MariTech Webinar Japan 2020 <日英同時配信>
 印刷 2020年10月15日デイリー版1面

インタビュー コロナ下も健闘 油槽船部門】(2):商船三井常務執行役員・小池正人氏。船隊整備 慎重・機敏に

商船三井常務執行役員 小池 正人氏
商船三井常務執行役員 小池 正人氏

 ――近年、原油船市況の変動が激しい。どう分析するか。

 「まず今年の春先から足元までを振り返る。3月、OPEC(石油輸出国機構)プラスによる協調減産がサウジアラビアとロシアとの間で交渉決裂となり、サウジが一転して大増産に舵を切った。新型コロナウイルスによる石油需要減退も重なり、原油価格が急落。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格は一時マイナスを記録した」

 「この原油価格の大幅な下落で、実需とは異なる買いだめが発生。先高を見据えたコンタンゴプレーの機運も醸成され、トレーダー勢を中心に大規模な洋上備蓄(ストレージ)需要が喚起され、船の取り合いが起こった。船腹の需要が上向き、オーダーが殺到、一時VLCC(大型原油タンカー)の運賃は日建て20万ドル超にまで達した」

 「だが、4月に入り、原油価格低迷を打開するべく、OPECプラスが5月以降大規模な協調減産に踏み切ることに合意。産油国出しの荷動きが弱まり、市況は落ち着きを見せ始めた。ただ、3月以降に洋上備蓄で起用された船は契約期間を終えるまで半年程度はかかる。すぐにこれらが用船市場に戻ってくるわけではなく、しばらくはタイト感が維持された。そのため、減産が続く中、6月に入ってからも損益分岐点を上回る日建て5万ドル程度で推移した」

 「だがその後、減産が本格化すると、中東出しの貨物は顕著に減り始めた。石油価格の先高もなく、洋上備蓄需要も一巡。これまで洋上備蓄されていた船も契約期間を終え、リリースされ、船腹需給は悪化、運賃は一気に落ち込んだ。8月末時点でVLCCの運賃は中東―極東で日建て約8000ドルにまで低迷した。その後船主勢の反発に加え、米国や西アフリカ出しアジア向けのロングホールの成約が立て続けに発生し、中東―極東でWS(ワールドスケール)40、日建て約2万5000ドルには戻った。だが、その後は再び軟化し、足元(9月下旬)では1万数千ドルとなっている」

■1年物・3万ドル表面化

 ――今後の見通しは。

 「中国の製油所の処理量はコロナ前の水準にまで戻っている。中国沖の洋上備蓄、滞船は徐々に解消されるだろう。協調減産は依然として不安要素だが、各国の経済活動の回復も考慮すると、市況は快方に向かうのではないか。これから冬場のピークシーズンに入るのも好材料だ。現に足元では1年物の期間用船で日建て3万ドル前後という成約が複数表面化している」

 ――船隊整備の方針は。

 「発注残はメタノール船で一部既存船の入れ替えを予定。VLCCでは11月と来年第1四半期に各1隻の計2隻の竣工を予定している。コロナ禍でもあり当面、海上輸送量の大きな増加は見込みにくいが、常にリプレース需要はある。足元では様子見が基本だが、一方で機を見て積極的に動くことも重要と考える。慎重かつ機敏に対応する」

■タンカーで風力推進

 ――LNG(液化天然ガス)燃料化の可能性は。

 「環境負荷低減の観点からLNGを含む二元燃料化には大変関心を持っている。現に当社は5年前の時点で、世界初のメタノール燃料のメタノール船を竣工させた実績がある。LNG燃料化も世界のメジャーは取り組んでいるし、われわれも検討は行っている。LPG燃料船も同様だ」

 「また、以前から風力による推進『ウインドチャレンジャータンカー計画』を実施したら面白いと思っていた。南米・カリブ海―インド・中国などアジアの喜望峰経由航路などは風力活用に適しており、タンカーでも可能と考えていた。コロナ禍や燃料油価格の下落もあるが、今後検討を進めていきたいと思っている」

 ――化石燃料から再生可能エネルギーへの転換といった事業環境の変化が進んでいる。

 「当社全体としてはLNG・再エネなどの成長分野に重心をシフトし、経営資源を投入する。タンカーのセグメントでは、エネルギー資源輸送、液体貨物輸送に長年従事してきた。この経験・知見を生かし、環境変化に即した新たな事業の在り方を模索していく。潮流の変化を捉え、しっかりと舵取りをしていきたい」

