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 印刷 2020年10月20日デイリー版1面

インタビュー 次世代の船主経営】共栄タンカー社長・高田泰氏、安全運航がESGの原点

共栄タンカー社長 高田 泰氏
共栄タンカー社長 高田 泰氏

 VLCC(大型原油タンカー)による原油輸送を中核事業とする共栄タンカー。経営環境が厳しさを増す中でも、シンガポール拠点での自営運航や小型LPG(液化石油ガス)船への参入など新しい事業に果敢に挑戦している。高田泰社長にコロナ禍での舵取りを聞いた。(聞き手 山田智史)

 ――現在の経営・事業環境の認識は。

 「船主業を取り巻く環境は厳しい。バラスト水処理装置など、環境規制に伴う費用負担が増している。そこへ新型コロナウイルス感染拡大の影響が追い打ちを掛けた。船員はようやく交代できるようになった。だが、交代のために船員供給国に寄港する機会が増え、それに伴うオフハイヤー(不稼働)と燃料費用が重しとなっている」

 「今期は保有船9隻が定期検査などでドック入りする。新型コロナ問題でドック入りできない状況が続いたが、6月下旬から入れるようになった。シンガポールの修繕ヤードにエンジニアを派遣できるようにもなった。ただ平時と比べると入渠期間が長期化し、ここでもオフハイヤーが発生し収益を圧迫している。今期の業績は厳しくなる」

 ――昨年10月にシンガポール法人を設立した。

 「今後もコスモ石油と日本郵船向けのVLCCの長期貸船が事業の核であることは変わらない。それら日本の顧客との強固な関係を基に、海外顧客との商売も増やしていき、新たな事業の柱を育成したい。シンガポールに進出したのは荷主が集積しているためだ」

 「まず日本からパナマックスバルカー2隻とMR(ミディアムレンジ)型プロダクト船1隻をシンガポール法人に移管する。移管作業は10月までに終える。2022年3月に旭洋造船で竣工する小型LPG船もシンガポール法人が保有し、海外顧客向けの長期契約に投入する予定だ」

■次世代エネ見据え

 ――小型LPG船は新しい分野になる。

 「将来のエネルギーの主役は、水素やアンモニアなどが有力視されている。そこに至る過程で、環境負荷の少ないLNG(液化天然ガス)やLPGの需要増加が見込まれている。LPGは原油だけでなく、LNGの随伴エネルギーでもある」

 「LPG船はニッチな分野でプレーヤーが限られる。市況のボラティリティーも小さく、安定的な収益が見込まれる。また、LPG船はアンモニア輸送船と構造が近い。アンモニアが次世代エネルギーとして台頭してきた際に対応できる」

 ――現在の船隊は。

 「保有船は15隻。内訳はVLCC5隻、LR(ラージレンジ)2型プロダクト船2隻、VLGC(大型LPG船)2隻、MR型1隻、バルカー5隻。発注残はVLCC2隻と小型LPG船1隻」

 「VLCCは顧客の意向次第ではあるが、7隻体制に拡大する可能性もある。船舶管理はVLCC5隻とLR2型1隻が自社管理で、それ以外は第三者の船舶管理会社に委託している」

 ――ESG(環境・社会・企業統治)が社会の要請だ。

 「ESGの基本、原点は安全運航だと思う。海運業はもともと社会貢献度の高い事業で、安全が損なわれれば社会に貢献できないばかりか環境汚染にも直結する。当社の規模では経営資源も人材も限られる。当社にふさわしい形でESGを推進していく。他社が採用しているものの中からベストプラクティスを採用することが現実的なアプローチになる」

■人的要因の事故減

 ――安全運航に向けた具体的な取り組みは。

 「フィリピンのマニラで年6回、船員向けのセミナーを開催している。監督による訪船検船に加えて、コンサルティング会社の検査官による航海検船も実施し、安全文化の醸成に努めている。地道な取り組みを継続してきた結果、ヒューマンエラーに起因する事故は30%程度まで下がった。半面、機器類の不具合に起因するトラブルが目立つようになってきた」

 「そこでJRCS(山口県下関市)が開発した『インフィニティアシスト』という新たなデジタルソリューションの導入を検討している。熟練海技者の知見をデータ化し、機関や航海計器などの不具合が発生した時にクラウド経由で対処法が示されるソフトウエアだ。機械的要因によるトラブル減少を期待している」

 ――デジタル技術も積極的に採用している。

 「大画面ディスプレーに表示された電子海図に手書きで書き込める航海情報管理システムを導入している。ECDIS(電子海図表示装置)と同期しており、手書きの情報もECDISに表示される。航海計画立案の効率化と船員の負担軽減に寄与している。サイバーリスクへの備えも重要だ。セキュリティープランの作成や海陸双方の教育などに取り組んでいる」

 「環境関連の取り組みでは、電子制御主機関を採用している効果が大きい。VLCCの燃料消費量は、機械式だと1日当たり100トン程度で、電子制御式だと80トン程度に抑制できる。その分、CO2(二酸化炭素)排出量も削減できる。電子制御主機関の搭載は11月に竣工する新造VLCCで5隻目になる。そのほかフロン規制にも前倒しで対応している」

 たかだ・やすし 79(昭和54)年早大商卒、日本郵船入社。02年NYKライン(インディア)社長、04年NYKバルクシップ(アジア)社長、08年経営委員、10年共栄タンカー常務取締役、12年代表取締役専務取締役、17年6月から現職。東京都出身、63歳。