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 印刷 2020年12月21日デイリー版4面

記者の視点/柏井あづみ】コロナ禍の下の分断、SDGs・ESGがコモンセンスの柱に

 12月に入り、この項を書くのも今年最後になった。2020年はコロナ禍の年として歴史に刻まれることになるだろう。未知のウイルスの猛威により、世界全体が機能不全に陥りそうな中、海運業界はエネルギー供給をはじめとするライフラインを支え続け、改めてその重要性が浮き彫りとなった。

 用船マーケットは引き続き激しく変動し、船員交代の難航という混乱に直面しながらも、世界の船は人々の生活に不可欠な物資を今日も運び続けている。長期乗船を強いられている船員一人一人の忍耐と日々の努力なしには世界経済は成り立たない。現場で奮闘している全ての船員が、心身ともに健康で過ごせることを祈念している。

 陸上にいる自分自身の記者としての今年の雑感は、正しさや真実を巡り、世界のあちこちで断絶が深まっているように感じたことだ。

 コロナ禍の脅威にさらされ、私自身を含めて多くの人々の疑心暗鬼が募り、感染防止策や公的支援の共通の解がなかなか見いだせない。米国や日本の一部ではマスク不要論を叫ぶ人も出ている。SF映画の宇宙人襲来のように、世界の危機に対して人類が一致団結して立ち向かう物語は、なかなか現実にはならない。

 分断の大きな要因としてSNS(交流サイト)や動画サイトの普及により、既存メディアの新聞やテレビの権威が揺らぎ、何が真実か分からなくなっていることがある。今秋の米大統領選では、大統領自身が大手メディアの報道する選挙結果を真っ向から否定し、真実を巡る分断が深まっている。

 ネットの普及以前は、新聞やテレビの報道がある程度、コモンセンス(常識、良識)の担い手として機能していた。ネットの台頭は多様な視点を提供してくれる一方、証拠や検証作業なしの臆測が声高に叫ばれることで事実のように広がっていく、中世の魔女狩りのような怖さをはらむ。

 記者としてメディアの役割を考えさせられる状況であり、記事の検証を重ねる重要性を再認識させられる。おそらく世の中はいまコモンセンスの基盤を改めて見いだそうとする過渡期にあり、これから新聞が事実を伝える担い手としての共通認識を得られるかが問われている。

 そうした中、海運業界をはじめ有力企業の間で新たなコモンセンスの柱が打ち立てられようとしている。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)重視の潮流だ。

 日本郵船はESGを経営計画の中心に置き、欧州では荷主や海運会社、金融機関が海上輸送のGHG(温室効果ガス)排出量を公表し始めている。

 日本郵船の長澤仁志社長は11月の本紙インタビューで「ESGは社会の要請であり、背を向ける企業は間違いなく淘汰(とうた)される」と切実に語った。

 SDGsやESGは“きれいごと”かもしれない。しかし、それらがビジネス機会や企業の持続可能性に直結する時代が訪れようとしている。足元の正しさを巡る混沌(こんとん)の中で、営利企業のフロントランナーが理想の社会に一歩ずつ近づく努力を自らに課す姿勢には勇気づけられる。社会のコモンセンス復権に向けた一つの羅針盤となり得ると期待している。