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 印刷 2020年10月23日デイリー版1面

本格始動 各社の未来図―無人運航船プロジェクト】井本商運、内航コンテナ船 課題抽出

「MEGURI2040」
「MEGURI2040」
大橋取締役
大橋取締役
井本社長
井本社長
実証実験が行われる749 総㌧型「みかげ」
実証実験が行われる749 総㌧型「みかげ」

 内航フィーダー輸送最大手の井本商運(本社・神戸市、井本隆之社長)は船の運航面でのデジタル化対応を積極的に進める。その一環として、安全運航レベルの向上、乗組員の労働負担軽減を目指すため、日本財団が支援する無人運航船の実証実験に参画し、同社運航船での実証航海を2021年から22年にかけて行う。課題を洗い出し、自律運航実現を目指す。

・安全運航の向上

・省人化も見据え

・労働環境改善へ

 井本商運と関連会社の井本船舶は、商船三井を筆頭とする企業コンソーシアムに参加。井本商運が運航する749総トン型内航コンテナ船「みかげ」(井本船舶所有)で、古野電気による周囲認知技術や、三井E&S造船による避航操船・離着岸自動化技術をそれぞれ活用した実証実験を行う。実証前には商船三井グループのMOLマリンのシミュレーターでの自律化の機能検証も実施。本試験を前に21年中に数回の試験航海後、22年2月に敦賀(福井県)―境港(鳥取県)航路の営業航海中に試験本番となる。本番時にはドローン(小型無人機)の開発などを手掛けるA.L.I.テクノロジーズが新たに開発するドローンを用いた係船支援技術の実証も行われる。

 井本商運は一連の実験を確実に遂行するため、同船に乗り組む船員が実験で気づいた点などをメーカーへ提言・助言する役割を担う。現在、「みかげ」の船長・機関長には実験の詳細などを説明。コンソーシアムメンバー企業で行う会議には、同社の関係する社員も参加し、プロジェクトの意義や実験上の要点理解を図る取り組みを進める。

 井本商運では17年から安定運航、安全航海体制構築を目的に自社船員採用を開始。毎年新卒者と中途者の採用を続け、現在34人の船員が社船3隻に配乗されている。

 内航海運では船員不足が深刻だ。労働環境が厳しく退職者も多いため、働きやすい環境に変え、安全運航を担うことができる船員の安定的な確保が必要な状況となっている。

 井本社長は「無人運航船プロジェクトを通じて、安全航海を確立させることをまず期待したい」という。その上で、「安全運航が担保された中で、当直無人化(一部)による船員の労働時間削減、労働環境改善につなげたい。『船員になって良かった』と思ってもらえるような環境をつくる。それらの実現に向けた課題を実証実験であぶり出していきたい。将来的には省人化も図れれば」と話す。

 今回のプロジェクトを担当する大橋郁取締役は「自律運航の取り組みが進展し、機械に任せられる仕事が増えて労働環境が改善されれば船員確保はしやすくなる。船員不足問題が要因ともなる安全運航の質の低下を食い止められる。事故件数削減で荷主の信頼も高まり、内航海運の潜在的な荷主を掘り起こしモーダルシフトを促しやすくなる」と強調する。

・離着岸の安全性

・デジタルで成果

・通信環境改善を

 内航コンテナ船は1日に離着岸を何度も繰り返す航海もあるのが特色だ。その離着岸を『無人で安全にスムーズにできるか』という点も今回の実験の大きなテーマだ。その点は三井E&S造船が行う実証実験で実現性や安全性などを確認する。大橋取締役は「離着岸に関する技術革新がなければ、最終的な省人化は実現できない」と訴える。

 同社ではこれまでも、船のデジタル化への取り組みを積極的に行ってきた。運航船5隻のエンジンには、「高度船舶安全管理システム」を導入し、主機関データをインターネット経由で24時間陸上監視するシステムを確立し、機関部の人員削減を実現させた。さらに定時性と経済性を両立させる最適航海計画を立てる航海支援システム「eE-NaviPlan」も一部運航船で採用している。

 デジタル化への取り組みを推進してきた同社にとって、プロジェクトを通じた無人運航船実現への期待は大きい。大橋取締役は「プロジェクトで、無人運航は遠い未来の絵空事ではないことを証明する第一歩となる。無人化と安全性向上を同時に進めていくことができる」と話す。

 一方で、内航海運でのデジタル化へ向けて内航船の通信環境の脆弱(ぜいじゃく)さは高いハードルだ。船陸間のコミュニケーションは内航船が陸地から近い海域を航行するケースも多いため、携帯電話で行うことが一般的。しかし、多くの船員が使っている第3世代(3G)の携帯電話のサービスは20年代半ばまでには終了する。井本社長は「日本国内で広く利用されている第4世代(4G)の携帯電話を使った場合は陸上からの電波の届く距離が短いため、通話できない海域も増える。デジタル化を進める上で通信環境改善は必要不可欠」と強調し、国など関係者に早急な対応を求める。海上での通信環境改善がデジタル化進展への鍵となる。

(随時掲載)