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 印刷 2020年10月28日デイリー版1面

インタビュー コロナ下も健闘 油槽船部門】(3)川崎汽船執行役員・中山久氏、LNG燃料化へ弾み

川崎汽船執行役員 中山 久氏
川崎汽船執行役員 中山 久氏

 ――船隊構成は。

 「原油船はVLCC(大型原油タンカー)を6隻、LPG(液化石油ガス)船(VLGC)を5隻運航している。いずれも自社管理船だ。プロダクトタンカー(石油製品船)は、市況影響型事業を縮減する方針に沿って昨年5月にLR(ラージレンジ)2型を返船し同事業からは撤退したのでゼロ。シンガポールの現地法人"K"Line Pte Ltd(KLPL)ではアフラマックスタンカー3隻、ケミカルタンカー3隻を運航している。1隻を除き自社保有・管理している」

 ――船隊整備の方針は。

 「輸送契約に基づいて船を整備することが基本で、貨物の裏付けが不可欠だ。既存の契約をベースに船が古くなれば、リプレースで建造する。現時点での発注残はない」

■次世代燃料視野に

 ――LNG(液化天然ガス)など次世代燃料への取り組みは。

 「今後、VLCCを新造発注する際には、LNGなどの次世代燃料が視野に入ってくる。新しい船型となるため、用船者、造船所双方と綿密に話し合いながら進める必要がある。日本勢ではまだLNG燃料のVLCCの発注はないが、海外では英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルがアフラマックスなどでLNG燃料化の実績がある」

 「一方、LPG船のLPG燃料化は進む予定。燃料供給に問題はなく、LNG焚(だ)きのVLCCの実現を目指すよりもはるかにハードルが低い。今後、LPG船を新造整備する際にはLPG焚きが主力になるだろう。環境負荷を踏まえ、世間的にもそうした潮流になるはず」

 ――LNG燃料供給事業にも参入する。

 「JERA、豊田通商、日本郵船と共に共同出資するセントラルLNGシッピングのLNG燃料供給船『かぐや』が竣工した。10月から伊勢湾でのLNG燃料供給(バンカリング)事業がスタートしている。郵船の10月下旬引き渡し予定のLNG焚き自動車専用船と、本年度中に竣工予定の当社のLNG焚き自動車専用船に対し、燃料供給していく。これまで当社は燃料について購入するだけの立場だった。供給、販売するというのは初めてだ。チャレンジングな取り組みと認識している。バンカリング事業に参画することで、従来の海運業との間での相乗効果も期待している」

 「また、船隊のLNG燃料化に弾みもつくだろう。LNG燃料船を整備する際に課題の一つとして浮上するのが燃料の安定供給だが、自ら供給できる機能を有することでその懸念を軽減できる。バンカリング事業への参画はLNG燃料船整備のモチベーションの一つになる」

■激しい環境変化

 ――昨今の原油船市況の動向をどう分析するか。

 「米国によるイランやベネズエラへの経済制裁、産油国の増減産の動き、新型コロナウイルスによる需要減など取り巻く環境の変化が激しく、ここ1年、市況は大きく変動している。足元(9月下旬)のVLCC市況は中東―極東で日建て8000ドル程度。損益分岐点には至らない低水準だ。『OPEC(石油輸出国機構)プラス』の協調減産の影響で荷動きが鈍化していることが大きい」

■冬場の需要に期待

 ――今後の見通しは。

 「例年、10月以降は北半球の冬場の需要期に入る。在庫の積み増しや製油所の稼働率が上がるので、荷動きの増加を期待したい。ただ、VLCCは、2019年度は前年度比68隻増、今年度(20年度)も45隻増となる見込み。4月に市況が急騰したこともあり、スクラップ(解撤)も進んでいない。貨物が少ない中、船腹量は依然として多く、地合いは強くない」

 ――プロダクトタンカー市況については。

 「前述の通り、当社は昨年LR2型を返船し、プロダクト船事業から撤退した。そのため、プロダクト船のスポット用船市況はあまり追いかけてはいない。ただ、アフラマックスやケミカルタンカー市況にも関連するので、全体的な流れは引き続き注視していく」

 ――フリー船などエクスポージャー(市況変動にさらされる部分)の現状は。

 「グループ全体としてはKLPLでアフラマックスの一部とケミカルタンカーで数隻ある程度だ。当社は定期用船(TC)で日本の石油・LPG会社向けに安定的な輸送サービスを提供する方針。日本のお客さまとは3、5、7年などの期間用船が中心だ。更改期に足元のスポット市況の影響を多少受けるが、期間中の用船料はそう大きくは変動しない。今後も自社管理船によるきめ細かいサービスを軸に安全運航を継続していく」

 ――化石燃料から再生可能エネルギーへの転換など、取り巻く事業環境の変化が予想される。対応方針は。

 「化石燃料から再エネへの転換は海運業界だけでなく、あらゆる産業も影響を受ける大きな流れだ。当社も今年6月に『〝K〟LINE環境ビジョン2050』を改訂し、環境負荷のさらなる低減と先進技術の研究・導入を進めていく。次世代燃料の一つである水素についても、水素社会の実現に向け、世界初の液化水素運搬船の実証実験に協力していく」

 「最新の国際エネルギー企業BPのエナジーアウトルックでは、『石油需要が絶え間なく右肩上がりで拡大する時代は終わった』と報告されている。ただ、これらが突然なくなるわけではない。人々の生活や経済活動で石油やガスの果たす役割は依然大きく、世界中に輸送需要がある限り、当社は安定的な物流を提供し続ける」

■船員交代改善へ

 ――新型コロナウイルスの感染拡大で停滞する船員交代の状況は。

 「交代地の規制も日々一進一退を繰り返している。海務部門、船舶管理会社と共に感染防止に努めながら、交代スケジュールを組み、何とか対応している。当社グループが配乗を手掛ける船員は約4000人。そのうち乗船期間が10カ月を超える者が足元では690人程度だ。一時1000人はいたので、徐々に減ってきている。交代できる環境が徐々に回復しているということだ。また、フライトが停滞しているため、フィリピン・マニラやインドなどに直接寄港し、当該国の船員の乗下船を図る取り組みも行っている」

 「こうした船員国へのデビエーション(航路離脱)を実施するには、事前に荷主の理解を得る必要がある。荷主の方でも報道などで船員交代が滞っている現状について理解いただいている。そのため、前広に話すことでデビエーションは認めていただけることが多い。中でもVLCC(大型原油タンカー)は中東―極東航路に従事しており、フジャイラ(アラブ首長国連邦)、スリランカ、インドなど交代地周辺を航行している。デビエーションも短い距離にとどまるので、荷主からの理解も得やすい」

=おわり

 (この連載は鈴木隆史が担当しました)

 なかやま・ひさし 91(平成3)年川崎汽船入社。営業第二部(現自動車船部門)企画調整課、03年7月“K”Line International (U.S.A.), Inc.、11年10月"K"Line Pte Ltdシンガポール、17年4月油槽船グループ長、20年4月から現職。