日本海事新聞社 物流ウェビナー2
 印刷 2020年11月25日デイリー版1面

海運トップに聞く 下期の舵取り】(2)NSユナイテッド海運社長・谷水一雄氏、竣工一巡 収益力強化へ

NSユナイテッド海運社長 谷水 一雄氏
NSユナイテッド海運社長 谷水 一雄氏

 ――上期(4―9月期)は経常利益7・5億円と黒字を達成した。

 「第1四半期(4―6月期)は1月以降の海運市況の下落に新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、経常赤字に陥った。特に内航船では鋼材の輸送需要が減退し、一部で係船も行った。近海、外航も効率の悪い配船を余儀なくされ、苦戦を強いられた」

 「そこから第2四半期(7―9月期)は盛り返し、結果的に上期は黒字を確保した。大きな要因は中国経済の想定以上の早い回復、旺盛な鉄鉱石需要だ。ケープサイズなど大型船を中心に市況が回復し、荷動きが戻った」

 「足元では想定以上に製造業、特に自動車メーカーが力強く回復している。ただ、鉄鋼業に関してはアジアの他国と比べると日本の高炉の稼働の戻りはゆっくりしているという印象だ。上期の粗鋼生産量は約3700万トンで、年度を通じて8000万トンに達するかどうか注視している。現在も鉄鋼生産に合わせて、原料ではケープサイズの転配や、鋼材では中小型船で短期用船を中心に返船を行っている」

■試されるコロナ後

 ――下期(10月―21年3月期)の展望は。

 「ここ数年間整備してきた新造船の竣工が一巡する見込み。3隻目の40万重量トン型大型鉱石船(ヴァーレマックス)やポスト・パナマックス、近海船など計4隻、内航ではIGCC(石炭ガス化複合)発電所向け石炭専用船が順次竣工し、収益力が強化される。荷動き面では、中国の鉄鉱石輸入量が月間1億トンのピッチで定着している。ブラジル資源大手ヴァーレの生産もようやく上向き、日量100万トン超に達しており、鉄鋼原料の輸送需要が堅調に推移することを期待している」

 「コロナ後の景気回復はまだら模様。国や地域、産業間、また同じ産業でも企業によって差が出ている。次に向けて各社の舵取りが試される」

 「米国大統領選後がどうなるのかまだ不透明だが、趨勢(すうせい)が落ち着くまで短期的には金融情勢含め色々あるだろう。気になるのは為替。バイデン氏になるのであれば政策はバランスのとれた中道路線を維持してほしい(※本取材は11月9日に実施)」

■10年後の姿見据え

 ――中期経営計画を踏まえた今後の事業の展開は。

 「今回の中期経営計画は2030年までと時間軸を長くとった。10年後の姿を考え、今何をするべきかを議論した。当初想定した事業環境の変化が一層加速されてきたと見ており、次への準備を進めていく」

 「まずは日本製鉄はじめ鉄鋼の生産構造の変化への対応が挙げられる。荷主の生産体制の変化に合わせて船隊構成を考え直していく必要がある。また荷主の海外展開をどうフォローし、ついていくかも当社のミッションとなる。例えば、インド向け原料輸送や東南アジアなど海外下工程向けの鋼材輸送の競争力強化にも対応していく必要がある」

 「海運市場は、中国への依存が上がる中でボラティリティーを増していくことが予想され、船隊構成の見直しにより企業としての耐性強化は必須」

 「また、新たな展開も必要。低炭素社会に向けた輸送ニーズに応えていきたい。お陰さまでバイオマス燃料輸送は着実に増やすことができている。中継基地からの二次輸送も展開していく」

 「LNG(液化天然ガス)など新しい船舶燃料も実施・普及の段階に移していく必要があり、内航・外航ともに検討している」

 「新しい輸送分野への展開も重要だ。脱炭素化が求められる中、CO2(二酸化炭素)やアンモニアを輸送することも遠景にはある。当面は、内航でのLNG輸送がエネ転などで増えていくのではないか」

■水素製鉄で変化も

 ――鉄鋼原料輸送を取り巻く事業環境の変化をどう展望するか。

 「欧州では鉄鉱石を水素で還元する製鉄プロセスの本格検討が動き出し、米国では従来からのスクラップ電炉や安価なシェールガスの還元剤としての活用がさらに拡大していくだろう。高炉が増えるのはインドと中国だけだが、中国でも電炉の活用、水素で還元する製鉄が研究されている。日本も『ゼロカーボンスチール』(二酸化炭素排出実質ゼロ)を表明し、製鉄で水素を活用していく流れにある」

 「水素製鉄が定着すれば、鉄鉱石の需要は変わらないが、原料炭が減少していく。輸送ニーズにも変化が起こるだろう」

■新規投資は休止

 ――船隊整備の方針は。

 「ケープサイズは現在約50隻。ここ数年、急ピッチで整備を進めてきたため、当面一部のリプレース以外の新規投資は考えていない。特に大型船は一休みして、鉄鋼生産や荷主の動向、中国の海運業界の動きなど、事業環境の大きな変化を踏まえ、船隊構成の在り方や市況に対する耐性をあらためて検証し、必要に応じて対策をとっていきたい」

 ――環境対策で注目している動きは。

 「多くの国が2000年代半ばにカーボンニュートラルを目指すことを表明し、足並みがそろった。日本もこれからエネルギー長期戦略の議論が本格化し、来年のCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)に向けて30年度目標も上積みが検討されるだろう。地球温暖化対策計画とエネルギー基本計画の見直しが整合性をもって展開され、大きなモメンタムになりそう」

 「電力では、JERAが50年に実質ゼロを目指しアンモニアを活用するというビジョンを発表して耳目を集めたが、こういった動きが加速していく」

 「海運でも、先に示されたゼロエミッションに向けた動きが具体化していく。当社としても個社ではできないことも多く、専門の皆さんの協力も得ながら勉強しロードマップ(行程表)を描いていきたい」

 「目先では、IMO(国際海事機関)で検討されてきた懸案の『現存船燃費性能規制(EEXI)』や燃費格付け制度が導入される予定。古い船を中心に出力制御などの対策が必要になる。また今回注目しているのは格付け制度。今後こういった目に見える格付けが広がることにより、荷主による船社の選別が強化されそうである。ESG(環境・社会・企業統治)評価あたりにもつながっていくかもしれない」

 ――新型コロナウイルスの感染拡大で停滞する船員交代の現状は。

 「徐々に交代できるようになっている感触だ。当社で配乗可能な船員はフィリピン人で800人、ベトナム人で400人。自社管理船約40隻には常時800人が乗船している。船員交代は4、5月はゼロ件だったが、6月に70人、10月には130―140人で実施できた。交代ピッチは回復している。ただ、11カ月を超えるような長期乗船者の数は多くはないが、なかなか減らないのも実情」

 「当社は主に日本発着カーゴを取り扱っており、日本で交代することが多い。また、船員供給国フィリピン・マニラ、ベトナム・ニャチャンの港へデビエーション(航路離脱)させ、交代することもある。他の船主配乗の船員と相乗りさせる形で日本からベトナムへのチャーター便(航空機)を手配することもある」

 「乗船前の検査体制でチェックし、船内感染は起こっていない。引き続き、船員の感染対策に努める」

 (随時掲載)

 たにみず・かずお 81(昭和56)年早大政経卒、住友金属工業(現日本製鉄)入社。05年原料部長、12年新日本製鉄(現日本製鉄)と経営統合し参与・原料第一部長、14年執行役員・原料第二部長、16年常務執行役員、18年6月から現職。京都府出身、61歳。