日本海事新聞社 物流ウェビナー2
 印刷 2020年12月07日デイリー版1面

郵船・JMU、海事クラスター底上げ。建造契約で実海域性能保証。「技術力の高さ示す物差し」

 日本郵船とジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、日本の海事クラスター底上げに向け、新たな境地を開く。両社は9月、新造船の建造契約に、実海域での性能を保証する条項を導入することで基本合意したと発表。従来の建造契約では、波、風など外乱の影響を受けない平穏な海象下での保証となっており、世界初の取り組みとみられる。これは「造船所の技術力の高さを示す物差し」(関係者)になる。2社はこの動きが国内他船社、他造船へ波及することで、日本の海事クラスターの底上げ、競争力強化を見込む。

 従来の建造契約で造船所側が保証するのは、エンジンメーカーの工場でテストするエンジンの燃費率と、引き渡し前の海上試運転での速力が中心だった。今回は、両社が決めた海象、積み荷の状況など一定の条件下での「速力と馬力の関係を示すパワーカーブ」が対象となる。用船契約で条件となる速力と燃料消費量は含まれていない。

 両社は「SIMS」(日本郵船)「Sea―Navi」(JMU)と、船舶の運航データなどを収集する独自のモニタリングシステムをそれぞれ保有。性能の検証は、対象船に2社のシステムを同時に搭載し、データを突き合わせることなどで1年程度かけ評価する。初適用する建造契約での対象船の船種、隻数などは明らかにしていない。両社は、これ以降の契約にも実海域性能保証を適用していくことを目指す。

 日本郵船とJMUはそれぞれのモニタリングシステムを駆使し、長年船舶からデータを収集してきた知見を生かして、2016年2月に大型コンテナ船に関するビッグデータ活用の共同研究開始を発表するなど、関係を強化してきた。収集したデータの処理、蓄積、解析手法などに対する共通理解に加え、得られた知見を次の新造船にフィードバックする関係を構築してきたことが、今回の動きにつながった。

■竣工後データ検証

 日本郵船工務グループの加藤淳計画チーム長は、実海域性能保証を建造契約に導入する際に必要なこととして、「収集データをどう取り扱うかなど、船社と造船所相互の信頼関係」を挙げ、「造船所は『建造したらそれで終わり』でなく、竣工後に船のデータを一緒に取り検証し、その後の改造や、次の建造船へフィードバックするなど、中長期的に付き合えるパートナーでなければならない」と語る。

 業界では実海域での実船性能をモニタリング、推定、評価する手法を開発するプロジェクト「OCTARVIA」が進むが、今回の合意にOCTARVIAの利用は含まれていない。両社は今後の検証で、OCTARVIAの成果を取り入れることも検討する。

■良い船造り続ける

 実海域性能保証導入における造船所側の意義について、JMU設計本部船舶海洋設計部船体計画グループの富岡浩二主幹は、「荷主と船社との輸送契約では実海域性能が用いられており、実海域性能の良い船を見定めて船を調達したいという船社の要望に応える。そして、実海域性能の良い船を造り続けることが、海事クラスター全体の利益につながる」点を指摘する。

 日本郵船では、今回の動きの背景として「IoT(情報通信技術)の進展と船陸通信の向上」(加藤氏)を挙げる。アプリ開発などを通じて大量のデータを活用し船舶の運航効率向上につなげることを目指す日本の海事産業のデータ共有基盤「IoS(船のインターネット)オープンプラットフォーム」(IoS―OP)の取り組みにも期待を寄せる。

 OCTARVIAやIoS―OPなどの動きも踏まえ、両社では建造契約に実海域性能保証を盛り込む動きが国内の他船社、他造船へ波及し、一般化することを期待する。その際、評価手法などに関して第三者機関による承認を受けることなどの必要性も指摘する。

 加藤氏と富岡氏は、IoS―OPコンソーシアムが7―18日に開催する「船舶デジタライゼーションの今(船員へのリモート支援と経済性の向上)」をテーマとしたウェビナーで、実海域性能保証に関する基調講演を行う。