

 「内航船員の年齢構成を見てみれば、確かに60代以上の割合は多い。この年代には、(1985年の)プラザ合意以降の円高の影響により外航船から内航に再雇用された人たちが大勢いて、いわば『内航版の団塊世代』だ。この世代が内航を支えてきたが、当時30代だった大きな塊が30年たてば60代になるのは当たり前であり、見るべきなのは若年層が増えているかどうかだ」

 「内航の年齢構成を見てみれば、34歳以下は27・0%(19年)で、10年には19・8%だった。年々割合が増えている、つまり若返りが進んでいる。他産業と比較すると、全産業平均が25・1%、建設業に至っては18・6%にすぎず、しかも年々悪化(割合が減少)している」

 「19年の内航の新規就業者数は962人、直近3年間は900人を超えている。10年には514人で、その後、右肩上がりで増えている。これは少子化が進む中で誇り得る実績だ」

 「新規就業者の内訳を見てみると、10年当時はJMETS(海技教育機構)が286人で6割弱を占めていた。現在、JMETSは絶対数は増えて331人だが、割合としては約3割。水産・海洋高校が350人でJMETSを上回り、商船系高専が定員200人のところ約半分の97人が内航に就業している。民間新6級海技士も年々伸び続け、130人に達しているし、尾道海技学院の徳島阿南校(徳島県阿南市)も開校する」

 「14年8月の第3回基本政策部会で内航業界のヒアリング結果が紹介されているが、その中で、『JMETSから約300人、水産高校から約100人の供給があるが、約300人が不足するので、この穴埋めに水産高校から200―300人、民間新6級から100人の供給を望む』とされている。この要望は130%くらい既に実現されたことになる。若年内航船員が増加するとともに、その供給源はこの10年で大幅に構造が変わったことを認識すべきだ」

 「ただし、新人内航船員の定着率については緩やかに悪化しており、せっかくの新規就業者増加の効果が一部損なわれている。海事産業基盤強化のための総合対策として今年の通常国会に提出を検討している法案の中で『働き方改革』に関する施策を進めていきたい」

 ――こうした現状の中でJMETSの今後の在り方については。

 「JMETSでは、中堅船社の船上基幹職員を育成する場であると考えている。船舶のデジタル化などの環境変化に対応しつつ、船員として働くための意義を感じられる基幹職員を育てなければならない。そのためには教育内容を高度化し、国際条約改正対応や技術革新に対応した知識技能を習得するなど、教育の『数』だけでなく『質』にこだわらないといけない」

 「練習船機関科実習の一部を陸上施設でも行えるよう陸上工作技能訓練の取り入れも図っていく予定であり、これは感染症防止の観点からも有効といえる」

 「JMETSは、航海・機関両用教育から海技短大では航・機専科教育に移行することになるだろう。だが、小型船など両用教育コースのニーズも残ることを踏まえ、反対部の教育を受けることにより反対部の筆記試験免除を可能とするコースを設置したり、これまでと同様の両用資格を取得できるコースも残すことも必要だろう。こうしたことも含め、21年度からのJMETSの新中期目標・新中期計画にも反映することになると思う」

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 おおつぼ・しんいちろう 87(昭和62)年東大院修了、運輸省(現国土交通省)入省。米ハーバード大修士、東大博士。16年大臣官房技術審議官(海事局担当)、17年海事局次長。19年7月から現職。福岡県出身、57歳。