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 印刷 2020年10月29日デイリー版1面

北米航路 想定外の好況】(上)減便一転…供給増追い付かず。「GDPのセオリーは完全に崩れた」

表・グラフ

 アジア―北米航路が今、空前の荷動きに翻弄(ほんろう)されている。新型コロナウイルス感染が世界的に広まった当初、コンテナ船社は荷動き減少に合わせて船腹供給量を調整し、業界を挙げて危機対応に取り組んだ。この結果、リーマン・ショック時のような運賃下落を防ぎ、海運業界の中では危機管理に成功したセクターという評価を得ていた。ところが急回復する荷動きに船腹供給が追い付かず、急回復で需給が逼迫(ひっぱく)して運賃が空前の高値まで上昇。今は安定したスペースを供給できないコンテナ船社に対し、荷主からは不満の声が高まっている。

 「GDP(国内総生産)のセオリーは完全に崩れた」。ある船社関係者はこうつぶやいた。

 かつて、アジア発米国向け定期航路(北米東航)のコンテナ荷動き伸長率は「米国のGDP伸びの3倍」と言われてきた。リーマン・ショック後はこのセオリーから徐々に逸脱しつつあったが、荷動きを占う上でGDPは大きな判断材料の一つだった。

■GDPは2桁減だが

 今回のコロナ禍で米国の4―6月期のGDP(季節調整済み)確定値は前四半期比31・4%減。1947年以降では最大の下げ幅となり、コロナによる米国景気の落ち込みはリーマン以上のインパクトだった。

 GDPがマイナスになって景気後退となれば、「北米東航はリーマン後の2009年以来の前年割れになるのは確実」(船社関係者)だった。当時の北米東航は09年末まで荷動きは低迷。それが回復したのは実質、10年になってから。

 今回のコロナ禍では4―6月が需要の底とみて、各社ともそれに合わせたサービス体制に再編。中国の旧正月休み明けの減便体制を継続させ、欠便などを行って船腹を削減した。

 夏以降は緩やかに回復するものの、リーマン時を考えれば回復には1年ほど、早ければ秋口から何とか浮上できるのではというのが大方の予想だった。

 ところが、回復は想定をはるかに上回るほど急ピッチだった。北米東航の荷動きは5月に前年同月比19%減だったが、6月は7・5%減とマイナス幅は1桁台まで縮小。7月はプラスに浮上し、8月は単月実績が初めて180万TEU超の記録的な荷動きとなった。

■供給は夏から正常化

 このため、当初は欠便や減便などで船腹供給量を絞り込んでいたコンテナ船社は、徐々にサービスを復活させていった。それでも荷況は船社想定を上回り、夏場のピークを過ぎても需給逼迫が継続。例年だと中国・国慶節休みが終わった後は閑散期に突入するが、「国慶節明けの方がむしろ荷物が多い」(船社関係者)という前代未聞の状況となった。

 これにより、アジア各地でロールオーバー(積み残し)が続出するほど需給は逼迫し、北米向けコンテナ運賃は記録的な高値で推移する。

 当初は船腹削減で運賃市況を維持していると批判を浴びたコンテナ船社だが、そうした対応は夏ごろまでだった。確かに最初は減便を続けることで船腹を減らしていたが、7月から徐々にサービス体制を正常化。8月には一部船社が北米航路で臨時船を出すなど、むしろ船腹供給量は通常よりも多かった。

 仏調査会社アルファライナーによると、9月1日時点の北米東航の船腹供給量は前年同月に比べて7%増。またコロナ禍の影響がピークだった5月に比べて、船腹量は10万TEUも増えている。通常サービス体制に戻し、なおかつ臨時船効果もあり、船腹供給はまさにフルスイングだった。

■3カ月で60万TEU増加

 これだけ船腹を投入しても、旺盛な荷動きには追いつかなかった。8月の荷動きは、5月実績に比べて約60万TEUも増加している。日本発米国向けの年間荷動きは約50万TEU。たった3カ月で、日本発米国向けの年間荷動きを上回る物量が増えた計算になる。

 なぜこれほど増えたのか。米国はもともとGDPの3分の2を個人消費が占めるほど購買力が大きく、景気を左右する。新型コロナの関係で消費者の行動は大きく変化したが、旺盛な購買意欲は続いていた。宝飾品など高額商品が苦戦する一方、スポーツ用品や日用品などの雑貨類が好調。1ドルショップ(日本の100円ショップに相当)や量販店など低価格店舗の人気も高いほか、テレワークの定着で木材やペンキ、刷毛、工具など自宅修繕用の品目も好調という。

 こうした安価な雑貨類は中国やベトナムなどアジアからの輸入が中心で、これらが空前の荷動きを下支えする。このほか、これまで米国向け製品の供給先であった南米や欧州のサプライヤーが、コロナ禍もあって疲弊。米国の輸入に占めるアジア発の割合が必然的に高まったことも、荷動き増加の要因の一つと指摘される。

 この空前の荷動き、年内は続くというのが一般的な見方となっている。さらに最近では、年明けの中国・旧正月まで今のスペースタイトな現状に変化はないのではとの観測もある。