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 印刷 2020年10月26日デイリー版2面

国内船主の今】(239)融資残高、過去最高の謎。コロナ…管理コスト急増

 「主要な地方銀行の船舶融資残高が軒並み過去最高となっている。これが何を意味しているか分かるか」

 19日、東京近郊の喫茶店。海運ブローカーが鋭く質問してきた。

■特定船主に集中

 四国地方では伊予銀行、愛媛銀行、中国地方では広島銀行、山口フィナンシャルグループ、九州地方では福岡銀行。

 船舶融資で実績の高い地銀は昨年比で融資残高を増額しているか、過去最高となっている。

 年初から新型コロナウイルスに海運不況が加わり、「ほとんど新造案件がない」(商社船舶部)。このような状況にもかかわらず、なぜ融資残高は増加しているのか。

 前述の海運ブローカーが続ける。

 「日本の造船所は中型バルカーなんて全く受注していない。地銀の残高が伸びているのは単純に大型船が増加しているからだ。メガコンテナ船やケープサイズなどの大型バルカー。こういう船舶を保有できる船主は限られている。逆に言えば、業界全体の融資が伸びているのではなく、一部の特定船主への融資が増加しているという現象だ」(在京ブローカー)

 地銀関係者が続ける。

 「地銀の融資増加は新造船の竣工も影響しているが、メガバンクの動向も気になる。海外オペレーター(運航船社)の用船料の減額などで、一部のメガバンクは船主や海外オペからのリスケ(返済計画の見直し)要請に強硬に反対している。メガバンクがメガコンテナ船などの融資に応じなければ、地銀が融資するしかない」(船舶融資担当者)

 現在、水面下ではLNG(液化天然ガス)船の融資案件が複数浮上している。

 LNG船は1隻当たりの船価相場が約200億円と外航船の中で最も高い。従来はプロジェクト・ファイナンス(PF)によるオフバランス(簿外債務)での融資が主流だったが、最近はプロジェクトの輸送契約期間が短くなりPFが組成できない状況にある。

 地銀関係者が続ける。

 「本来、地場産業の育成から発展してきた地銀の船舶融資だが、もはや海外オペ、LNG船、メガコンテナ船と何でもありだ。金融庁も、地銀が海外案件であっても収益基盤の拡大につながるのなら歓迎している。しかし、リスク管理となると地銀自体の実力が追い付いていない」(船舶融資担当者)

 地銀の船舶融資は船主経済圏を取り巻く環境の変化を映す鏡でもある。

■オペからクレームも

 「船舶管理会社に支払う費用が数千万円単位で増加している」

 10月上旬。地方都市でも東京出張が解禁となったことで、中手船主が最近の新型コロナウイルスに伴う影響について取材に応じた。

 同船主が続ける。

 「船員交代ができる地域が限られるから、オペの許可をとってデビエーション(迂回〈うかい〉)せざるを得ない。当然、その期間はオフハイヤー(用船料なし)だ。さらに、定期検査のドック期間も長引いている。1隻だけで船員交代を中心とした船舶管理コストが年間10万ドル(約1050万円)を超すケースさえある」(今治船主)

 状況は邦船オペも同じ。チャータラー(用船者)の立場なら船主の船舶管理費用は関係ないが、自社船の管理、船員交代に関しては船主と同じ立場になる。

 邦船関係者が話す。

 「日本人船員が関東地区で下船したケースでは、公共交通機関が使えないので、会社で手配したハイヤーを用意した。日本人船員の自宅は青森方面。ハイヤー代金は20万円以上かかったが、送迎するしかない。新型コロナでこうした会社の追加負担コストが非常に増えている」

 フィリピン人を中心とした外国人船員の交代、同時に日本国内での船員の移動費。「できれば一般管理費でなく、特別損失として計上したいくらいだ。まさに新型コロナによる一過性の費用なので、本音としては経常損益に影響させたくない」(専業系オペ関係者)

 新型コロナで船員交代の窮状が叫ばれる中、邦船オペ、日本船主が追加負担する船舶管理コストの増加は無視できないレベルまで増加している。

 日本船主が話す。

 「船舶管理コストが増加したからといって、オペが用船料を上乗せしてくれるはずもない。むしろ、デビエーションによって積み地に遅れることがあれば、オフハイヤーどころか、厳しいクレームが来る。オペ、船主とも、船舶管理の追加コストを巡って合意できるような状況にない」(中手船主)

 誰もが「犠牲者」と感じる船舶管理コスト負担。オペ、船主間の取引関係についても微妙な影を落としつつある。

(国内船主取材班)

=毎週月曜掲載