 「また、地球環境を含む安全の追求も重要だ。当社が用船していたケープサイズバルカー『WAKASHIO』のモーリシャス沖での座礁、燃料油流出事故では大変なご迷惑をおかけした。事故を再点検し、再発防止に努めるなど、タンカー部門としてもより気を引き締めていきたい」

 ――プロダクト(石油製品)船市況については。

 「今年上旬、コロナの感染拡大で、アジア域内の石油製品の需要が減少した。特に中国で使い道のない石油製品が増え、中国からの輸出が活発化し、プロダクト船市況は上昇した。仕向け地はインドや中東など当時まだ感染の広がっていないところが多かった。だが、3月の協調減産決裂で石油製品の価格が大幅に下落し、コンタンゴプレーが盛んになった。その後も世界的なロックダウン(都市封鎖)で陸上での在庫が積み上がり、洋上備蓄需要が強まり、4月に市況が急騰した。原油船と同様のことがプロダクト船でも起こった」

 「LR(ロングレンジ)1型では日建て11万ドル、MR(ミディアムレンジ)型では同7万ドルなど高値を付けた。5月からの協調減産が決定すると、石油製品価格はこれまでと反転し、洋上備蓄需要も減退、運賃市況は軟化した。6月以降、ロックダウンが段階的に解除されると、ジェット燃料を除く石油製品需要が徐々に戻り始めたが、各国の製油所は定期修理もあり稼働が停滞。荷物がなく市況の下落基調は進んだ」

 ――今後の見通しは。

 「夏場からの中東での定期修理開始で本格回復には至っていない。だが、徐々に各国の経済活動は再開している。石油製品需要もじきに戻るだろう。冬場のヒーティング需要にも期待している。ただ、これまで洋上備蓄に充てられていた船が戻ってくるので、急騰というシナリオは考えにくい」

■製品船の減船一服

 ――船隊構成は。

 「当社グループのVLCC(大型原油タンカー)の支配船は33隻。そのうちフリー船は1隻。アフラマックスはシンガポール子会社のフェニックスタンカーズで3隻運航し、フリー船はない。プロダクト船は以前、70隻規模を有していた。今は20隻超と3分の1以下。返船や売船で減船していった。減船は一段落したと考えている。MR型は12隻で6隻が海外荷主に定期貸船(TCアウト)し、残る6隻はAMT(アサヒエムオーエルタンカーズ)の運航プールに投入している。同プールの運航規模は二十数隻。極東・アジア圏をターゲットにしたもので当社からも人員を派遣している。LR1型は6隻。うち3隻がTCアウト、残り3隻をシンガポール船社BWと統合したデンマーク船社ハフニアとのプールに投入している。LR2型は3隻で全てTCアウトしている」

 「ケミカル船は88隻と一定のボリュームがある。デンマークのノルディックタンカーズを昨年買収し、船隊規模がさらに拡大した。MOLケミカルタンカーズでさまざまな種類のケミカルを小口輸送している。COA(数量輸送契約)が多く、手堅く損益を確保している。当社は『ケミカル総合物流企業』を標榜(ひょうぼう)し、タンクターミナルやタンクコンテナ事業への参入も積極的に進めている」

 「メタノール船は21隻。全て海外荷主へのTCアウトだ。世界最大規模の運航船隊を有している」

 「LPG(液化石油ガス)船ではVLGC(大型LPG船)9隻を運航。5隻がTCアウト、4隻がギリシャ系LPG船社のドリアンLPGとのプール『ヘリオスLPGプール』に投入している。LPGは民生用が多く、需要が底堅い」

■航路離脱一時検討

 ――新型コロナの影響で停滞する船員交代の状況は。

 「6月から順次再開している。7月は例年並みかそれ以上の交代を実施できた。引き続き、長期乗船の解消にはまだ時間を要する見込みであるが、船員交代の停滞による損益への影響は軽微だ」

 「タンカーでは、インドの石油化学大手リライアンス向けの原油輸送で中東―インド西岸に従事するものの中で、欧州船員の下船で一時対応に苦慮したことがあった。中東とインドいずれも交代できない状況が続き、シンガポールまでデビエーション(航路離脱)することも考えていた。だが、その後、中東フジャイラでの下船が可能になり、問題は解消されている」

(随時掲載)

 こいけ・まさと 85(昭和60)年神戸大経営卒、大阪商船三井船舶(現商船三井)入社。14年油送船部長、16年執行役員エネルギー輸送営業本部油送船部長、18年現職。62年9月生まれ、58歳。